まず押さえたいこと
- 取り組みを始めた時期、規模、組織内への広がりを分けると、試行から先の課題が見えます。
- 循環を続けるには、修理の経験を設計へ戻し、利益の分け方と日々の仕事のつなぎ方をそれぞれ決める必要があります。
- 採算の確認では、次の利用まで待つ時間に加え、どの製品・企業・費用まで計算に入っているかも問われます。
「実証実験は成功した」の先を考える
中古品の回収や再利用を試したところ、顧客からの反応はよかった。それでも、対象商品や営業拠点を増やす話になると進まない。循環型ビジネスでは、こうした停滞を「社内の理解が足りない」とだけ捉えると、次に変えるべき仕事が見えにくくなります。
本記事では、業務用機器を回収し、整備して次の顧客に提供するメーカーを例に考えます。これは、論文を仕事に引き寄せて読むために本記事で用いる仮想例です。新品の販売実績に加え、回収品の状態、修理の手間、再提供先、費用を負担する期間を考える必要があります。
CEを扱う従来の4本に、企業間提携と製品開発を扱う2本を重ねます。「どこまで進んだか」「何を学べる組織か」に加え、協働の取り決めや採算計算のどこを変えるかまで考えるためです。追加した2本はCEの効果を検証した研究ではなく、ここでの応用は本記事の考察です。
6本は、それぞれ何を調べたのか
| 論文 | 問いと調査 | 事業化を考える手がかり |
|---|---|---|
| Bockenら(2025) | 大企業の循環戦略はどこまで進んだか。幹部層から得た2,950回答を分析。 | 開始時期、規模、広がりを分けて把握します。 |
| Santa-Mariaら(2022) | 既存企業はどう事業の仕組みを変えるか。オーストリア・オランダの10社、13の取り組みを調査。 | 顧客との対話、部門横断チーム、実験など、組織能力を支える実務を整理します。 |
| Hansen & Revellio(2020) | 回収・修理・再利用を誰が担うか。スマートフォンの4つの運営形態を事例比較。 | 内製・協業・委託によって、学べる情報と調整の仕方が変わります。 |
| Linder & Williander(2017) | 循環型事業の採算はなぜ確かめにくいか。自転車メーカー1社での約1年の参加型研究と理論的検討。 | 次の利用まで確認を待つ間に、資金負担が増える問題を示します。 |
| Dekker(2004) | 企業をまたぐ協働を何が支えるか。オランダの鉄道設備の買い手と供給企業の提携を調査。 | 利益や権利の保護と業務調整を分け、契約・信頼・原価情報の役割を読みます。 |
| Jørgensen & Messner(2010) | 不確実な開発を数字と戦略でどう進めるか。分析装置メーカーで16か月、二つの開発案件を観察。 | 部門ごとの優先順位、単一製品の採算計算、原価の引継ぎを点検します。 |
調査対象も方法も異なります。6本は一つの成功手順を共同で検証した研究ではありません。それぞれの知見を、事業を点検する問いとして組み合わせて読みます。
始めたことと、事業の中に広がったことを分ける
Bockenらは、資源を少なく使う(narrow)、製品を長く使う(slow)、材料を循環させる(close)、自然環境を再生する(regenerate)という戦略について、開始時期、取り組みの規模、組織内への広がりを尋ねました。回答者は、自社の操業、サプライチェーン、製品・サービスのうち、最もよく把握する一つの領域について答えています。
結果では、省資源化や材料の循環が先行する傾向が見られます。ただし、早く始めた取り組みが、大きく、広く実施されているとは限りません。例えば自社操業での自然環境の再生は、比較的早い開始に対して規模や広がりが小さく、著者らは探索段階にある可能性を指摘しています。
業務用機器の例なら、「3年前に回収を開始した」という報告に、「何台を扱う事業になったか」「どの商品・拠点で日常業務になったか」を加えます。この具体的な測定方法は本記事の提案ですが、開始・規模・広がりを分ける発想は論文から得られます。
組織の「能力」を、繰り返せる仕事に置き換える
Santa-Mariaらは、機会を見つけ、事業にし、資源や組織を組み替える力である動的能力(dynamic capabilities)を、その土台となる実務から調べました。10社の事例から26の実務を抽出し、先行研究の知見も加えて33に整理しています。
顧客の困りごとを知る、使用後まで含めて製品を見る、環境影響を確かめる。その理解を、共同開発や部門横断チームで事業案へ変え、実験や組織の変更を通じて実行できる形にします。仮想例なら、営業が聞いた顧客の必要稼働率を保守部門と確認し、設計部門が部品構成を考え、経理部門が整備費を見積もる。次の仕様や価格に反映するまでを、一つの仕事として考えます。
ただし、チームを作れば優先順位が揃うわけではありません。Jørgensen & Messnerの装置メーカーでは、共通部品を組み合わせるモジュール化(modularisation)に賛同していても、開発は柔軟性、生産は組立や品質試験、サービスは顧客の保有コストや修理のしやすさを重視していました。部品のまとめ方を三つの案で比較し、各部門の仕事への影響を話し合って設計を具体化しています。
CEへ応用するなら、「循環型にする」という方針への賛同に加え、分解のしやすさ、品質、作業時間、顧客負担を具体的な設計案で比べます。原研究の部品の「再利用」は主に複数の製品設計で部品・技術を共通利用することで、使用済み製品の回収実績とは異なります。
Santa-Mariaらの33項目も効果の順位表ではありません。両論文をつなぐと、情報収集、部門間の検討、仕様の変更のどこが途切れているかを探しやすくなります。
役割を分けた後、情報と仕事をどうつなぐか
Hansen & Revellioは、循環を担う仕事を、内製する(make)、継続的に協業する(ally)、外部から調達する(buy)、メーカー等が関与せず第三者に委ねられる(laissez-faire)という形で比較しました。最後の形では、メーカーと契約関係を持たない修理業者も循環を支えています。
内製のスマートフォン事例では、修理の経験が製品設計へ戻り、修理しやすい構造につながっていました。協業でも専門業者とのやり取りが販売やサービスの改善に使われています。一方、正式な関係がない修理業者の知見は、メーカーに戻りにくくなっていました。
では、協業を選んだ後、何を取り決めればよいのでしょうか。Dekkerは二つを区別します。投資・知識・成果を相手に一方的に取られる懸念(appropriation concerns)と、互いに依存する業務の調整(coordination requirements)です。鉄道設備の提携では、改良費用と節約額を扱う共同基金に加え、需要予測の共有、共同委員会、合同作業グループを設けていました。
長い取引歴と信頼があっても、詳細な契約は必要とされました。目的や役割を明確にし、経営者や担当者が変わっても協働を続けるためです。契約や原価情報は、相手を監視するだけでなく、仕事をつなぐためにも使われていました。
業務用機器の例なら、再販利益を公平に配分しても、回収量や故障情報が遅れれば整備は滞ります。反対に、作業が円滑でも、一方だけが投資を負担すれば続けにくくなります。費用・利益・情報の権利と、情報を渡す時期・判断の担当を、両方点検することが二つの研究から得られる着眼点です。
全てを内製すべきだという結論にはなりません。Hansenらは、閉じた仕組みが第三者の革新や仕組み間の連携を妨げる可能性にも触れています。必要な技能を使え、修理経験を設計や採算の見直しへ戻せる役割分担を考えます。
採算を確かめるには、時間と計算の範囲を考える
Linder & Willianderの研究では、電動自転車を保守付きの月額契約で提供する実験に、6人の有料利用者が参加しました。反応は良好で、販売店との連携にも見通しが立ちました。それでも経営者は本格展開を見送りました。
長く使った後の修理・再製造費用と、その時点での製品の魅力が未確認だったからです。再製造(remanufacturing)は、使用済み製品を整備するなどして新品と同等以上の品質に仕上げることです。部品寿命や技術の変化、次の利用者からの収入は、短い実験では十分に確かめられません。メーカーが所有権を持ち続けるなら、学び終える前に保有製品への資金負担も膨らみます。
ここにJørgensenらを重ねると、時間を待つだけでなく、計算の単位を点検する必要も見えます。装置メーカーの採算表は製品を一つずつ評価するため、共通部品の開発費を最初の製品に負担させ、後続製品で得る節約を十分に捉えられませんでした。CEでも、最初の販売だけで評価すると、後の保守や再提供で生じる便益が落ちる可能性があります。
同社では、開発チーム間の引継ぎで、構想側の原価見積りに、間接的に発生する変動製造費が入っていないことも判明しました。部品表を基幹システムへ登録した後に加算される費用を、初期見積りにも含めるよう修正しています。目標原価への合意と、計算に含める費用への合意は別です。
Dekkerの提携でも、運転・保守まで含む総保有コスト(total cost of ownership: TCO)の削減を目指しながら、買い手側の原価データ不足により、基金の計算では保守等の節約を十分に把握できませんでした。その部分は合理的な見積額を誠実に協議する課題として残りました。
三つを合わせると、採算の不確かさには、結果を待つ必要、製品・企業をまたぐ計算範囲、費用情報の不足があると整理できます。業務用機器でも、「まだ分からない」を一括りにせず、次の実験で確かめること、計算方法を直すこと、取引先と協議することを分けられます。
次の会議では、事業を広げる条件を具体化する
ここからは6本を組み合わせた実務への提案です。試行を次の段階へ進める会議では、次の5点を確認します。
- 広げる対象:取扱台数、商品、拠点のどれを増やすのか。
- 次に確かめること:顧客の継続意向、回収時の状態、整備工数、再提供先の需要のうち、何が未確認なのか。
- 仕事と利益の分担:誰が費用を負担し、便益を得るのか。誰が情報を渡し、どの会議で仕様・価格・契約を変えるのか。
- 計算の範囲:後続の製品や次の利用、他部門・取引先の費用は入っているか。引継ぎ先も同じ前提で計算しているか。
- 拡大する条件:どの前提を確認できたら増やすのか。未確認の便益を誰が判断し、それまで資金をどこまで投入するのか。
修理回数が想定を上回ったときも、現場の努力だけでなく、部品設計、保証条件、料金、対象顧客を見直せるようにします。試行で得た情報を、事業の仕組みを更新する材料に変えるためです。
読む順番と、6本から言える範囲
まずBockenらで「どこまで広がったか」を捉え、Santa-Mariaらで学習を支える仕事を考えます。次にHansen & RevellioとDekkerを続けて読み、内製・協業の選択から日々の取り決めへ進みます。最後にLinder & WillianderとJørgensen & Messnerを読み、採算を確かめる時間と計算範囲を点検すると、6本の役割が分かりやすくなります。
ただし、Bockenらは幹部層の回答による実施状況であり、同じ会社の全部門を追った調査ではありません。Santa-Mariaらは限られた事例から実務を整理し、Hansenらも四つの運営形態を一つずつのスマートフォン事例で検討しています。Linderらの一般的なリスクの議論には、事業モデル間の理論的比較も含まれます。
Dekkerは一つの提携の管理構造を説明した研究で、業績改善の効果を測ったものではありません。Jørgensenらも単一企業の開発過程であり、異なる戦略目標が最終的には収益性へ寄与すると理解されていた事例です。利益に還元できない社会・環境価値をどう守るかまで、同じ説明で扱えるとは限りません。
6本をつないでも、成功条件が普遍的に確定するわけではなく、事業の拡大だけで環境負荷の削減を確認したことにもなりません。何を学び、どの取り決めや判断を変えるかを整理するために読み合わせます。
対象論文と個別解説
How circular are large corporations? Evidence from a large-scale survey with senior leaders
Nancy M. P. Bocken, Jaan-Pauli Kimpimäki, Paavo Ritala & Jan Konietzko(2025) · Resources, Conservation & Recycling, 215, 108151
How do incumbent firms innovate their business models for the circular economy? Identifying micro-foundations of dynamic capabilities
Tomas Santa-Maria, Walter J. V. Vermeulen & Rupert J. Baumgartner(2022) · Business Strategy and the Environment, 31, 1308–1333
Circular value creation architectures: Make, ally, buy, or laissez-faire
Erik G. Hansen & Ferdinand Revellio(2020) · Journal of Industrial Ecology, 24, 1250–1273
Circular Business Model Innovation: Inherent Uncertainties
Marcus Linder & Mats Williander(2017) · Business Strategy and the Environment, 26, 182–196
Control of inter-organizational relationships: evidence on appropriation concerns and coordination requirements
Henri C. Dekker(2004) · Accounting, Organizations and Society, 29(1), 27–49
Accounting and strategising: A case study from new product development
Brian Jørgensen & Martin Messner(2010) · Accounting, Organizations and Society, 35(2), 184–204
原著本文に基づく読み合わせ · 2026年9月13日
複数論文のつながり、仮想例、実務・研究への問いは本欄の考察です。