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環境目標を部門の仕事と評価につなぐには

食品メーカーでKPIを作る過程から、会社の成果、部門の役割、報酬の関係を読む。

イタリアの食品メーカーMuttiにおける1年間のアクションリサーチ。16部門を対象に、2回の聞き取りと社内資料から指標・目標管理制度を共同設計。

環境KPI部門間協働目標管理と報酬
この記事の目次
  1. 「廃棄物を減らす」を、誰のどの仕事に落とすか
  2. 研究者が企業に入り、指標を一緒に作った
  3. 候補を絞る基準は、重要性と現場での使いやすさ
  4. 57指標には、それぞれ違う役割がある
  5. 水使用量を、生産計画と製造の相談につなぐ
  6. 目標値と報酬を、どう決めたのか
  7. 制度を作れたことと、効果があったことを分ける
  8. 原著は、付録の部門別指標から読むと具体的になる
  9. 書籍・研究とのつながり

まず押さえたいこと

  • 全社の環境指標を、部門が動かせる仕事の指標へつなぐ。指標を選ぶ際には、重要性だけでなくデータの入手可能性と担当部門の影響力も確かめる。
  • すべての指標を個人評価に使う必要はない。成果の把握、原因の診断、複数部門の協働という役割を持たせて組み合わせる。
  • 本研究が示したのは制度の設計過程である。環境KPIとボーナスの連動によって、社員の行動や環境成果が改善したという検証結果ではない。

「廃棄物を減らす」を、誰のどの仕事に落とすか

会社が廃棄物削減を目標に掲げたとします。工場には歩留まりの改善、購買には包装材の見直し、営業には期限の近い製品の販売、生産計画には作りすぎの防止という、それぞれ異なる仕事があります。全社の廃棄物量だけを会議で確認しても、誰が何を変えるのかは十分に見えてきません。

そこで必要になるのが、全社の成果と各部門の仕事を結ぶ重要業績指標(key performance indicators: KPIs)です。ただし、数字を部門ごとに割り振るだけでは、その部門では動かせない目標を背負わせたり、自部門の達成を優先して他部門に負担を移したりする可能性があります。

この論文は、食品メーカーの実際の業務から環境指標を作り、目標管理(management by objectives: MBO)と報酬へ結びつける過程を追います。読みどころは、会社の環境目標を「担当者が取り組める仕事」へ翻訳する方法です。

研究者が企業に入り、指標を一緒に作った

対象は、トマト加工食品を主力とするイタリアのMuttiです。研究は、研究者と実務家が協力して現場の課題を解決し、その過程から知見を得るアクションリサーチ(action research)として進められました。プロジェクトは1年間続き、研究チームの1人が日常的に社内で活動しました。

2020年6~10月には、製造、保全、生産計画、物流・購買、営業、人事など16部門の責任者や主要な担当者に、2回に分けて聞き取りを行いました。最初は、各部門が管理している仕事、環境への影響、利用できるデータを把握します。次に指標案を部門へ返し、実際に測定できるか、仕事の改善に使えるかを確かめました。報告書、手順書、作業指示書なども照合しています。

研究者が後から成功談を聞くだけではなく、指標の候補がどう選ばれていくかを近くで観察した点に特徴があります。一方、評価対象はこの会社で作った制度であり、多数の企業を比較して制度の効果を推定する研究ではありません。

候補を絞る基準は、重要性と現場での使いやすさ

本文では、最初の聞き取りから304の指標候補が生まれ、2回目の検討で208へ絞り、最終的に57指標の管理用一覧(dashboard)を作ったと説明されています。ここで注目したいのは、57という数を自社でも採用することではなく、絞り込む際の判断です。

重要性については、環境面への影響、地域の事情、法令対応という三つの面を評価しました。同時に、必要なデータがすでにあるのか、今後取得できるのかを調べ、情報システム担当とも確認します。さらに、担当部門がその数字を実際に動かせるかを重視しました。

たとえば、営業部門に工場全体の水使用量をそのまま持たせても、日々の仕事とのつながりは弱いかもしれません。反対に、販売期限が近い製品への対応であれば、営業が影響を与えられます。このように、測定可能性と担当者の影響力を同時に考えることが、全社目標を部門目標へ変える際の要点です。

ただし、集めやすいデータだけで指標を選ぶと、本当に重要な問題を見落とします。実務への応用では、すぐ測れる項目に加え、重要だがまだ測れない項目も把握しておくとよいでしょう。

57指標には、それぞれ違う役割がある

完成した指標体系は、全社の状態を見る指標と、その動きを詳しく調べる指標を組み合わせています。上位指標(top indicators)は7つで、製品量当たりのエネルギー使用量、水使用量、廃棄された製品の割合などが含まれます。

指標の役割何を見るか
上位指標7主な環境側面について会社の状態を把握する
第1階層の説明指標19上位指標を動かす部門の仕事を捉える
第2階層の説明指標17仕事の実施状況や原因をさらに詳しく調べる
複数の環境側面に関わる指標9一つの部門の活動が持つ幅広い関わりを見る
複数部門で管理する指標5共同で進める仕事を把握する

最後の二つは区別が必要です。前者には環境研修時間の割合など、一つの部門が担当しながら複数の環境側面に関わる指標があります。後者には、環境面を考慮した供給者の選定など、複数の部門が一緒に管理する指標があります。

この仕組みでは、同じ物差しをすべての部門に配る必要はありません。それぞれの仕事に合う数字を使いつつ、全社目標への関係を確かめることを目指しています。

水使用量を、生産計画と製造の相談につなぐ

付録の指標を読むと、部門間の関係が具体的になります。たとえば製造側には、製造ラインの洗浄回数、すすぎの回数、予定外の停止時間などの指標があります。生産計画側には、製品の配合や包装形態を切り替える回数、予定どおりに切り替えられたかを見る指標があります。

以下は、これらを実務で読むための例です。製品の切替えが増えることで洗浄の機会が増えているなら、製造部門だけに節水を求めても十分ではありません。生産計画側と、切替えの組み方や急な変更の理由を相談する必要があります。反対に、切替えを減らすためにまとめ生産を増やせば、在庫や期限切れの問題が生じるかもしれません。指標を並べることで、こうした相談の材料をそろえられます。

論文の制度では、上位指標を担当する部門が経営陣へ行動計画を示す際に、関連する下位指標も説明します。これにより、他部門の仕事も含めて目標の達成方法を考える設計です。上記の業務例はこの設計からの解釈であり、各指標間の因果関係が統計的に確かめられたわけではありません。

目標値と報酬を、どう決めたのか

会社は、上位指標と第1階層の説明指標を目標管理へ結びつけました。目標値は過去3年間の実績を使い、最もよかった年に50%、残る2年に各25%の重みを与えて計算します。毎年、最も古い年を外して更新する方式です。

たとえば、製品1トン当たりのエネルギー使用量は、過去3年が2.10、2.24、2.22 GJでした。使用量が少ない2.10を重く扱うと、翌年の目標は約2.17 GJになります。直近の2.22より改善を目指しますが、過去最良の2.10を上回る改善までは求めない水準です。

つまり、この方式が作るのは過去の実績に基づく目標です。長期的な環境目標や新設備の導入に必要な改善幅が、自動的に反映されるわけではありません。実務では、製品構成や操業条件の変化も踏まえて目標水準を判断する必要があります。

また、報酬への連動が導入された対象は部門長で、金銭的なボーナスでした。論文タイトルにある「employees」を、全従業員の個人評価へ一律に適用したと読むのは適切ではありません。

制度を作れたことと、効果があったことを分ける

この研究から確認できるのは、環境指標を部門別の業務と関連づけ、目標管理・報酬制度として具体化したことです。その結果、社員の行動がどれだけ変わり、廃棄物や排出量がどれだけ減ったかは検証されていません。著者らも、制度を一定期間運用したうえで、環境面・財務面の成果を追う必要があると述べています。

目標とボーナスの結びつきには、指標に入っていない仕事が軽視される、個別の目標達成が優先される、数値がよく見えるよう報告が調整される、といった懸念もあります。複数部門の指標を作ることは対応策の一つですが、それで問題がなくなると実証されたわけではありません。

指標の意味にも注意が必要です。たとえば環境研修の時間や環境活動への支出は、会社が投入した労力や資金を示します。研修後に仕事の仕方が変わったか、環境負荷が減ったかを直接示す数字ではありません。活動、業務上の変化、環境成果を読み分けることが、この指標体系を活用する条件になります。

原著は、付録の部門別指標から読むと具体的になる

まず図1で指標全体の役割を見てから、表3で上位指標を確認し、付録で自分の担当に近い部門を探すと読み進めやすくなります。次に方法の節へ戻り、なぜその指標を採用したのかを確認します。目標値に関心があれば表4、制度の効果については結論の限界の説明が重要です。

自社へ持ち帰るなら、既存の環境KPIを一つ選び、「この数字を動かす仕事は何か」「その仕事を誰が決めるか」「別部門との調整が必要か」を書き出すところから始められます。ここで担当と権限が一致していないことが見えれば、指標の追加より先に、仕事の分担や意思決定の場を見直す必要があるかもしれません。

この論文の価値は、その問いを具体的な業務とデータに即して考えられる点にあります。57指標の一覧は、そのまま採用する標準セットとしてではなく、設計の考え方を読み解くための事例として使えます。

書籍・研究とのつながり

ここからは本サイトの研究上の論点です。社内浸透を調べる際には、「環境KPIがあるか」に加え、誰が作成に参加したか、担当者が何を変えられるか、指標を使って他部門とどんな相談をしているかを追うと、制度と実際の仕事の関係が見えてきます。

また、指標を設けた後の変化を、①数字への理解、②会議や調整の変化、③業務上の判断の変化、④資源使用・廃棄などの成果に分けて観察できます。ボーナスとの連動が役立ったのか、共同で指標を作る過程が役立ったのかも、別の問いとして扱えます。本論文の設計事例を出発点に、その後の運用を追う研究が考えられます。

あわせて考える

『サステナビリティ戦略の実装』北田皓嗣・安藤光展

方針を日々の仕事と意思決定につなぐという観点から、書籍とあわせて読むための本欄の考察です。

対象論文

Creating environmental performance indicators to assess corporate sustainability and reward employees

Marrucci, L., Daddi, T., & Iraldo, F. (2024). Creating environmental performance indicators to assess corporate sustainability and reward employees. Ecological Indicators, 158, 111489. https://doi.org/10.1016/j.ecolind.2023.111489

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原著本文に基づく解説 · 2026年9月11日
応用例・実務への問い・書籍との接点は本欄の考察です。

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