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CEのKPIを、経営の判断につながる見取り図にする

循環型の仕事、顧客への提案、財務成果をつなぐ。ただし、戦略の仮説と実証された効果は分けて読む。

イタリアの産業機械メーカー1社のケース研究。6か月・25回の訪問、経営幹部9名への30時間超のインタビュー、社内外資料から指標と戦略マップを共同検討。

戦略マップCEの事業性KPIの設計
この記事の目次
  1. 回収率や研修回数だけでは、投資の理由が説明しにくい
  2. 調べたのは、受注生産の産業機械メーカー1社
  3. 測りたい数字の前に、変えたい仕事を整理する
  4. 費用を減らす道筋と、顧客価値で売上を伸ばす道筋
  5. 20の測定項目で、どこまで見えるのか
  6. 修理サービスなら、設計から収益までを問い直せる
  7. 図の矢印と計算式は、検討の出発点として読む
  8. 原著では、実践・戦略・測定の三つを行き来する
  9. 書籍・研究とのつながり

まず押さえたいこと

  • CEの活動を、学習・業務・顧客・財務という四つの視点につなぎ、どのような道筋で事業へ貢献するのかを考える。
  • 費用を減らす道筋と、顧客に評価されて収益を増やす道筋は、確かめるべき条件が異なる。この企業では後者に計画段階の取組が多かった。
  • 戦略マップと20の測定項目は設計提案である。図の矢印や比率の改善を、そのまま因果効果や環境負荷の削減と読むことはできない。

回収率や研修回数だけでは、投資の理由が説明しにくい

製品を長く使える設計へ変える。修理サービスを充実させる。使用済み製品を回収する。サーキュラーエコノミー(circular economy: CE)の取組が増えるほど、担当者はさまざまな数字を集めるようになります。しかし、回収率や研修回数を一覧にしても、それが会社の事業へどうつながるかは十分に伝わらないことがあります。

たとえば修理しやすい製品を作るには、設計への投資が必要です。その投資は、保守サービスの収益、新しい顧客の獲得、顧客との長期的な関係のどこにつながるのでしょうか。製品寿命が延びることで、買替えによる売上が減る可能性も考えなければなりません。

この論文は、こうした関係をバランスト・スコアカード(balanced scorecard: BSC)で整理します。BSCは、財務だけでなく、顧客、社内の業務、学習と成長を組み合わせて戦略を考える方法です。著者らはこれをCE向けに組み立て、循環型バランスト・スコアカード(circular balanced scorecard: CBSC)と呼びます。

調べたのは、受注生産の産業機械メーカー1社

対象は北イタリアの産業機械メーカーです。プラスチック、ゴム、不織布などの加工設備を設計・製造・設置する家族企業で、2023年の従業員は164人、売上高は6,130万ユーロでした。顧客の要望に合わせる受注生産が中心で、生産の9割超を輸出していました。

研究者は6か月間に25回訪問し、経営幹部9人に少なくとも2回ずつ、合計30時間を超える正式なインタビューを行いました。社員や関係者との非公式のやり取り、報告書や社内資料も使い、取り組んでいることと、今後取り組む計画を整理しています。

調査の中心は、どのような管理の仕組みならこの会社のCE移行を支えられるかを、経営陣と検討することでした。作った戦略マップと測定項目は経営陣に提示して確認されています。一方、導入前後の数年間の成果を比較したり、導入していない企業を対照に効果を推定したりする設計ではありません。

測りたい数字の前に、変えたい仕事を整理する

著者らはまず、CEに向けた13の経営実践(managerial practices)を整理しました。ここでいう実践とは、循環利用を考えた製品設計、資源を無駄なく使う工程、修理・機能更新、回収、社員教育など、会社が実施する具体的な仕事です。それらを、三つの非財務の視点へ配置します。

視点整理した仕事の例
学習と成長CEに沿った方針、社員の教育、デジタル技術の活用
社内の業務修理しやすい設計、工程の省資源化、回収、製品をサービスとして提供する仕組み
顧客CEの特徴の発信、その特徴を評価する顧客への提案
財務売上高、営業活動の費用、利払い・税・減価償却前利益(EBITDA)

次に、これらの仕事がどのように関係すると考えられるかを、戦略マップ(strategy map)にします。社員が知識を身につけ、設計や工程を変え、その変化が顧客や財務にどう届くのかという見取り図です。自社で何を変えるのかを先に明確にし、その進み具合を測る項目へ落とす順序に意味があります。

費用を減らす道筋と、顧客価値で売上を伸ばす道筋

戦略マップでは、二つの道筋が整理されます。第一は、資源やエネルギーの無駄を減らし、費用を抑える道筋です。論文ではvalue discountと呼んでいますが、ここでは「効率改善によるコスト削減」と読むと意味が明確になります。

第二は、長く使える、修理できる、機能を更新できるといった特徴を顧客に評価してもらい、売上や追加収益につなげる道筋です。論文のvalue premiumは「CEの付加価値を通じた収益拡大」と捉えられます。販売価格への上乗せだけでなく、選ばれる理由を作ることや、サービスから収益を得ることも関わります。

対象企業では、省資源・省エネルギーの取組は比較的定着していました。一方、使用済み機械の回収や製品をサービスとして提供する仕組みには計画段階のものがあり、CEの特徴に対して顧客がどの程度支払うかも課題でした。そのため著者らは、この企業のCE移行では、採算を説明しやすいコスト削減側が先行していると解釈します。

この違いは、すべての会社が同じ順番で移行するという法則ではありません。自社の顧客、製品寿命、回収の条件によって、成立しやすい道筋は変わります。

20の測定項目で、どこまで見えるのか

提案された測定項目は、13の経営実践と3つの財務項目に対応する定量16項目に、各視点1つずつの定性4項目を加えた構成です。数字を集めるために新しい負担を増やしすぎず、社内にあるデータを使い、担当者自身が理解・修正できることを重視しました。

定量項目には、循環利用を考えた設計の製品の割合、修理・機能更新した製品数の販売製品数に対する割合、CE研修の割合などがあります。定性項目には、社員の意識や意欲、日常業務に循環型の実践が取り入れられているという認識、顧客による評価などを置いています。

ただし、これらは同じ種類の成果ではありません。研修の割合は活動の実施状況であり、社員が設計や購買の判断を変えたことを直接示しません。修理件数の増加も、サービスの利用が広がった場合と、故障が増えた場合では意味が異なります。

そこで測定項目を読む際には、投入した資源、実施した活動、仕事の変化、環境・財務の成果のどれを見ているのかを確かめる必要があります。定性的な評価を加えることは、その背景を聞き取る入口になりますが、客観的な環境負荷の測定を置き換えるものではありません。

修理サービスなら、設計から収益までを問い直せる

以下は、この論文の見取り図を自社の検討に使うための例です。修理事業を伸ばす場合、設計部門には部品を交換しやすい構造、サービス部門には修理の技能や部品供給、営業には顧客への説明が必要になります。これらを個別の担当業務として扱うだけでなく、顧客が使い続けられることと収益へ結びつけて考えます。

会議では、「修理しやすくした結果、作業時間は短くなったか」「顧客は修理を選んだか」「回収や部品在庫にどれだけ費用がかかったか」と、道筋に沿って確かめられます。修理件数が増えても利益が出なければ、設計、価格設定、部品供給のどこを見直すかという議論につながります。

同時に、修理が新品の購入をどれだけ置き換えたか、輸送や交換部品の負荷を含めても環境上の利点があるかは別に確かめる必要があります。収益につながったことと、資源消費が減ったことは、それぞれ証拠を要する問いです。この例は本サイトによる応用で、論文が修理事業の効果を測定したという意味ではありません。

図の矢印と計算式は、検討の出発点として読む

この論文の戦略マップは、経営陣の説明や資料をもとに、想定される関係を整理したものです。「研修が増えると工程が改善し、利益が増える」という因果効果が推定されたわけではありません。著者らも、長期にわたる測定と検証が未実施であり、循環型の仕組みが持つ複雑な相互作用を十分に捉えていないことを限界に挙げています。

測定項目の計算式にも、実務への導入前に検討が必要な箇所があります。たとえば表5には、EBITDAを「エネルギー消費量+材料消費量」で割る式がありますが、異なる単位の数量をどう共通化して加算するかは示されていません。もう一つの「生産費用÷再生可能エネルギー消費量」は、費用が同じでも分母が増えれば低下するため、それだけで費用削減や省エネルギーが進んだとは判断できません。

また、回収製品数と販売製品数を比べる場合も、長寿命の機械では回収される製品とその年に売る製品が異なる世代になります。期間や対象を決めずに比率を読むと、取組の変化を誤解する可能性があります。これは表の式から導かれる、本サイトの測定上の検討点です。

以上から、この論文は、戦略と指標をつなぐ設計過程として参考になりますが、示された式を完成済みの標準指標として採用するには追加の確認が必要です。

原著では、実践・戦略・測定の三つを行き来する

読み始めるなら、まず表2で、企業がすでに実施していることと計画中のことを分けて把握します。次に図3の戦略マップで、どの仕事を費用削減や収益拡大につなげようとしているのかを見ます。最後に表5・表6へ進み、そのつながりを確かめるために必要な情報が、測定項目に入っているかを考えます。

この順番で読むと、指標の一覧が先にあって、それに会社を合わせる設計ではないことが分かります。同時に、描いた道筋を確かめるには何が不足するかも見えてきます。限界を論じた節まで読み、提案された仕組みと、今後実際に検証すべきことを整理すると、研究にも実務にも利用しやすい論文です。

書籍・研究とのつながり

ここからは本サイトの研究上の論点です。KPIと社内浸透の関係を調べるなら、戦略マップを作ったかどうかに加え、その図を使った会議で誰がどの判断を変えたかを追うことができます。予想と違う結果が出たとき、目標を修正するのか、図の矢印を見直すのかという過程にも注目できます。

また、費用削減が確認しやすい施策に判断が偏ると、効果が現れるまで時間のかかる回収網や修理体制への投資が後回しになるかもしれません。逆に、CEを理由に事業性の確認が弱くなる可能性もあります。両者を会議でどう扱うかを、費用負担、収益の帰属、回収時期に即して調べることが、戦略と管理の研究につながります。

あわせて考える

『サステナビリティ戦略の実装』北田皓嗣・安藤光展

方針を日々の仕事と意思決定につなぐという観点から、書籍とあわせて読むための本欄の考察です。

対象論文

Transition of Manufacturing Companies towards the Circular Economy: The Role of the Balanced Scorecard Approach

Santolin, R. B., Lazzarotti, V., & Urbinati, A. (2026). Transition of Manufacturing Companies towards the Circular Economy: The Role of the Balanced Scorecard Approach. Circular Economy and Sustainability, 6, Article 12. https://doi.org/10.1007/s43615-026-00752-2

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原著本文に基づく解説 · 2026年9月11日
応用例・実務への問い・書籍との接点は本欄の考察です。

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