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対象論文

Performance measurement systems, hierarchical accountability and enabling control

Cäker, Siverbo & Åkesson(2022)読了 約9分

KPIで評価しながら、現場の改善を支えるには

スウェーデンの工場で、毎月の問題解決と、時間をかけた業績評価がどう両立したか。

スウェーデンの多国籍企業の工場を約2年間追った単一事例研究。15回の面接、4日間の観察、社内資料から、KPIをめぐる上司・部下のやりとりを分析。

KPIと評価現場の改善上司と部下の対話
この記事の目次
  1. 評価に使うKPIは、現場の役に立たなくなるのか
  2. 一つの工場で、説明の求め方を追った研究
  3. 重点領域、部門の指標、補助情報を分ける
  4. 毎月の会議では、問題をどう扱うかを問う
  5. 報告件数の増加を、そのまま悪化としない
  6. 改善を待つことと、改善を求めないことは違う
  7. 現場の裁量を、指標の見直しと部門間の協力へつなぐ
  8. サステナビリティへ応用するときの読みどころと限界
  9. 原著は、三つの情報と二つの会議場面から読む
  10. 書籍・研究とのつながり

まず押さえたいこと

  • KPIを評価に使うことと、現場の改善を支えることは両立し得る。単月の未達だけで判断せず、原因分析と対策の進展を時間をかけて確かめる。
  • 工場全体で重視する領域、部門が使う指標、会議で補う情報を分けると、方針の一貫性と現場の事情への対応を両立しやすくなる。
  • 悪く見える数値にも説明が必要である。事例ではインシデントの報告増を一律に責めず、報告行動の変化と原因調査の必要性を検討していた。

評価に使うKPIは、現場の役に立たなくなるのか

KPIの未達を厳しく問えば、現場は説明しやすい数字を守ろうとする。一方、数字を問わなければ、改善が進んでいるか分からない。評価制度を運用する管理者にとって、身近な悩みです。この論文は、この二つをどう両立できるかを、工場の日々のやりとりから考えます。

著者らが注目するのは、仕事を進める助けになる管理(enabling control)です。現場が指標の設計に参加できるだけでなく、実際に指標を使うことで問題を説明し、必要な支援を受けられるかを問います。良い設計でも、会議での上司の応答によって使われ方は変わります。

JordanとMessnerの2012年論文では、数値達成を厳しく求めるようになると、指標が捉えきれない仕事が問題になりました。今回の研究は、管理・評価に使われる指標でも、現場を支える使い方はあり得ると、その条件を掘り下げています。

一つの工場で、説明の求め方を追った研究

対象は、多国籍企業のスウェーデン工場Producerです。企業名は仮名で、当時の従業員は約2,000人。地域を支える歴史の長い工場ですが、不況時の大規模な人員削減を経験し、海外の同社工場とも競争していました。改善への要求が弱い職場を選んだわけではありません。

研究は2015年に始まり、約2年間続きました。15回の面接に加え、研究者は4日間の観察で事業評価会議などに参加し、工場長にも同行しました。面接で語られた『問題解決を重視する会議』が、実際の応答にも現れるかを確かめ、社内資料と照合しています。

多数企業の平均的な効果を計算する研究ではありません。部下が何を説明し、上司がどう応じ、その後に何が求められるかを丁寧に追い、評価と支援が両立する仕組みを説明する事例研究です。

重点領域、部門の指標、補助情報を分ける

工場は以前、多数の指標に対応する行動計画を作る負担を抱えていました。そこで、社内の管理ではまず、安全、工程、変動費、固定費、品質の5領域を重視しました。後に現場からの提案で環境を加えています。次の三つを分けたことが、この事例を理解する鍵です。

何を決めるかこの工場での扱い
重視するKPI領域管理の方向を安定させるため、頻繁には変えない。
領域を測る具体的なKPI部門に合う指標を選び、変更は上司との協議を経る。
会議で補う情報(performance indicators: PIs)原因や対策を説明するため、現場が必要に応じて加える。

例えば品質という共通領域でも、成形部門は廃棄物量、組立部門は顧客からのクレームを用いていました。同じ数値を全階層へ割り振る方式より、各部門が改善できる事柄を重視しています。ただし、本社向けには従来の指標報告も続いていました。

毎月の会議では、問題をどう扱うかを問う

中心となったのは、月次の事業評価会議(business review meeting)です。2時間の会議で、各KPI領域に10~15分ほどを充て、現在の結果を過去の推移や目標と照らして検討しました。上司が求めたのは、数字の読み上げに加え、原因をどう調べ、次に何をするかという説明でした。

部下にとっても、現場の事情を説明できれば、助言や資源配分の支援を得られます。そのため、KPIの背景を理解し、別の情報も組み合わせる動機が生まれます。指標を修正する権限が用意されていることと、その権限を使う理由があることは別なのです。

このように上司と部下が行動の理由を求め、説明し合う関係を、階層的な説明責任(hierarchical accountability)として捉えます。責任を問う関係でも、やりとりの内容によっては、問題を一緒に理解する働きを持ちます。

報告件数の増加を、そのまま悪化としない

研究者が観察した安全の議論は、その働きがよく分かる場面です。休業を伴う事故のKPIは低い水準にありましたが、部門長は補助情報として、把握されたインシデントの件数が増えていることを示しました。

背景には、納期を優先して安全手順が軽視される問題がありました。したがって報告の増加は、危険が増えた可能性だけでなく、従業員が問題に注意を払い、報告するようになった変化も含みます。上司は増加した数字を直ちに責めず、インシデントの根本原因をもっと体系的に調べる必要があると議論しました。

この場面は、増えた数値が良いという一般論ではありません。何の変化が数値に表れているのかを確かめ、その説明から次の調査や対策を決めることが、指標を使う仕事だと示しています。

改善を待つことと、改善を求めないことは違う

会議の雰囲気が協力的でも、上司は評価を止めていませんでした。ある品質の議論では、以前から話していた対策が再び提案され、工場長が進展の乏しさを指摘する場面を研究者は観察しています。問題を抱えること以上に、約束した検討や対策が進まないことが問われました。

著者らは、会議で共同の問題解決を進める場面を前面の過程(foreground process)、過去の説明や結果を蓄積して評価する働きを背後の過程(background process)と分けます。短期の数値を急いで裁かず、分析や実行が進んでいるかを時間をかけて確かめることで、両者がつながります。

改善が長く進まなければ、能力の不足や担当の変更も検討対象でした。柔軟さは無条件の免責ではありません。何をいつまでに確かめるかという要求と、現場の事情を理解して待つ姿勢を併せ持っていました。

現場の裁量を、指標の見直しと部門間の協力へつなぐ

具体的なKPIには、年に一度、その有用性を見直す機会がありました。ある部門では、計画どおりの納入が安定してできるようになったため、納入の確実さよりも工程時間を測る方が次の改善に役立つと判断しています。変更は現場から提案できましたが、上司との話し合いを経る必要がありました。

評価を良く見せるために各部門が自由に物差しを変えると、全体の方針や時系列の比較が崩れます。この工場では、重点領域を保ち、変更理由を共有することで、その懸念に対応しました。環境の追加も、安定した枠組みを保ちながら現場の問題意識を上へ届けた例です。

さらに説明責任は管理者個人だけでなく、管理チームに求められました。自部門の数値だけでなく、隣の部門の問題にも関心を持ち、全体の改善に協力することが仕事に含まれていました。

サステナビリティへ応用するときの読みどころと限界

資源循環へ応用するなら、全社で重視する領域を共有し、現場が動かせる指標と、原因を説明する補助情報を分ける設計が考えられます。例えば廃棄物量の報告に、工程別の発生理由や試験中の材料の情報を添える。これは本記事からの応用で、原著がそのCE施策の効果を検証したわけではありません。

研究は一つの工場の事例で、長期在職の管理者、地域への根付き、スウェーデンの職場関係などの条件があります。厳しい上下関係の職場でも同じ対話が生まれるとは限りません。会議による調整に多くの時間も使われていました。

したがって、会議を増やせばよいという処方箋にはできません。研究が示したのは評価と支援が両立する仕組みであり、その導入によって環境負荷や利益がどれだけ改善するかという因果効果ではありません。

原著は、三つの情報と二つの会議場面から読む

まず5.1でKPI領域と具体的な指標の違いを押さえ、5.3の安全の議論、5.5の対策が進んでいなかった場面を読み比べてください。どちらも数値が良くない状況ですが、上司の応答が違います。その理由に、この研究の中心があります。

次に5.4で指標の修正とチームでの説明責任を確認し、表2へ戻ると、指標を使える制度と、実際に使いたくなるやりとりの違いが整理できます。自社では、直近の未達項目について『何を説明したか』『どんな支援を受けたか』『次回、何を確かめる約束をしたか』を振り返ると、会議の役割を点検できます。

書籍・研究とのつながり

『サステナビリティ戦略の実装』と関連づけるなら、社内浸透を、方針を知っている状態から、現場が問題を説明し支援を受けられる状態へ具体化する論文として読めます。環境という重点領域を加えるだけでなく、その領域で何を測り、悪い数値をどう扱うかまでが実装の課題です。

研究上は、現場から上がった情報が、指標の修正、資源配分、評価へどう届くかを追えます。KPIの有無や個数に加え、会議の前後で判断と行動がどう変わったかを見ることで、管理制度と社内浸透の関係をより具体的に捉えられます。

あわせて考える

『サステナビリティ戦略の実装』北田皓嗣・安藤光展

方針を日々の仕事と意思決定につなぐという観点から、書籍とあわせて読むための本欄の考察です。

対象論文

Performance measurement systems, hierarchical accountability and enabling control

Cäker, M., Siverbo, S., & Åkesson, J. (2022). Performance measurement systems, hierarchical accountability and enabling control. Accounting and Business Research, 52(7), 865–889. https://doi.org/10.1080/00014788.2021.1940076

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原著本文に基づく解説 · 2026年9月13日
応用例・実務への問い・書籍との接点は本欄の考察です。

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