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社内浸透は、何が変われば進んだと言えるか

理解・意欲・行動・仕事の仕組み・社会や環境への成果を、分けて確かめ、つなげて考える。

複数の論文をつなぐ解説読了 約9分

社内浸透と組織変革
この記事の目次
  1. 研修が終わった。その後、何を見るか
  2. 「何が変わったか」を五つに分ける
  3. Gondらから、賛同の中身を分けて読む
  4. Ruppらから、参加と本人の納得を分ける
  5. Kimらから、実践と周囲への働きかけを分ける
  6. GondとMoserから、仕事の仕組みへ視野を広げる
  7. 進捗の食い違いを、次の判断に使う
  8. 一つの案件を、複数の記録で追ってみる
  9. 書籍・研究とのつながり
  10. 対象論文と個別解説

まず押さえたいこと

  • 理解、関わる意欲、実際の行動、仕事の仕組み、社会・環境面の成果は、それぞれ別の変化です。一つの浸透度にまとめる前に、何を確かめたいかを決めます。
  • 同じ参加や行動でも、その理由は異なります。本人の納得に加えて、上司や同僚との関係、使える時間や権限を確かめると、次の支援を考えやすくなります。
  • 個人の行動が続くことと、組織の判断が変わることをつなぐには、具体的な提案や仕事の変更を追う必要があります。環境や社会への効果も、別に観察します。

研修が終わった。その後、何を見るか

全社員に方針を説明し、研修の参加率が上がり、アンケートでも賛同が増えた。担当者には確かな手応えがあるでしょう。そのうえで、経営会議から「社内浸透は進んだのか」と聞かれたら、何を報告すればよいでしょうか。

ここでは、製品の包装を見直し、資源使用と廃棄を減らしたい企業を仮想例として考えます。営業は顧客に変更の理由を説明し、開発は保護性能を確かめ、購買は調達条件を調整する。このとき、全員が方針を知っていることと、実際に包装の仕様を変えられることの間には、いくつもの仕事があります。

4本をつないで読む目的は、社員の心理と、職場で取り組みが形になる過程を両方捉えることです。以下の五つの観点は、論文を読み合わせた本記事の整理です。全社共通の診断尺度や、必ず順番に進む成長段階を示すものではありません。

「何が変わったか」を五つに分ける

確かめる変化包装の見直しで見ること
理解・受け止め方なぜ変えるのか、自分の仕事にどう関わるかを説明できるか
関わる意欲・動機本人は何に納得し、何を負担や不安と感じているか
行動・働きかけ仕様の提案、試験、情報共有など、実際に何をしたか
仕事の仕組み・繰り返し方判断基準、承認、役割や予算に変更があり、次の案件でも使えるか
社会・環境面の成果資源使用や廃棄がどう変わり、別の場所に負荷が移っていないか

例えば、研修を受けた記録は説明を届けた範囲を示しますが、理解できたかは別に聞く必要があります。新しい仕様が承認されても、生産や販売への適用が始まっていなければ、資源使用の変化はまだ確認できません。

これらは互いに影響し合います。試作して初めて目的に納得する人もいれば、先に手順が変わり、それに従って仕事をするうちに課題が見えてくる人もいるでしょう。理解の点数が上がるまで、実践を始められないという順番は置きません。

Gondらから、賛同の中身を分けて読む

Gondら(2017)は、個人を扱う268本の研究を整理した体系的レビュー(systematic review)です。CSRに関わる理由やきっかけ(drivers)、取り組みの受け止め方(evaluations)、示す態度や行動(reactions)を区別しています。効果の大きさを統計的に統合した研究ではありません。原著の概要

包装の見直しに参加する理由も、環境負荷を減らしたい、顧客の要望に応えたい、同僚と協力したいなど、複数ありえます。それとは別に、会社の取り組みを「本気の事業改善」と捉えるか、「広報上の要請」と捉えるかという判断があります。本人が関わる理由と、会社が取り組む理由についての推測を分けると、同じ賛同の回答でも意味が違うことに気づきます。

実務では、「賛同していますか」に加え、「最近、自分の仕事のどの判断と関係しましたか」と聞いてみます。答えが出ないときも、すぐに関心の低さと決めず、目的の理解、仕事との接点、動くための条件のどこを確かめるかを考えます。

Ruppらから、参加と本人の納得を分ける

Ruppら(2018)は、五つの国・地域で働く673人への質問票から、会社のCSRへの認識と仕事への活力・熱意・没頭(work engagement)の関係を調べています。その関係は、本人がCSRに関わる動機の自律性と、独立した判断を重視する価値観によって異なりました。原著の概要

ここでの自律性(CSR-specific relative autonomy)は、制度上の自由参加と同じ意味ではありません。自分にとって価値があると感じて関わるのか、圧力や義務感から関わるのかという、本人の動機に注目します。自律的なら誰でもCSRと仕事への意欲の関係が強まる、という一律の結果でもありません。

仮想例なら、包装の改善会議に出席した人数だけでは、「自分の提案を試したい」と「断りにくい」を区別できません。負担や提案の余地も聞くことで、参加経験を捉えられます。なお、この研究は1時点の調査です。CSRが意欲を高めたという因果関係や、包装材・廃棄物の削減を確かめた研究ではありません。

Kimらから、実践と周囲への働きかけを分ける

Kimら(2017)は、韓国3社の80職場グループで、325人のメンバーと80人のリーダーを調べました。正式な職務として求められる範囲を超えた環境配慮行動(voluntary workplace green behavior)について、個人の特徴に加え、リーダーの実践や、同僚間の情報共有・協力の呼びかけとの関係を分析しています。原著の概要

参考になるのは、自分が実践することと、仲間の実践を支えることを分けている点です。包装の仮想例なら、自分で試作品を作る人のほかに、別部署へ試験結果を説明し、検討の場を作る人もいます。ただし、これは論文の視点を応用した例です。原著が測ったのは紙の節約や再利用などの行動であり、製品設計や部門間の仕様変更ではありません。

行動は質問票で評価されています。上司がメンバーを評価した場合と、メンバー自身が回答した場合では、上司の実践との関係が異なりました。「上司が率先すれば広がる」と決める前に、誰が何を見て評価したのかを確かめます。取り組みの記録や現場の観察も組み合わせれば、行動の内容を具体化できます。

GondとMoserから、仕事の仕組みへ視野を広げる

個人の意欲や行動を確認しても、なぜ承認が止まるのかは説明しきれません。GondとMoser(2021)は、心理を中心に扱う研究と、人々の関係や実践を中心に扱う研究を比較した理論的論考(critical essay)です。個人の内側で起こること、人と人の間で起こること、組織内で取り組みが形になることをつないで考える方向を示します。原著の概要

包装の例では、提案者の意欲が高くても、開発と購買が異なる基準で判断し、試験費用を引き受ける部門が決まらなければ、採用は止まるかもしれません。そこで、一つの提案について、誰に相談し、どこで条件が変わり、誰が費用とリスクを引き受けたかを追います。

さらに、担当者が交代しても同じ手順で検討できるかを確かめます。仕様の確認、他部門への相談、承認といった仕事の繰り返し方(organizational routines)が変わったか、という問いです。これは本記事の実務への展開であり、論文が制度定着の効果を実証したわけではありません。

進捗の食い違いを、次の判断に使う

五つの観点で見ていくと、「理解は深まったが仕様変更には至らない」「仕様は変わったが現場の負担が増えた」といった食い違いが出てきます。その違いには、次に何を検討すべきかという情報があります。全体を一つの点数にすると、変わった部分と止まっている部分が分かりにくくなります。

例えば、包装材の重量が減っても、輸送中の破損が増え、製品の廃棄が増えていれば、当初の狙いに照らした見直しが必要です。社員が熱心に取り組んだこと、承認手順が整ったこと、環境負荷が下がったことは、それぞれ記録します。成果が出ない理由を個人の熱意に帰す前に、設計条件や顧客の使い方も確かめられます。

進捗報告には、「確認した変化」「まだ確認できない変化」「次に判断すること」を並べます。試験結果から追加の懸念が出た場合も、それを目的への反対と決めず、変更の必要性を判断する材料として扱えます。

一つの案件を、複数の記録で追ってみる

実務で試すなら、包装の試作案件を一つ選びます。開始時には担当者の理解や関わる理由を聞き、検討中には提案と相談の記録を残し、承認後には仕様・手順の変更と使用量を確かめます。同じ人を繰り返し見ることと、同じ案件の行方を追うことを組み合わせると、数字だけでは見えなかった接続を検討できます。

その途中で、説明は届いているのに仕事が変わらないなら、「CSRを伝えても、仕事が変わらないのはなぜか」へ。社員から出た懸念が判断に届かないなら、「社員の異論を、戦略の見直しにつなげるには」へ進むと、確かめたい条件をさらに具体化できます。

書籍・研究とのつながり

『サステナビリティ戦略の実装』との接点は、方針を伝える活動と、日々の仕事や判断に現れる変化を結びつけて考えることにあります。ここでは、その変化を理解・動機・行動・仕事の仕組み・社会や環境への成果に分け、実践を振り返るための問いにしています。

研究として広げるなら、社員への質問票と、一つの仕様変更の記録、資源使用や廃棄のデータを対応させる方法が考えられます。意識と成果の関係に加え、その間で誰が何を調整したかを観察することで、社内浸透を組織の変化として説明する手がかりになります。

あわせて考える

『サステナビリティ戦略の実装』北田皓嗣・安藤光展

方針を日々の仕事と意思決定につなぐという観点から、原著の知見を読み合わせた本欄の考察です。

対象論文と個別解説

The psychological microfoundations of corporate social responsibility: A person-centric systematic review

Jean-Pascal Gond, Assâad El Akremi, Valérie Swaen, and Nishat Babu(2017) · Journal of Organizational Behavior

個別解説を読む → 原著の掲載ページ ↗

Corporate social responsibility and employee engagement: The moderating role of CSR-specific relative autonomy and individualism

Deborah E. Rupp, Ruodan Shao, Daniel P. Skarlicki, Elizabeth Layne Paddock, Tae-Yeol Kim, and Thierry Nadisic(2018) · Journal of Organizational Behavior

個別解説を読む → 原著の掲載ページ ↗

Multilevel Influences on Voluntary Workplace Green Behavior: Individual Differences, Leader Behavior, and Coworker Advocacy

Andrea Kim, Youngsang Kim, Kyongji Han, Susan E. Jackson, and Robert E. Ployhart(2017) · Journal of Management

個別解説を読む → 原著の掲載ページ ↗

Critical Essay: The reconciliation of fraternal twins: Integrating the psychological and sociological approaches to ‘micro’ corporate social responsibility

Jean-Pascal Gond and Christine Moser(2021) · Human Relations

個別解説を読む → 原著の掲載ページ ↗

既存の個別解説と原著の公開情報を読み合わせた解説 · 2026年9月13日
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