まず押さえたいこと
- 活動を数える指標と成果を確かめる指標を対応づけ、どこで仕事が止まっているかを考えます。
- 測定の精度だけでなく、判断に間に合う時期と、各部門が動かせる仕事へのつながりを確かめます。
- 戦略マップは、部門が異なる見方を持ち寄り、指標や仮説を書き換える場にもなります。反復する会議で、何を変更できるかまで確かめます。
回収量が増えた。その先の仕事は変わったか
使用済み製品を回収し、修理して再び販売する事業を考えてみます。回収台数は増えましたが、倉庫には修理待ちの製品がたまっています。営業は「回収目標を達成した」、修理部門は「状態の悪い製品が多く、作業が進まない」、経営側は「まだ利益が出ない」と言います。これは、以下の論点を考えるための架空の例です。
この会社に必要なのは、回収量をもっと細かく集計することだけでしょうか。回収の条件、修理できる設計、部品の確保、再販売の需要をつなげて考える必要があります。同じ数字を共有していても、次に誰が何を変えるかが決まるとは限りません。
本記事では、サーキュラーエコノミー(circular economy:CE)と業績指標に関する6本を重ねて読みます。焦点は、重要業績指標(key performance indicator:KPI)の選び方に加えて、その情報が届く時期と、仕事や評価への使われ方です。戦略マップを共同で書き換える研究も重ね、測定結果から目標や仮説へ議論を返す過程を考えます。ここで示す整理は、異なる研究から考えた実務上の読み方であり、6本を通じて検証済みの導入手順ではありません。
6本は、それぞれ何を調べた研究か
これらの論文は、KPIの効果を同じ方法で測ったものではありません。実態を調べた研究と、企業と一緒に仕組みを設計した研究を組み合わせることで、「何を測るか」から「どう使うか」まで見通せます。
| 論文 | 研究の方法 | この記事で読む問い |
|---|---|---|
| Negriら(2026) | イタリア製造業の中小企業12社の質的調査 | 取り組みと評価指標は対応しているか |
| Dasら(2022) | 29件のインタビューと39件の質問票回答 | 測定結果は設計変更に間に合うか |
| Marrucciら(2024) | 食品メーカーでの1年間の共同設計 | 全社目標を部門の仕事と評価につなげられるか |
| Santolinら(2026) | 産業機械メーカー1社での指標・戦略マップの検討 | 現場の取り組みは事業成果にどうつながるか |
| Busco & Quattrone(2015) | 石油・ガス企業1社の49回の聞き取り、会議・研修の観察と資料 | 異なる部門が戦略マップをどう書き換え、検討を続けるか |
| Jordan & Messner(2012) | 製造業での縦断的な現場研究 | 不完全な指標が、なぜ仕事を助けも縛りもするか |
Negriら、Dasらで測定の対象と時期を確かめ、Marrucciらで部門の役割へ、Santolinらで戦略の仮説へ進みます。BuscoとQuattrone、JordanとMessnerを重ねると、その設計を会議で誰が変更できるかまで読めます。後の2本はCE自体の研究ではなく、管理の運用を理解するために参照します。Dasらの巻号上の刊行年は2022年です。
活動の数字と、成果を確かめる数字を結びつける
Negriらは、各社のCEの実践と、その実践を評価する指標を対応づけて調べています。資源効率や廃棄物削減の取り組みはあっても、成果の評価が基本的な経済指標に偏ったり、実践に対応する評価がなかったりしました。取り組みを数えることと、その成果を確かめることの間に隙間があります。
冒頭の例なら、回収台数は活動の広がりを示します。しかし、それだけでは、どれだけ再使用できたか、使用期間が延びたか、環境負荷が下がったかは分かりません。回収後の再使用率、修理待ち期間、再販売後の不具合などを対応づけると、途中で止まっている仕事を探せます。
ただし、数字を増やせば解決するわけでもありません。まず「回収を増やすことで、どの変化を期待していたか」を明らかにします。再使用に至らない理由を知りたいなら、その理由を分けて記録することに意味があります。そのうえで環境面の成果を確かめるには、輸送や修理なども含めた影響評価が別に必要です。
精密な測定でも、判断の後に届けば使いにくい
Dasらの研究が加えるのは、測定のタイミングです。データ不足や知識不足に加え、大企業でも、環境影響を評価する専門家と設計担当者の間に隔たりがあり、設計の終盤に結果が出るため、その設計段階で改善に生かせないという問題が報告されています。測れることと、判断に使えることは別です。
回収・再使用の事業でも、全国展開した後に輸送負荷の大きさが判明するより、試行段階で回収範囲やまとめて運ぶ条件を比較できた方が、事業の形を変えやすくなります。ライフサイクルアセスメント(life cycle assessment:LCA)の担当者が、設計担当者と前提条件を確かめる時点を持つことが論点になります。
ここから考えられる運用は、初期には推計の幅と仮定を示して選択肢を比較し、実際の回収量や故障状態が分かるたびに見直すことです。粗い推計を確定した成果として発信するのではなく、どの条件が変わると判断も変わるかを探す情報として使います。
全社目標を、各部門が動かせる仕事まで下ろす
測定結果を早く共有しても、修理部門だけに再使用率の責任を負わせると、仕事はつながりません。修理のしやすさには設計が、回収品の状態には営業や回収の条件が、部品の入手には調達が関わるからです。
Marrucciらは食品メーカーの16部門と指標を検討し、データの入手可能性や重要性に加えて、その部門が指標の値に影響を与えられるかを確かめました。候補は304から208へ、最終的には57指標へと絞られています。全社の上位指標、それを説明する指標、複数部門が管理する指標を組み合わせ、目標達成の行動計画を経営側に示す仕組みを設計しました。
この考え方を回収事業に応用するなら、再使用率を共通の成果として見ながら、設計は分解のしやすさ、調達は交換部品の欠品、回収担当は受入基準を外れた製品の割合を確認する、といった分担が考えられます。単独の部門では変えられない問題には、合同で判断する場が必要です。
原著では部門長の金銭的な報酬に結びつける目標管理(management by objectives:MBO)も設計しています。ただし、これは報酬を導入すれば行動や環境成果が改善する、と実証した研究ではありません。実際の効果の評価は、その後の課題として残っています。
戦略マップを、仮説を持ち寄って書き換える場にする
Santolinらは、循環型バランスト・スコアカード(circular balanced scorecard)を用い、能力、業務、顧客、財務の関係を戦略マップに整理しました。費用を抑える道筋と、顧客への提案を高めて売上につなげる道筋を分けています。回収品の例なら、分解しやすい設計による修理費用の低下と、品質保証による販売増加は別の仮説です。一方が進んでも、他方が進むとは限りません。
では、その地図に現場の経験をどう戻すのでしょうか。BuscoとQuattroneの石油・ガス企業の事例では、担当者が新しい指標を試作し、月次の会議へ持ち込み、議論を受けて作り直していました。研修で技術側が示した戦略マップに、財務側がプロジェクト費用や予算内での完了といった指標を書き加える場面も描かれています。
同じ図を使っていても、参加者の解釈が一つにそろったわけではありません。同じ図の形式を使いながら、異なる部門が自分たちの知識と懸念を持ち込めることが、継続的な検討を支えました。月次レビュー、四半期の予算との合同レビュー、年次の研修などが、その機会を繰り返し作っていました。
両論文をつなぐと、マップの矢印を整理することに加え、誰が矢印を問い直し、指標を改訂できるかが見えてきます。ただし、Santolinらは因果効果を統計的に検証しておらず、BuscoとQuattroneも、対話による財務・環境成果の改善を測った研究ではありません。検討の継続と、成果の改善は分けて確かめます。
同じKPIでも、経営側の使い方で意味が変わる
共同で指標を考える場があっても、使い方が変われば判断の余地は狭まります。JordanとMessnerの事例では、現場の管理者は当初、指標が仕事のすべてを表さなくても、他の知識で補いながら柔軟に使っていました。ところが、報告の強化、達成期限の短縮、工場間比較などによって評価圧力が高まると、指標の不完全さが切実な問題になりました。
仕事を助ける管理(enabling control)と、仕事を過度に縛る管理(coercive control)の違いです。BuscoとQuattroneでは、指標が未完成だからこそ提案を持ち寄る余地が生まれました。JordanとMessnerを重ねると、その余地が実際の評価場面でも残っているかを問えます。会議の開催や社員の参加だけでは判断できません。
CEへの応用なら、新しい製品の試験受入れで再使用率が下がったとき、通常業務の成果と試行で得た知識を分けて説明できるかを確認します。これは成果確認の免除や、未達に合わせた都合のよい目標変更ではありません。指標の定義と変更理由を記録し、比較できる実績を保ちながら、仮説や評価の仕方を検討することです。Marrucciらの報酬設計も、この運用とあわせて読む必要があります。
次の会議では、数字の横に「変える判断」を置く
6本から考えられる出発点は、既存のKPIを一つ選び、その数字を見た直近の会議を振り返ることです。説明のために集めたのか、選択肢を比べたのか、担当者を評価したのか。同じ表を使っていても目的は異なります。
- 何を変えたいか:回収件数、再使用の実現、環境負荷、事業収支のどれを確かめる数字か。
- いつ、誰が使うか:契約や設計を変えられる時期に、判断する人へ届いているか。
- 誰と動かすか:担当部門だけで変えられるか。連携先にも対応する仕事と情報があるか。
- 想定と違ったらどうするか:異なる部門が戦略マップに書き込み、指標の定義、仮説、評価の仕方を見直せるか。
回収量は増えたのに修理待ちが減らないなら、営業と修理部門でマップを見直し、受入基準、部品供給、作業能力のどこを確かめるか決められます。これは6本から考えた応用です。改訂前後の図と決定理由を残せば、会議を繰り返すことが、回収条件、設計、予算、役割の変更につながっているかをたどれます。
対象論文と個別解説
Are SMEs Claiming to Be Circular, Actually Circular? An Empirical Study on the Implementation and Performance Evaluation of Circular Economy Practices
Marta Negri, Alessandra Neri, Enrico Cagno, Vikas Kumar, and Anabela Soares(2026) · Business Strategy and the Environment
How do companies measure and forecast environmental impacts when experimenting with circular business models?
Ankita Das, Jan Konietzko, and Nancy Bocken(2022) · Sustainable Production and Consumption
Creating environmental performance indicators to assess corporate sustainability and reward employees
Luca Marrucci, Tiberio Daddi, and Fabio Iraldo(2024) · Ecological Indicators
Transition of Manufacturing Companies towards the Circular Economy: The Role of the Balanced Scorecard Approach
Rodrigo Bruno Santolin, Valentina Lazzarotti, and Andrea Urbinati(2026) · Circular Economy and Sustainability
Exploring How the Balanced Scorecard Engages and Unfolds: Articulating the Visual Power of Accounting Inscriptions
Cristiano Busco and Paolo Quattrone(2015) · Contemporary Accounting Research
Enabling control and the problem of incomplete performance indicators
Silvia Jordan and Martin Messner(2012) · Accounting, Organizations and Society
原著本文に基づく読み合わせ · 2026年9月13日
複数論文のつながり、仮想例、実務・研究への問いは本欄の考察です。