まず押さえたいこと
- 既存事業の環境影響を測ることと、新しい事業案の効果を事前に予測することは異なる。
- 評価の知識やデータが専門家に集まっていても、結果が設計に間に合わなければ改善に使いにくい。
- 「測定しているか」に加えて、対象、比較案、前提、実際に変えた判断を確認することが大切になる。
「循環型なら環境によい」を、どこで確かめるのか
製品を販売する事業から、月額料金で利用してもらい、回収・修理して再び使う事業へ変える。製品寿命が延び、廃棄物も減りそうです。しかし、回収のための輸送が増えたり、利用者の使い方が変わったりすれば、環境効果は当初の想定と違ってくる可能性があります。
この論文は、循環型ビジネスモデル(circular business models)に取り組む企業が、現在の環境影響をどう測り、新しい事業の影響をどう予測しているかを調べます。中心にあるのは、完成した事業を評価することと、まだ変えられる事業案を比較することの違いです。評価の道具が存在しても、実際の仕事の中で使えるとは限らない。その隔たりを実務家の経験から明らかにしようとしています。
29件のインタビューと39件の質問票から何を調べたか
著者らは2020年5月から2021年6月に、18組織の29人へのインタビューと、別途39件の質問票回答を集めました。回答者には事業開発担当者、製品・サービスのデザイナー、管理職、コンサルタントなどが含まれます。家具、衣料、家電、モビリティ、建設等、10を超える産業領域を対象としています。
インタビューと自由記述を整理し、共通する実務や障害を抽出した、探索的な質的研究です。質問票には選択式の設問もありますが、企業の業績や環境改善の大きさを統計的に推定する研究ではありません。29件と39件を足して「68社の調査」と読むことはできません。
参加者は目的に応じた選定、紹介、SNS等での募集によって集められ、欧州が中心です。この特徴を踏まえ、企業一般の導入率を示す資料というより、環境評価を使う際の問題を見つける研究として読むのが適切です。
事後の測定と事前の予測では、答えが違う
現在の事業の環境影響を測定していると答えたのは、インタビュー回答者の90%、質問票回答者の64%でした。ところが、新しい事業案について、実施前に効果を予測する事前評価(ex-ante assessment)を尋ねると、結果は大きく分かれます。インタビューでは96%が積極的な事前予測をしていないと述べた一方、質問票では64%が予測していると回答しました。
著者らは、インタビューでは「予測とは何か」を説明できたことが、この違いの一因かもしれないと考えています。質問票では、その場で理解を確かめられません。ただし、理解の差が原因だったと検証できたわけではありません。
この不一致を読み飛ばして、「ほとんどの企業が事前評価をしていない」と一括するのは適切ではありません。実務上は、「評価していますか」という質問だけでは、その中身まで分からないという問題として読めます。現在の活動の記録、設計方針の確認、複数の事業案を比較する予測を区別する必要があります。
例えば、循環設計の原則を定めていることと、新しい案で排出量がどれほど変わるかを比較していることは、異なる活動です。質問票の「はい」を同じ実務の証拠として集計する前に、具体的にどんな案を、どんな情報で、どの時点に比較したのかを聞く。この読み方は、自社のKPI調査を設計する際にも参考になります。
現場が使うのは、精緻な分析だけではない
回答で最も多く挙がった方法は、経験に基づく判断の目安(rules of thumb)でした。次に、ライフサイクル評価(life cycle assessment: LCA)やそれに基づく手法、温室効果ガスの算定方法が続きます。ここでの「判断の目安」には、循環設計の社内方針、専門家の助言、利用状況の計測、廃棄回避効果の概算など、幅広い実務が含まれます。
したがって、単に勘に頼っていると解釈するのは不正確です。試行の途中では仕様や事業の形が変わり、十分なデータもそろいません。著者らは、こうした段階で判断の目安が方向づけを助ける面も認めています。
一方、一度作った評価結果を、その後も参照し続ける回答もありました。簡便さを保ちながら、事業の変更に合わせて前提を更新できるかが論点になります。なお、LCAが事後評価に限られるわけではなく、原著にもLCAを使った事前のシナリオ評価への言及があります。
判断の目安を使う場合にも、根拠が不要になるわけではありません。「回収便の回数が増えても改善するのか」「想定した使用年数を下回ったらどうなるか」といった条件を残しておけば、試行で得た情報によって判断を更新できます。これは、原著が見いだした実務上の難しさから考えられる、運用への応用です。
測定の専門性が、設計を変える力になるとは限らない
よく挙げられた障害は、十分なデータの不足、試行中の事業の不確実性、測定に関する知識不足でした。利用者の行動が把握できない、事業案が変わるたびに仮定も変わる、評価結果を具体的な行動へ翻訳できない、といった問題が重なっています。
小規模企業では、関心があっても時間・資金・専門性が不足し、測定を後回しにする場合がありました。他方、資源のある大企業でも、評価の知識が少数の専門家に集まり、設計担当者との間で十分に共有されない例が報告されています。影響を測る時点が設計工程の最後なら、その設計サイクルで変更できる余地は小さくなります。
この発見は、社内浸透の問題を具体化します。環境情報が社内にあることだけでなく、結果が、案を変更できる時点で、変更に関わる人へ届くかが重要です。ただし、すべての大企業に当てはまると証明した研究ではなく、インタビューから見えた実務上の課題として読む必要があります。
長く使う効果を、利用条件と採算に結びつける
製品の利用を提供するサービス型事業では、長寿命化がどれだけ環境負荷を減らすか、利用者の使い方がどう変わるかを数量化する難しさも挙げられました。製品を企業が保有すれば、修理、輸送、保険、使用後の処理などへの対応も続きます。参加者は、長期的な便益や資産の収益を、こうした費用と併せて評価する難しさを指摘しています。
例えば家電の利用サービスなら、回収率だけでなく、何年使えるか、修理や配送が何回必要かによって、環境効果と採算は変わります。この例は論点を説明するための例示であり、原著の特定企業の再現ではありません。
論文が示したのは、サービス型事業が必ず有利になる条件ではありません。実務家が何を測り切れず、どのような比較に悩んでいるかです。そこから、試行中に比較すべき条件を具体化できます。
同じ「長く使う」という方針でも、修理のしやすさ、顧客の利用頻度、返却後の状態によって必要な仕事は違います。環境担当だけで評価を完結させようとすると、こうした情報を持つ人との接点が弱くなりかねません。原著にある利用段階の不確実性は、どの部門から情報を得るべきかを考える手掛かりにもなります。
この研究で分かること、まだ分からないこと
この研究の強みは、道具の一覧を作るだけでなく、使う人がどこで困るかを把握した点です。一方、回答者の自己申告が中心で、実際の意思決定の記録や環境成果を追跡したわけではありません。部門間の連携を変えれば、どれほど改善するかという因果関係は検証していません。
また、質問票とインタビューで事前評価の回答が食い違うこと、欧州とCEに関心のある実務家に偏ること、調査が2020〜2021年に行われたことにも注意が必要です。現在の企業の導入状況をそのまま表す数字ではありません。
著者らは簡便な予測手法や社内の連携を改善する方向を提案していますが、提案の有用性と、その効果が実証されていることは分けて読む必要があります。
原著では、回答の違いと仕事の流れに注目する
原著を読む際は、まず方法の節で、誰に何を尋ねた研究かを確認すると、数値の意味が分かりやすくなります。次に結果の4.1節と4.2節を続けて読み、「現在を測る」と「未来を予測する」の違い、調査方法による答えの違いを押さえます。
続く4.3節では、データ不足だけでなく、知識が誰に集まっているか、結果がいつ出るかに注目してください。4.4節の利用段階と採算に関する疑問まで読むと、環境評価が技術的な計算だけでは完結しないことが見えてきます。
要旨の結論を覚えるだけでなく、その結論を支える回答がどの程度そろっているかを確かめると、研究の意義と限界を同時に理解できます。
読む際には、回答者が述べた経験、著者がそこから整理した傾向、最後に提案した改善策を区別すると有用です。例えば「設計の最後に評価する例があった」という観察と、「評価を早めれば必ず成果が上がる」という主張は同じではありません。前者から、次に検証すべき組織の仕組みを考えるのが、この研究の使い方です。
自社の取り組みを読むための3つの問い
ここからは、論文を基にした本欄からの実務への問いです。特定の評価手法の導入を勧める前に、次の点を確認できます。
- 評価結果が出る時点で、まだ何を変更できますか。 製品仕様、価格、回収方法、サービス内容など、判断の余地を具体的に確認します。
- 不確かな前提を、誰と共有していますか。 専門家と設計・事業担当者が、別案や利用条件の違いを一緒に検討できるかを見ます。
- 評価によって、実際に何を変えましたか。 「測定している」という回答を、対象、比較案、前提、変更した判断まで掘り下げます。
対象論文
How do companies measure and forecast environmental impacts when experimenting with circular business models?
Das, A., Konietzko, J., & Bocken, N. (2022). Sustainable Production and Consumption, 29, 273–285.
原著の掲載ページを開く ↗2021年先行公開、2022年巻号掲載。
原著本文に基づく解説 · 2026年9月10日
応用例・実務への問い・書籍との接点は本欄の考察です。