まず押さえたいこと
- 開示は企業の関心や説明を知る入口です。文章の類似度と、実際の資源循環を測る指標は、確かめる問いが異なります。
- 回収・再使用量は工程の動きを、原単位は活動量に対する効率を示します。対象範囲と総量も併せて読みます。
- 環境便益を判断するには、何の生産をどれだけ置き換え、回収や整備でどれだけ負荷が加わるかを考えます。
「進んだ」の中身を、同じ言葉でまとめない
「サーキュラーエコノミー(circular economy:CE)への取り組みが進んだ」と報告するとき、何が変わったのでしょうか。方針を明確にしたこと、回収を始めたこと、製品の使用期間が延びたこと、資源採掘や環境負荷が減ったこと。どれも大切ですが、それぞれを確かめる資料は異なります。
ここでは、使用済みの業務用パソコンを回収し、整備して再販売する企業を例に考えます。以下の企業と数値は、論点を説明するための仮想例です。報告書に再使用の方針が加わり、回収台数と再販売台数も増えたとします。この情報は事業の前進を示しますが、「新品の生産がどれだけ減ったか」までは、まだ分かりません。
四つの論文を読むと、開示、活動、物の流れ、環境影響を、それぞれの問いに適した証拠で確かめる視点が得られます。これは本記事での読み合わせであり、四つの段階を順に踏めば必ず成果が生まれるというモデルではありません。
開示を読むと、企業がCEを何と捉えているかが見える
Heras-Saizarbitoriaら(2023)は、1,367社のサステナビリティ報告書1,370件を分析しました。対象は2018〜2020年公表の資料です。CEに明示的に触れる記述を探し、その言葉が企業自身の活動や目的とどう結び付けられているかを読み取りました。
CEという言葉への言及があった報告書は30.6%、そのうち企業自身に結び付く記述を分析対象として採用できた報告書は、全体の15.9%でした。この二つは「言葉が登場するか」と「自社とのつながりを読めるか」の違いです。15.9%を、循環に取り組んでいる企業の割合と読むものではありません。
内容には、団体や取り組みへの参加、一般的な方針、リサイクルや廃棄物管理が多く見られました。この研究の読みどころは、普及率の数字以上に、企業がCEをどのような仕事として説明しているかを分類した点です。
パソコンの例なら、「CEを推進する」という宣言に加え、誰から何を回収し、誰が整備し、どの顧客に届けるのかを読めるか確かめます。開示は事業の輪郭や関係者をつかみ、追加で聞くべき点を見つける入口になります。
文章から作る指標は、多数の報告書を読む入口になる
Pernagalloら(2026)は、イタリアの主要上場企業40社を対象に、2017〜2022年の取得可能な非財務報告書を分析しました。CEに関する制度文書や学術文献135件から語彙を作り、企業の報告書がそれにどれほど近い言葉遣いをしているかを数値化しています。
具体的には、連続する二つの単語の組み合わせ(bigram)の出現頻度を用い、語彙の分布の近さをコサイン類似度(cosine similarity)で測ります。多数の資料を同じ方法で比較できるため、CEへの言及が特徴的な企業や、文章の変化を詳しく読む候補を探すのに役立ちます。
ただし、この数値が直接表すのは、参照文書と報告書の語彙の近さです。回収率や再使用率を測ったものではなく、文章の内容が実行済みか、将来の目標かも、このスコアだけでは区別できません。原著でも、企業間の開示慣行や、実質を伴わない発信の影響が課題とされています。
パソコン事業の報告書でスコアが上がったら、その理由となった文章に戻ります。新しい回収契約が始まったのか、用語を統一したのか。この確認を加えることで、文章分析の広さと、具体的な事実を読む深さを組み合わせられます。
回収した後、製品がどう使われたかを追う
次に、パソコンを年間1,000台回収し、そのうち700台を再販売したとします。回収台数は回収網の稼働を、再販売台数は整備と販売が成立した規模を示します。どちらも、事業を運営する担当者に必要な情報です。
ここで「再使用率70%」とだけ書くと、何に対する割合かが曖昧になります。「回収した1,000台のうち、再販売に至った700台」と示せば、分母と分子が分かります。残る300台が部品取り、材料リサイクル、保管などのどこへ進んだかも、改善箇所を考える手掛かりです。
さらに、再販売できても短期間で故障すれば、長く使うという目的は十分に果たせません。使用期間や故障・返品の状況を追うと、販売台数だけでは見えなかった品質上の課題が分かります。物の流れに関する指標は、どの工程を改善するかという判断に結び付けて読むと有用です。
これは四論文を踏まえた実務への応用です。すべてを一つの総合点にまとめる前に、回収、整備、再使用を別々に捉えることで、止まっている箇所と次の担当者が見えます。
原単位が下がったときは、総量と事業量も見る
Dimitriouら(2026)は、欧州13空港の2019〜2023年のデータを使い、旅客一人当たりのCO₂、エネルギー、水、廃棄物から総合指標を作りました。旅客数が多いほど指標が良くなる関係が見られましたが、著者らは、それを循環実践の進展と即断していません。
空港には利用者が少なくても必要な照明や設備があります。旅客数が回復し、環境負荷の総量がそれほど増えなければ、一人当たりの負荷は下がります。追加分析でも、旅客数と指標の関係のかなりの部分に、この分母の影響があると解釈されています。
同じことをパソコン整備で考えます。年間の整備用電力が1,000kWhから1,100kWh、整備台数が500台から700台になれば、一台当たり電力は2.0kWhから約1.57kWhへ下がります。一台当たりでは約21%改善し、総電力は10%増えています。両方を示すことで、効率の改善と事業全体の負荷をそれぞれ評価できます。
原著の指標も、主に環境負荷の原単位を捉えたものです。しかも年ごとに標準化しているため、得点はその年の空港間の相対的位置を表します。回収や再使用の実績、同じ空港の絶対的な改善を確かめるには、それに対応する元の指標に戻る必要があります。
再使用が増えた先で、新品の生産はどう変わるか
ZinkとGeyer(2017)は、再使用やリサイクルが環境負荷を減らすための条件を理論的に整理しました。中心になるのは、再使用品や再生材が、新品や新たに採掘した資源による生産をどれだけ置き換えるかという問いです。
再販売したパソコン700台が、予定されていた新品購入を置き換えたなら、回避できた新品生産の負荷を考えられます。一方、安くなったことで追加のパソコンを導入した顧客もいるかもしれません。その場合、再販売台数をそのまま新品生産の削減台数にはできません。再使用市場の拡大には、機器を利用できる人を増やす価値もありますが、それと環境負荷の削減は別に評価する必要があります。
この論文が論じる循環経済のリバウンド効果(circular economy rebound)は、一単位当たりの負荷が小さくなっても、生産や消費が増えることで、その便益の一部が相殺される可能性です。価格変化や、再使用品と新品の代替のしやすさが関わります。
したがって、正味の環境便益を考える際には、回避した新品生産の負荷と、回収・輸送・整備などで加わる負荷を比較します。この論文は、再使用が無意味だと示すものではありません。品質、保証、販売先、購入の目的まで含めて、環境便益を生む事業を設計するための問いを与えています。
会議で使う数字に、「何の証拠か」を添える
四論文を自社の報告や評価に生かすなら、次のように、数字に対応する問いを明記すると整理しやすくなります。
| 資料・指標 | 確かめられる問い | 組み合わせたい情報 |
|---|---|---|
| 方針の記述・文章の類似度 | 何を重視し、どう説明しているか | 具体的な対象、実施時期、担当者 |
| 回収・整備・再販売台数 | どの工程がどの規模で動いたか | 対象範囲、残った製品の行先、使用期間 |
| 一台当たりの電力・廃棄物 | 処理量に対して負荷がどう変わったか | 負荷の総量と処理台数の変化 |
| 回避した生産と追加工程の負荷 | 正味の環境影響がどう変わったか | 代替の見込み、比較条件、評価の範囲 |
開示から関心の所在をつかみ、物の流れから改善箇所を探し、総量と原単位から変化を読み、代替と追加負荷から環境便益を考える。これらは一方が他方に置き換わる関係ではなく、異なる判断を支える情報です。
「CEが進んだ」という報告にも、「回収網が広がった」「整備の効率が上がった」「新品購入の代替につながった」と、確認できた変化を添えます。そうすれば、次に広げる事業、見直す工程、追加で確かめる効果を、担当者同士で具体的に話し合えます。
対象論文と個別解説
Circular economy at the company level: An empirical study based on sustainability reports
Iñaki Heras-Saizarbitoria, Olivier Boiral, and Francesco Testa(2023) · Sustainable Development
Measuring Corporate Alignment With the Circular Economy: a Text-Based Circularity Index From Mandatory Non-Financial Disclosures
Giuseppe Pernagallo, Francesco Quatraro, and Eleonora Rubichi(2026) · Business Strategy and the Environment
A conceptual data-driven supply chain analytics framework for evaluating corporate circular economy performance in transport infrastructure
Dimitrios Dimitriou, Maria Sartzetaki, and Aristi Karagkouni(2026) · Supply Chain Analytics
Circular Economy Rebound
Trevor Zink and Roland Geyer(2017) · Journal of Industrial Ecology
原著本文に基づく読み合わせ · 2026年9月13日
複数論文のつながり、仮想例、実務・研究への問いは本欄の考察です。