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KPIの目標と責任は、どう決めれば仕事を支えられるか

重要な課題を見失わず、部門の役割・評価・社員の動機をつなぐ6本。

複数の論文をつなぐ解説読了 約9分

社内浸透と組織変革マテリアリティとKPI戦略とビジネスモデル
この記事の目次
  1. 未達の数字を、誰の責任として扱うか
  2. 6本が見ている単位と、問いの違い
  3. 管理できる範囲に絞ると、目的まで狭まることがある
  4. 全社の成果を残し、部門ごとの働きかけを具体化する
  5. 厳しく評価することと、数字だけで責めることを分ける
  6. 高い目標に納得することと、圧力に耐えることは同じではない
  7. 評価会議に、四つの問いを持ち込む
  8. 読む順番と、言える範囲
  9. 書籍・研究とのつながり
  10. 対象論文と個別解説

まず押さえたいこと

  • 全社として把握すべき成果と、部門・個人を評価する数字は、役割を分けて結びつけます。管理しにくいことだけを理由に重要課題を外さないためです。
  • 評価と支援は両立し得ます。単月の未達だけで判断せず、原因の分析、他部門への働きかけ、合意した対策の進展を確かめます。
  • 高い目標への意欲は、目標値だけでは決まりません。方法を選ぶ裁量、人材育成、協力関係、本人がどう受け止めているかを一緒に考えます。

未達の数字を、誰の責任として扱うか

食品廃棄を減らす目標が未達だったとします。工場は「急な生産変更が多い」、営業は「需要を読み切れない」と説明します。全社の廃棄量を各部門の評価へそのまま割り振れば、責任の押し付け合いになりかねません。しかし、各部門だけで動かせる数字に絞ると、会社全体の廃棄が減ったかを見失うおそれもあります。これは読み合わせのための仮想例です。

重要な成果を追うことと、公平に仕事を評価することを、どう両立するか。6本を使い、目標の範囲、部門間の役割、会議での評価、本人の動機をつなぎます。「責任」には結果の説明に加え、原因を調べ、協力を求め、対策を進める役割も含めて考えます。

6本が見ている単位と、問いの違い

組織の測定制度、部門の管理、社員の動機は別の対象です。ここでの接続は本記事の読み合わせであり、6本が一つの仕組みを共同で検証したわけではありません。

論文・方法責任を考える問い
Chuaら(2026)
自治体向け共通指標の改訂。79回の面接と会議観察・資料
行動につながる指標を求めると、何が測定から外れるか
Marrucciら(2024)
食品企業1社・16部門との指標の共同設計
全社の環境成果を、部門の仕事と評価へどうつなぐか
Jordan & Messner(2012)
製造業の一事業部・主力工場を28か月追跡
達成への圧力が強まると、不完全な指標はどう受け止められるか
Cäkerら(2022)
スウェーデンの工場1拠点。15回の面接と会議等の観察
上司への説明責任と、仕事を支える管理は両立するか
Pfister & Lukka(2019)
技術企業1社の経理部門。35回の面接と資料・訪問
高い目標を、自分にとっての価値として引き受ける条件は何か
Ruppら(2018)
5つの国・地域で働く673人への1時点の質問票
CSRへの認識と仕事への意欲の関係は、動機や価値観でどう違うか

Ruppらは、この組み合わせで唯一の質問票研究です。質的研究の語りと同じ種類の証拠として扱わず、動機の意味を吟味するために読みます。

管理できる範囲に絞ると、目的まで狭まることがある

自分たちが影響を与えられる範囲に即して評価する考え方が、管理可能性原則(controllability principle)です。ただし、何を「管理できる」とみなすかは一義的ではありません。他組織との協力や、数年後の変化まで含めれば、直接指示できる範囲より広くなります。

Chuaらの自治体向け測定制度では、数字を示すだけでは改善が進まないことから、業務に働きかけられる指標が重視されました。その結果、学校の指標は地域に住む子ども全体から、自治体が運営する学校へ対象が狭まります。批判を受け、後に両方を示す妥協が成立しました。

一方、同じ会議で地域全体のCO2排出を検討すると、高速道路の交通などには影響を与えにくいとして採用されませんでした。翌年に追加された食品廃棄の指標も、自治体の施設内が対象でした。改善に使いやすくする工夫が、市民に重要な問題を捉えるという目的を狭めたのです。

原著は個人の人事評価を調べた研究ではありません。それでも、会社の重要課題を部門KPIへ変えるとき、「担当部門で動かせないから外す」という判断に何が含まれるかを問い直す材料になります。

全社の成果を残し、部門ごとの働きかけを具体化する

Marrucciらは食品企業Muttiで、全社の環境状態を示す上位指標と、その動きを説明する下位の指標を組み合わせました。部門が影響を与えられる仕事を確かめ、複数部門が共同で管理する指標も含めています。目標管理(management by objectives:MBO)と報酬への接続対象は部門長で、全社員ではありません。

Chuaらが「狭くした結果、何が見えなくなるか」を示すのに対し、Marrucciらは「全社の成果と具体的な仕事をどう対応させるか」を示します。ただし、後者で報酬制度による環境改善の効果まで確認できたわけではありません。

冒頭の仮想例なら、全社の廃棄量を残しつつ、生産計画の変更、製造時の損失、期限が近い製品への営業対応を調べます。どの部門にも全体の責任を丸ごと負わせず、各部門の寄与と共同で決める事項を明確にするという応用です。会社として追う成果と、評価で求める働きかけを分けて接続します。

厳しく評価することと、数字だけで責めることを分ける

JordanとMessnerの事例では、現場は指標が仕事のすべてを表さないと知りながら、当初は柔軟に使えていました。達成までの期限や工場間比較などの圧力が強まると、測り方の不足と、指標に入らない目的が切実な問題になります。

Cäkerらは別の展開を描きます。上司への説明責任(hierarchical accountability)が強くても、会議が原因の分析と改善を助ければ、仕事を支える管理(enabling control)として受け止められていました。単月の未達には柔軟でも、以前に合意した分析が進んでいなければ、上司は厳しく指摘します。

安全の会議では、報告された危険な出来事が増えたことを、単純な悪化と扱いませんでした。従業員が報告するようになった面も捉え、原因を調べる指標を追加します。現場は補助情報を選び、KPI自体の変更は上司と協議できました。環境を新たな評価領域に加えたのも、現場からの働きかけでした。

評価する領域を安定させ、測定方法は協議して直し、原因を説明する補助情報は柔軟に選ぶ。この区別により、共通の関心を保ちながら現場の事情を示せていました。また、管理者には自部門だけでなく、上位の管理チームの一員として他部門の問題解決に参加する役割もありました。

評価を弱めれば支援になる、という二択ではありません。何の説明を求め、どの時間幅で評価し、指標の外側の情報をどう扱うかに違いがあります。これは異なる二つの事例の比較であり、特定の会議方式の効果を実験で確かめた結果ではありません。

高い目標に納得することと、圧力に耐えることは同じではない

PfisterとLukkaの経理部門では、従来の方法では達成しにくい高い目標(stretch targets)と報酬が導入されました。詳細な作業時間の記録は不信感を招き、18か月で中止されます。高い生産性への要求は残りましたが、改善方法を選ぶ裁量が重視されました。

著者らは、採用・育成、協働の文化、裁量の組み合わせが、「自分にはできる」「周囲とつながっている」「自分で選べる」という感覚を支え、目標を本人の価値として内面化する過程を説明します。難しい目標だけを移しても、同じ働き方が生まれるとは言えません。研究対象は、挑戦に適した人材を厳しく選抜する企業の一部門です。

改善の中身にも注意が要ります。工程の自動化や標準化に加え、人件費の低い拠点への外注化も含まれていました。費用ベースの生産性が上がることと、仕事量や資源使用量が減ることは区別が必要です。サステナビリティに応用するなら、負担が社外へ移っただけでないかも別に確認します。

Ruppらの自律的な動機(autonomous motivation)も、自由参加の制度そのものではなく、本人がなぜ関わるかを指します。ただし、CSRに自律的に関わるほど、CSRへの認識と仕事への活力・熱意・没頭の関係が一律に強くなったわけではありません。個人の価値観によって関係が異なりました。

両者に共通するのは、外から見える参加や達成だけで動機を判断しない点です。Pfisterらが経理業務での内面化の過程を説明するのに対し、RuppらはCSRをめぐる認識と意欲の関係を調べています。自律性が高ければどんなKPIでも有効、という一般則を導くことはできません。

評価会議に、四つの問いを持ち込む

以下は6本を踏まえた実務への提案です。KPIを一つ選び、担当者と評価する側で次を確かめます。

  1. 残すべき目的は何か。担当部門で動かしにくいという理由で、全社が追うべき成果まで外していないか。
  2. どこに影響を与えられるか。直接変更できる仕事、他部門・取引先との協力が要る仕事、効果が現れる期間を分けられるか。
  3. 未達の後、何を求めるか。原因の説明、合意した対策の実行、追加資源の判断が、次の会議につながっているか。
  4. 本人はどう受け止めているか。方法を変える裁量と支援はあるか。納得や関心と、評価への不安を区別して聞けるか。

改善しやすい指標への変更だけで終わらず、変更前に見ていた重要な成果も確認します。担当や目標を明確にする作業と、測定から抜けるものを点検する作業を組み合わせます。

読む順番と、言える範囲

まずMarrucciらで部門の指標設計を具体的に見てから、Chuaらでその境界を問い直します。次にJordanとMessner、Cäkerらを続けて読み、数値評価が現場を縛る場合と支える場合を比べます。最後にPfisterとLukka、Ruppらで、制度と本人の動機を分けて考えると、6本の違いが見えます。

質的な5本は、特定の組織や制度で起きた過程を説明しています。Ruppらも1時点の質問票で、因果関係を確定する設計ではありません。Pfisterらは高圧的な環境が長期の健康に与える影響を確かめておらず、Marrucciらは設計後の環境成果を未検証です。職場の納得、目標達成、社会・環境の改善を、別々の結果として確かめる必要があります。

書籍・研究とのつながり

『サステナビリティ戦略の実装』との接点は、会社が掲げた目標を、社員が取り組める仕事へ結びつける問いです。今回の読み合わせからは、その途中で責任の範囲を狭めすぎていないか、評価が協力や工夫を支えているかも問えます。

研究へつなぐなら、KPIの採用数だけでなく、候補から外れた課題、その理由、判断に参加した部門を追えます。さらに、未達を議論した会議で何の説明が求められ、予算・役割・目標がどう変わったかを記録すれば、制度の設計と社内浸透の関係を具体的に調べられます。

あわせて考える

『サステナビリティ戦略の実装』北田皓嗣・安藤光展

方針を日々の仕事と意思決定につなぐという観点から、原著の知見を読み合わせた本欄の考察です。

対象論文と個別解説

Creating environmental performance indicators to assess corporate sustainability and reward employees

Luca Marrucci, Tiberio Daddi, and Fabio Iraldo(2024) · Ecological Indicators

個別解説を読む → 原著の掲載ページ ↗

"What Is This Thing Called Controllability?" A Field Study of the Integration of the Controllability Principle in the Redesign of a Performance Measurement System

Wai Fong Chua, Johan Graaf, and Kalle Kraus(2026) · The Accounting Review

個別解説を読む → 原著の掲載ページ ↗

Enabling control and the problem of incomplete performance indicators

Silvia Jordan and Martin Messner(2012) · Accounting, Organizations and Society

個別解説を読む → 原著の掲載ページ ↗

Performance measurement systems, hierarchical accountability and enabling control

Mikael Cäker, Sven Siverbo, and Johan Åkesson(2022) · Accounting and Business Research

個別解説を読む → 原著の掲載ページ ↗

Interrelation of Controls for Autonomous Motivation: A Field Study of Productivity Gains Through Pressure-Induced Process Innovation

Jan A. Pfister and Kari Lukka(2019) · The Accounting Review

個別解説を読む → 原著の掲載ページ ↗

Corporate social responsibility and employee engagement: The moderating role of CSR-specific relative autonomy and individualism

Deborah E. Rupp, Ruodan Shao, Daniel P. Skarlicki, Elizabeth Layne Paddock, Tae-Yeol Kim, and Thierry Nadisic(2018) · Journal of Organizational Behavior

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原著本文に基づく読み合わせ · 2026年9月13日
複数論文のつながり、仮想例、実務・研究への問いは本欄の考察です。

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