まず押さえたいこと
- 会社のCSRへの認識、自分が関わる理由、仕事への活力・熱意・没頭を別々に捉える。
- 自律的な動機がCSRとの関係を一律に強めたわけではなく、個人の価値観によって結果が異なった。
- 5つの国・地域の673人を対象にした1時点の調査。因果関係や国別の最適な管理方法を確定する研究ではない。
この論文で考えたいこと
社員に企業の社会的責任(corporate social responsibility:CSR)への参加を促すとき、「自分で納得して関わってもらうことが大切だ」と考えるのは自然です。しかし、そこから「自律的に関わるほど、CSRは誰の仕事への意欲も高める」と結論づけてよいでしょうか。
Ruppらは、会社がCSRに取り組んでいるという社員の認識と、仕事への活力・熱意・没頭との関係が、参加の動機と個人の価値観によってどう違うかを調べました。カナダ、中国本土、フランス、香港、シンガポールで働く673人を対象とした質問票調査です。
前のAguinis & Glavasの論文は、社員がCSRの経験を解釈し、仕事の意義を見いだす過程を提案していました。本論文はそれに近い問いをデータで扱いますが、その理論モデル全体を検証した研究ではありません。結果には、著者らが予想していなかった部分もあります。
四つの概念を、混ぜずに読む
会社のCSRへの取り組みをどの程度認識しているか(CSR perceptions)は、企業の活動量や成果を外部から評価した値ではありません。社員が、教育支援、仕事と生活の両立、寄付、資源・エネルギーの無駄の削減、地域との連携といった取り組みを、どの程度行われていると捉えているかです。取り組みを誠実だと思うか、効果的だと思うかという判断とも区別されています(pp. 560, 565)。
納得や関心に基づいてCSRに関わる動機が、圧力や義務感に比べてどの程度強いか(CSR-specific relative autonomy:CSR-RA)が、二つ目の概念です。以下では「CSRに関わる動機の自律性」と表現します。単に自由参加の制度があることや、仕事の裁量が大きいことではなく、本人がなぜCSRに従い、参加し、周囲に働きかけるのかを捉えます。
三つ目は、他者から独立した自分の判断やあり方を重視する価値観(individualism)です。以下では原著に合わせ「個人主義」と呼びますが、利己的かどうかを判定する言葉ではありません。本研究は国籍からその人の価値観を決めず、各回答者に測定しています。測定には、自分で判断し行動することを重視する側面(horizontal individualism)を用い、他者との競争や優位性を強く含む側面とは区別しています(pp. 563, 566)。
四つ目は、仕事に活力を感じ、熱意を持ち、没頭している状態(work engagement)です。CSR活動への参加率や、会社への愛着そのものではありません。本研究では活力(vigor)、熱意(dedication)、没頭(absorption)の17項目から測定しています(p. 566)。
同じ参加でも、理由は違う
著者らが用いるのは、人が行動をどの程度自分の意思で選び取っているかに注目する自己決定理論(self-determination theory)です。本研究は特に動機の自律性に焦点を当て、関わる理由を次のように分けます(pp. 561–562)。
| 関わる理由の違い | 原語 | 理解のための言い換え |
|---|---|---|
| 規則や不利益を避けるために動く | external regulation | 求められており、従わないと不利益があると感じる |
| 恥・罪悪感を避けたり、自分をよく感じたりするために動く | introjected regulation | 関わらない自分を受け入れにくく、内面の圧力を感じる |
| 自分にとっての重要性や価値を認めて動く | identified regulation | 活動のすべてが楽しくなくても、取り組む価値に納得している |
| 活動そのものに楽しさや充実を感じて動く | intrinsic motivation | 取り組むこと自体に関心や喜びを感じる |
この表の日本語は概念を理解するための説明であり、原著の質問票を翻訳・検証した尺度ではありません。複数の理由は一人の中で併存しえます。全員が順番に通過する四つの成長段階でもありません。
特に大切なのは、「会社がなぜCSRをするのか」という推測と、「自分がなぜ関わるのか」という動機を分けることです。前者はGondらのレビューで扱った、会社がCSRに取り組む理由の推測(CSR causal attribution)に当たります。Ruppらが測っている自律性は後者です。同じ制度でも、本人が感じる動機は異なります(p. 562)。
どのように確かめたのか
対象者は、フルタイムで働きながらパートタイムのMBA課程に在籍する673人です。内訳はカナダ181人、中国本土109人、フランス132人、香港106人、シンガポール145人。営利・非営利の組織を含み、同じ組織から複数の回答者を集めた設計ではありません(pp. 564–565)。
ある1時点で回答を集める横断調査(cross-sectional survey)で、中心となる変数は本人が回答しています。CSRに関わる動機の自律性は、四つの動機の得点を重みづけして組み合わせた指標です。質問項目と計算方法はAppendix Aに示されています(pp. 578–579)。
分析では、関係の強さが条件によって変わるかを調べる交互作用(interaction)を用います。まず「CSRへの認識と仕事への活力・熱意・没頭との関係が、動機の自律性で違うか」を問い、さらに「その違いが、個人主義の強さによって変わるか」を検討しています。
年齢などに加え、自分自身が会社や上司から公正に扱われているという認識(first-party justice perceptions)や、道徳的であることを自分らしさの中心に置く程度(moral identity)も統計的に調整しています。これは、自分への扱いによる満足と、会社のCSRへの反応をできるだけ分けて検討するためです。ただし、調整したことだけで因果関係が確定するわけではありません。
結果:自律性の意味は、価値観によって違った
全体では、CSRに取り組んでいるという認識と仕事への活力・熱意・没頭に正の相関がありました(r = .32)。ただし、動機の自律性が高いほど、その関係が一律に強くなるという二変数の交互作用は、有意ではありませんでした。個人主義を加えた三変数の交互作用は有意で、関係のあり方が異なりました(Table 4, pp. 568–569)。
原著の条件別の結果を整理すると、次のようになります。
| 個人主義の程度 | CSRに関わる動機の自律性 | CSRへの認識と仕事への活力・熱意・没頭との関係 |
|---|---|---|
| 高い条件 | 高い条件 | 正の関係が明確(B = .26、p < .001) |
| 高い条件 | 低い条件 | 傾きは小さく、有意ではない(B = .07) |
| 低い条件 | 高い条件 | ほぼ平坦で、有意ではない(B = .00)。仕事への活力・熱意・没頭の水準自体は比較的高い |
| 低い条件 | 低い条件 | 正の関係が明確(B = .27、p < .001) |
出典はpp. 568–569の結果説明とFigure 3(p. 570)です。Bは条件ごとの関係の傾きを表す非標準化係数(unstandardized coefficient)で、上昇率の百分率ではありません。「高い・低い」は連続的な得点についての比較条件であり、社員を四つの固定的なタイプに分類したという意味ではありません。有意でない結果も、関係が存在しないと証明したものではありません。
個人主義が高い条件では、著者らの予想に沿って、自律性が高い方がCSRへの認識との結びつきが強くなりました。一方、個人主義が低い条件では逆の形になり、自律性が低い方で結びつきが強くなりました。
ただし、後者を「自律性を与えない方が社員の意欲は高くなる」と読むのは誤りです。関係を示す線の傾きと、仕事への意欲の水準そのものは別です。 Figure 3では、個人主義が低く自律性が高い条件の線は比較的高い位置でほぼ水平です。著者らは、なぜこの条件で全般的に高い水準だったのかは説明しきれず、再現研究が必要だと述べています(p. 571)。
この調査で言える範囲
第一に、1時点の質問票なので、CSRへの認識が仕事への意欲を高めたという因果関係は確定できません。もともと仕事に前向きな人が会社のCSRにも気づきやすい、といった別の説明が残ります。著者らも実験や時間を追う研究を求めています(p. 572)。
第二に、中心となる変数を同じ人の回答から測るため、回答傾向が変数間の関係に影響する可能性(common method variance)があります。著者らは診断的な分析を行っていますが、それをもって影響を完全に排除したとは言えません。
第三に、複数の国・地域を含みますが、国民性のランキングや国別の最適施策を検証した研究ではありません。日本は調査対象に含まれず、MBA課程に在籍する社会人という標本にも偏りがあります。国・地域間で質問が同じ概念を測るかの検討についても、著者らは完全に決着したとはしていません(p. 573)。
第四に、仕事に感じる意義を経由する過程そのものや、客観的なCSRの成果は検証していません。仕事への活力・熱意・没頭と、排出量削減・人権への配慮・業績改善は別の結果です。また、自己決定理論が扱う「人とつながっている感覚」や「自分にはできるという感覚」まで含めて検証した研究でもありません(pp. 571–573)。
社内浸透への応用:参加率の先を聞く
以下は、結果と限界を踏まえた本記事の応用例です。著者らが実験で効果を確認した施策ではありません。
例えば、CSR活動の参加率が高い部署でも、その理由は、活動への関心、本人にとっての価値、周囲の期待、評価への不安などで異なります。「参加しているから浸透している」と判断する前に、なぜ関わっているのかを確かめる余地があります。
| 実務で確かめたいこと | 本論文から得られる視点 |
|---|---|
| 取り組みの認識 | 社員は具体的にどの取り組みを知っているか。参加機会を知らないことと、関心がないことを分ける |
| 関わる理由 | 自分にとっての価値や関心があるか。圧力や罪悪感で関わっている部分はないか |
| 関わり方の支援 | 自分で提案する余地と、目的・役割・進め方の明確さを、本人はどう受け止めているか |
| 生じている変化 | 参加率、仕事への意欲、業務の変更、社会・環境への成果を分けて確認する |
著者らは、個人主義が低い社員には明確な期待を伝えること、高い社員には選択の余地を重視することを実務上の示唆として挙げています(p. 573)。ただし、結果には未解明の部分があり、国籍や一つの価値観だけで管理方法を決める処方箋として使うことは勧められません。ここは本記事の解釈上の留保です。
研究につなぐなら、取り組みの目的説明や提案の機会を変えた前後で、本人の動機、仕事への意欲、実際の行動を別々に追う方法が考えられます。その際、法令順守などの義務と、任意の参加・提案の機会を区別する必要があります。「自律性」を、すべての業務を自由参加にすることと同一視しないためです。
原著を読む順番
- pp. 561–562のFigure 1・Figure 2で、検証する関係と、動機の四つの違いを押さえる。
- pp. 564–566とAppendix A(pp. 578–579)で、対象者と質問内容を確認する。「会社の活動」「自分の動機」「仕事への状態」のどれを測っているかを読む。
- pp. 568–569の結果説明とTable 4で、二変数と三変数の交互作用を区別する。
- p. 570のFigure 3では、線の傾きと高さを分けて読む。その後p. 571で、予想外の結果への著者らの説明を確認する。
- pp. 572–573で、因果推論・測定・国際比較の限界を踏まえてから、実務への示唆を読む。
読み終えたら、三つの問い
- 自社で把握している「浸透度」は、認知、参加、本人の動機、仕事への意欲のどれでしょうか。
- ある条件でCSRとの関係が弱いことを、その社員の意欲が低いことと取り違えていないでしょうか。
- 自分で提案できる余地と、明確な役割や支援は、現場でどのように組み合わせられるでしょうか。
対象論文
Corporate social responsibility and employee engagement: The moderating role of CSR-specific relative autonomy and individualism
Rupp, D. E., Shao, R., Skarlicki, D. P., Paddock, E. L., Kim, T.-Y., & Nadisic, T. (2018). Journal of Organizational Behavior, 39(5), 559–579.
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ページ番号は原論文の印刷頁。応用例・読後の問いは本記事の考察です。