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循環に取り組んでいる。その成果を、何で確かめているか

イタリアの製造業12社から、実践とKPIがかみ合わない理由を読む

イタリアの製造業中小企業12社への半構造化インタビューと公開資料の照合

実践とKPI中小企業社内浸透
この記事の目次
  1. 取り組みを数えるだけでは、進み具合は分からない
  2. 12社の担当者に、実際の仕事を聞く
  3. 実践の種類と、実施の深さを分ける
  4. 現場では、環境以外の条件も同時に判断している
  5. 測りやすい成果だけが、次の投資理由になっていないか
  6. 自社で使うなら、実践から指標へたどる
  7. この論文から、どこまで言えるか
  8. 原論文は、二つの表を行き来して読む
  9. 書籍・研究とのつながり

まず押さえたいこと

  • 取り組みの有無に加え、その広がりと成果の確かめ方まで見ると、循環経済への移行の課題が見えてくる。
  • 調査した企業では、廃棄物削減や省資源の実践に比べ、事業や取引関係を変える実践の広がりが限られていた。
  • 費用・物量・品質などの指標を実践ごとに対応させると、何が改善し、何がまだ確かめられていないかを話し合いやすい。

取り組みを数えるだけでは、進み具合は分からない

工場で廃棄物を減らす。再生材を使う。包装を見直す。こうした活動が増えると、サーキュラーエコノミー(circular economy:CE)が進んでいると説明したくなります。しかし、活動の数が増えたことと、資源の使い方や事業の仕組みが変わったことは、同じではありません。

Negriらが注目するのは、企業が何を実践し、その成果を何で判断しているかという組み合わせです。例えば再生材の使用を始めても、確認しているのが購入費だけなら、天然資源の投入が減ったか、品質や製品寿命に影響したかは分かりません。反対に、コストは増えていても、資源利用の改善や新しい顧客との関係が生まれている可能性があります。

原題は「循環的だと称する中小企業は、本当に循環的なのか」と強く問いかけます。ただし、研究の中身は企業に合否判定を下す監査ではありません。実践と評価の対応を調べ、企業がどのような意味で循環を捉えているのかを考える研究です。

12社の担当者に、実際の仕事を聞く

対象は、イタリアの製造業の中小企業(small and medium-sized enterprises:SMEs)12社です。飲料、食品、繊維、金属などの企業が含まれ、従業員数は42~238人。循環経済や操業について知識を持つ経営者、工場長、サステナビリティ担当者などに、各社おおむね45~60分の半構造化インタビュー(semi-structured interview)を行いました。

質問は、CEという言葉をどう理解しているか、製品や工程で何を変えたか、どの程度実施できているか、成果をどう測っているか、という順で進みます。企業のウェブサイト、報告書、新聞記事も照合し、複数の研究者で発言の分類を確認しています。

この設計に向いているのは、数値の背後にある判断を理解することです。「指標がある」と答えた企業でも、日々の会議で使うのか、顧客への説明だけに使うのかでは、仕事との関係が違います。ただし、本研究は各指標の実際の数値を集めて成果を比較したものではありません。評価方法の調査であって、12社の環境成果ランキングではないと押さえると、その後の議論が読みやすくなります。

実践の種類と、実施の深さを分ける

実践は、省資源や廃棄物削減、社内の意識づくり、顧客・調達先への働きかけ、製品の長寿命化などに分類されます。さらに、自社の工程を変えるものか、取引先も含む仕組みを変えるものか、日常業務の改善か、長期的な事業の変更かを見ます。実施の深さは、社内への広がりや実施年数を踏まえ、4段階で整理しています。

調査した12社では、廃棄物削減は全社、省エネルギーは8社で実施されていました。一方、再使用・リサイクル・材料回収を考慮した製品設計は2社でした。広く行われている活動と、少数の企業が深く取り組む活動が併存しています。

ここで「実践が少ない企業は遅れている」と数だけで判断するのは適切ではありません。食品、繊維、金属では、変えられる工程も顧客から求められる機能も違います。読みどころは、自社内の効率改善から、製品設計や取引関係の変更へ、どこまで取り組みが広がっているかにあります。

現場では、環境以外の条件も同時に判断している

米を扱う企業SME3の事例では、包装材を減らしたくても、保存性や衛生を損なえば食品の廃棄が増えかねないという葛藤が語られます。包装の重量だけを見れば削減は望ましくても、守るべき製品まで失えば、改善とは言い切れません。

繊維企業SME7は、排水処理を難しくする有害な化合物をなくす取り組みを説明しています。その背景には、処理費用の負担がありました。環境への対応とコストへの対応が、現場では同じ工程の見直しとして進む例です。また、別の繊維企業SME9では、再生繊維の利用に伴う技術的な性能への懸念が語られています。再生材の比率だけでは、製品として使い続けられるかまでは評価できません。

こうした事例を読むと、実務家に必要なのは、環境指標を従来の経営指標と置き換えることより、資源、費用、品質のどの条件が、採用や継続の判断を左右しているかを明らかにすることだと分かります。経済的な動機があるから取り組みの価値が低い、という読み方も避けたいところです。

測りやすい成果だけが、次の投資理由になっていないか

成果の評価には、費用の増減や投資額がよく登場します。同時に、廃棄物の重量、再生材の利用率、エネルギー使用量、製品寿命といった定量指標も使われています。したがって、調査企業が何も測っていないわけではありません。

一方で、循環を重視する文化、革新性、顧客の理解といった領域では、担当者の定性的な評価が目立ちます。実践していても、対応する成果を評価していない場合もあります。表3が示すのは、このような実践ごとの評価の偏りです。

著者らは、評価の偏りが次の実践を狭める可能性を論じます。費用削減だけを成果として認識すれば、すぐに費用が下がる改善は説明しやすく、長寿命化や企業間の回収体制づくりは説明しにくくなるかもしれません。ただし、この研究が「指標を増やした企業ほど循環が進んだ」と検証したわけではありません。評価の仕方が意思決定の視野を狭めていないかという問いを、事例から提起していると読むのが適切です。

自社で使うなら、実践から指標へたどる

以下は、論文の観点を実務へ展開した確認例です。まず一つの取り組みを選び、何を変えたかったのかを明確にします。そのうえで、成果を確かめる指標と、現実の制約を確かめる指標を並べます。

取り組み資源面で確かめたいこと継続判断で併せて見たいこと
包装材を減らす包装の使用量、製品の廃棄量保存性、返品、調達・物流費用
再生材へ切り替える再生材の比率と天然資源の投入量品質、歩留まり、調達の安定性
製品を長く使える設計にする使用期間、交換・修理の状況顧客の利用実態、修理費用、収益の得方

すべてを最初から精密に測る必要はありません。現場が今使っている資料から始め、測れていない項目については、誰からどの情報を得れば判断が変わるのかを話し合う。定性的な顧客の声や担当者の知識も、その段階では有用です。

また、同じ廃棄物指標でも、全社の総量と製品一個当たりの値では答える問いが違います。対象の工程、期間、製品を合わせて、取り組みが届く範囲の成果を確認することが大切です。KPIを一覧表に追加するだけでなく、その情報を使って何を決めるかまでつなげると、この論文を社内の対話に使えます。

この論文から、どこまで言えるか

12社は無作為抽出した代表サンプルではありません。ここで見つかった偏りが、イタリア全体や日本の中小企業でどの程度一般的かは、この研究だけでは分かりません。また、指標の存在や評価方法を調べても、その企業が実際にどれだけ資源投入や環境負荷を減らしたかは別途確認が必要です。

もう一つ、著者らは、自社内の効率改善にとどまらず、事業や企業間の仕組みを変える方向を重視しています。この評価軸自体も意識して読みたいところです。効率改善をCEと言い換えているという著者の批判は、観察された実践への解釈であり、個々の企業の虚偽表示を立証したものではありません。

実務への含意は、活動の価値を切り捨てることではなく、今の改善がどこに効き、どこから先には別の実践や評価が必要かを明確にすることです。数値指標の追加だけでその問題が解決するとも限りません。製品や顧客に関する知識と、測定結果を一緒に扱う必要があります。

原論文は、二つの表を行き来して読む

最初に図1で「実践―成果―評価指標」という研究の構成をつかみ、表2で関心のある実践を一つ選びます。次に、同じ実践を表3で探し、どの企業が何を評価しているかを比べてください。表3の薄い灰色は実践と評価の両方がある箇所、濃い灰色は実践していても対応する評価がない箇所を表します。

そのあと本文の事例を読むと、同じ活動名でも評価の仕方が違う理由を考えやすくなります。最後に4.4節の議論へ進み、「現場から得られた証拠」と「著者が考える望ましい移行の方向」を区別して読むと、強い原題に引きずられず、この研究の貢献を捉えられます。

書籍・研究とのつながり

この論文は、CEのKPIを収集する研究を、指標の種類を数える段階から、実践と意思決定のつながりを調べる段階へ進める手掛かりになります。例えば廃棄物について、費用だけを評価する企業と、物量・品質・取引先への影響も確かめる企業では、次に検討する改善案がどう違うのか。これは本論文で検証済みの結果ではなく、発展させられる研究課題です。

マテリアルフローコスト会計(material flow cost accounting:MFCA)との接点も、物量と金額を対応させる点にあります。ただし、工程の改善が全社の費用や環境成果にどの程度届くかまで自動的に分かるわけではありません。担当者が使う情報、意思決定が行われる単位、成果を測る範囲をつないで調べることで、社内浸透の実態に近づけます。

あわせて考える

『サステナビリティ戦略の実装』北田皓嗣・安藤光展

方針を日々の仕事と意思決定につなぐという観点から、書籍とあわせて読むための本欄の考察です。

対象論文

Are SMEs Claiming to Be Circular, Actually Circular? An Empirical Study on the Implementation and Performance Evaluation of Circular Economy Practices

Negri, M., Neri, A., Cagno, E., Kumar, V., & Soares, A. (2026). Are SMEs claiming to be circular, actually circular? An empirical study on the implementation and performance evaluation of circular economy practices. Business Strategy and the Environment. Advance online publication. https://doi.org/10.1002/bse.71280

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原著本文に基づく解説 · 2026年9月11日
応用例・実務への問い・書籍との接点は本欄の考察です。

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