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数字を共有しても、部門の判断がそろわないのはなぜか

予測、現場の知識、図の使い方、資源配分から、部門をまたぐ判断の条件を読む。

複数の論文をつなぐ解説読了 約9分

社内浸透と組織変革マテリアリティとKPI戦略とビジネスモデル
この記事の目次
  1. 同じ画面を見ているのに、会議が進まない
  2. 6本が調べた場面を区別する
  3. 「達成したい数字」と「起こりそうな数字」を分ける
  4. 図は、違いを話す入口にも、話を終える合図にもなる
  5. 情報が見えることと、協力したくなることは別の問題
  6. 案件のKPIがよくても、全体では続けられないことがある
  7. 一つの会議で、何を決め直せるかを確かめる
  8. 読む順番と、この読み合わせの限界
  9. 書籍・研究とのつながり
  10. 対象論文と個別解説

まず押さえたいこと

  • 数字の食い違いには、情報不足だけでなく、目標と予測の混同、現場ごとの知識、互いに依存する仕事の事情が関わります。集計する前に、何を表す数字なのかを確かめます。
  • 図や情報の共有は対話を支えますが、説明を省きすぎたり、部門別の評価と結びついたりすると、問い直しや協力を難しくする場合もあります。
  • 全員の解釈を同じにする必要はありません。異なる見方を持ち寄り、前提、優先順位、担当する仕事を共同で決め直せるかが実務上の焦点です。

同じ画面を見ているのに、会議が進まない

使い終えた業務用機器を回収し、整備して再販売する事業を広げたい。経営会議の画面には、回収台数、再販売の見通し、整備費用、納期が並びます。しかし営業は販売拡大を、整備部門は作業能力を、財務は在庫と採算を気にしています。数字は共有したのに、増産するか、追加設備を買うかが決まりません。

これは本記事で用いる説明用の仮想例です。部門の反応が違うことを、方針の理解不足だけで説明できるでしょうか。営業が顧客を、整備担当が故障の状態を、財務が資金の動きを詳しく知っているなら、見方の違いには仕事を進めるための情報も含まれています。

6本をつないで考えるのは、判断を一つにそろえる方法というより、何について見方が違い、その違いをどう次の決定へ結びつけるかです。原著は一般的な管理会計の実践を調べた研究であり、循環型事業への応用は本記事の考察です。

6本が調べた場面を区別する

研究は同じ会社の一連の変革を追ったものではありません。調査対象と観察した過程を比べると、どの知見を持ち帰れるかが分かります。

論文・方法焦点
Jordan & Messner(2020)
製造業の事業部と販売網。29人に40回の面接、追加面接1回、計画会議7回。
売上予測の精度を評価しても、計画が難しい理由
Goretzki, Strauss & Wiegmann(2018)
ソフトウェア企業の全社システム開発を27か月調査。面接、試作品テストの観察、資料。
現場のExcelが設計を変える過程
Busco & Quattrone(2015)
石油・ガス企業のBSC導入。49回の面接、会議・研修の観察、資料。
図を書き換えることで続く部門間の対話
Ronzani & Gatzweiler(2022)
鉄道建設プロジェクト。30人に42回の面接、30日間の参与観察、報告書。
図の単純化で背景の説明が後景化する過程
Lachmannら(2024)
ドイツの非営利病院4組織。経営側・医療側などへの40回の面接と資料。
情報の透明性と部門間の資源獲得
Carlsson-Wallら(2021)
ABBのロボット事業部。35人への49回の面接を中心に、22日間の現場調査と資料。
案件別の管理と開発全体の優先順位

「達成したい数字」と「起こりそうな数字」を分ける

JordanとMessnerの事例では、販売担当者に正確な予測を求める一方、年度の売上目標を達成する意思も強く求めていました。見通しを下げると意欲を疑われるなら、予測には目標への約束が入り込みます。予測精度(forecast accuracy)の指標を加えても、別の評価への対応が数字を動かすのです。

さらに、実現する売上は販売担当者だけでは動かせません。工場が供給できなければ、顧客が注文前に諦める場合もあります。その需要は受注実績に残らず、予測と実績の差を本人の努力だけで評価することは難しくなります。これが、担当者の働きかけが及ぶ範囲、すなわち管理可能性(controllability)の問題です。

Goretzkiらを重ねると、数字を作る方法にも地域の知識が入っていると分かります。全社の財務予測システムを開発した際、現場独自の表計算、つまり現場で作られた会計システム(vernacular accounting systems)が、季節性や地域ごとの事情を設計者へ説明する材料になりました。試作品に同じ実データを入れることで、抽象的な要望だけでは見えなかった違いが表れました。

仮想例なら、年間の再販売目標と、今月整備できそうな台数を分け、現場の表で行っている調整を確認します。両論文は、数字を正直に出してもらうために評価を厳しくする前に、何を予測し、どの制約と知識を計算に入れているかを検討する必要を示しています。

図は、違いを話す入口にも、話を終える合図にもなる

BuscoとQuattroneでは、財務と技術の担当者が、戦略と指標を結ぶバランスト・スコアカード(Balanced Scorecard:BSC)を共同で書き換えていました。技術側の図へ財務側が費用や予算の視点を持ち込み、方針が各部門の仕事に照らして具体化されます。同じ図式を使っても、意味まで一つになったわけではありません。

対してRonzaniとGatzweilerの鉄道事業では、図、数値、コメントを併記した大きな報告ポスターが会話を呼び込みましたが、さらに図を中心に単純化した報告では、線の位置から良否を判断する見方が定着しました。詳細情報は別に残っていても、日常の議論では数値や文章が後景化していったのです。

この違いは、図がよいか悪いかだけでは説明できません。図・数字・言葉を組み合わせる多様な表現形式(multimodality)を、どの会議でどう使うかが問われます。前者では書き換える余地が検討を支え、後者では見慣れた形が、立ち止まって確かめる機会を狭めていました。

仮想例の回収台数が緑色でも、整備待ちの在庫や品質の偏りは分かりません。画面を詳しくするだけでなく、色の理由を説明できる人が参加し、必要なら集計範囲や次の確認事項を変えられるかが検討点になります。

情報が見えることと、協力したくなることは別の問題

Lachmannらの病院では、経営側は部門別の業績を広く見せることで、互いに学び、改善することを期待していました。しかし医師が財務の数字に関心を持つ理由には、自部門の診療と必要な資源を守ることも含まれていました。数字を使い始めたからといって、経営側と同じ目的を持ったとはいえません。

透明性(transparency)が経営側との話し合いを支える一方、部門間では「自分たちの成果に見合う資源が欲しい」という主張を強める場合がありました。情報を制限した病院にも、医師の交渉力が弱まり、経営側との緊張が生まれる問題がありました。単に共有範囲を狭めれば解決するという研究ではありません。

Jordanらで問題になった異なる評価目標は、ここでは資源の配分にも関わっています。仮想例で営業の再販売売上だけを評価し、整備部門に追加作業と在庫の負担が残るなら、共通画面だけでは協力の条件が整いません。誰が費用を負担し、どの部門の貢献として認めるかも話す必要があります。

案件のKPIがよくても、全体では続けられないことがある

Carlsson-Wallらが調べたロボット事業部では、制御盤の開発案件が技術・原価の目標を満たしていても中止されました。景気と顧客の変化により重視する市場が変わり、別の案件との組み合わせの方が事業部の方針に合うと判断されたためです。

この判断をまとめたのは、部門横断の製品開発フォーラムでした。案件別の管理資料と顧客の反応を持ち寄り、開発全体の優先順位へ結びつけています。著者らがいう判断の拠り所となる管理実践(management control anchor practice)は、こうして他の管理資料の位置づけを方向づける実践を指します。

ここまでの5本が数字の作り方、見せ方、受け止め方を問うのに対し、この研究は異なる判断材料が集まった後に、誰が何を基準に決めるかを加えます。仮想例でも、回収目標を達成したことと、整備・再販売を拡大すべきことは別の判断です。品質、資金、他案件への影響を含め、続行・変更・中止の理由を説明できる場が必要になります。

一つの会議で、何を決め直せるかを確かめる

実務へ引き寄せるなら、会議を増やす前に、既存の計画会議で一つの案件を取り上げます。次の四つは、この読み合わせから考えられる問いです。

  • この数字は目標、予測、実績のどれか。現場の調整や供給の制約は、どこに表れているか。
  • 同じ図から違う判断をした人は、どんな経験や資料を根拠にしているか。元の数字と説明へ戻れるか。
  • 提案を進めると、誰の仕事、費用、評価が変わるか。その担当者は検討に参加しているか。
  • 案件の達成状況と全体の方針が合わないとき、誰が前提や優先順位を決め直せるか。

Goretzkiらでは、現場が既存のExcelを使い続けられることが、設計側との交渉を支えました。Buscoらでは、図を更新する会議が繰り返されました。単に発言を募るだけでなく、提案で何を変えられるかが違いを生みます。会議後には、合意した行動とともに、残った見解の違い、次に確かめる条件を残す使い方が考えられます。

読む順番と、この読み合わせの限界

身近な計画の問題から入るなら、JordanとMessnerで目標と予測の衝突を読み、Goretzkiらで計算に含まれる現場の知識へ進みます。次にBuscoとQuattrone、RonzaniとGatzweilerを対にして、図が対話を続ける場合と狭める場合を比べます。Lachmannらで評価と資源配分、Carlsson-Wallらで案件を超えた優先順位まで広げる順番です。

いずれも過程や認識を詳しく捉えた研究です。Goretzkiらは開発後の全社システムの実際の使用を観察していません。Jordanらの協働的な予測運用も調査の終盤に始まり、精度が継続的に改善したかは未確認です。図の簡略化が事業の遅延を起こした効果や、開発案件の中止が正解だったことを証明した研究でもありません。

したがって、ここから万能な会議方式やKPIを選ぶことはできません。持ち帰れるのは、同じ情報を配った後にも残る知識・利害・権限の違いを捉え、互いの説明を判断と修正につなぐ過程を調べる視点です。

書籍・研究とのつながり

『サステナビリティ戦略の実装』との接点は、方針が日々の仕事に入るとき、部門ごとの解釈や責任をどうつなぐかという問いです。この読み合わせは、認知や賛同に加え、会議の資料、計算の前提、費用の分担が実際に変わる過程へ目を向けます。

研究へ広げるなら、一つの回収・再販売計画について、予測表、会議資料、改訂履歴を対応させ、誰の説明で何が変わったかを追えます。在庫・費用・廃棄物の変化と組み合わせる際も、会議があったことだけで成果を説明せず、変更された仕事と、その結果を分けて確かめる必要があります。

あわせて考える

『サステナビリティ戦略の実装』北田皓嗣・安藤光展

方針を日々の仕事と意思決定につなぐという観点から、原著の知見を読み合わせた本欄の考察です。

対象論文と個別解説

The Use of Forecast Accuracy Indicators to Improve Planning Quality: Insights from a Case Study

Silvia Jordan and Martin Messner(2020) · European Accounting Review

個別解説を読む → 原著の掲載ページ ↗

Exploring the Roles of Vernacular Accounting Systems in the Development of “Enabling” Global Accounting and Control Systems

Lukas Goretzki, Erik Strauss, and Leona Wiegmann(2018) · Contemporary Accounting Research

個別解説を読む → 原著の掲載ページ ↗

Exploring How the Balanced Scorecard Engages and Unfolds: Articulating the Visual Power of Accounting Inscriptions

Cristiano Busco and Paolo Quattrone(2015) · Contemporary Accounting Research

個別解説を読む → 原著の掲載ページ ↗

The lure of the visual: Multimodality, simplification, and performance measurement visualizations in a megaproject

Matteo Ronzani and Marian Konstantin Gatzweiler(2022) · Accounting, Organizations and Society

個別解説を読む → 原著の掲載ページ ↗

Transparency in performance measurement systems: an exploration of rationales and diverging perceptions in the hospital setting

Maik Lachmann, Rouven Trapp, and Felix Wenger(2024) · Journal of Management Control

個別解説を読む → 原著の掲載ページ ↗

Exploring the Role of Management Control Anchor Practices in new Product Development

Martin Carlsson-Wall, Lukas Goretzki, Kalle Kraus, and Johnny Lind(2021) · European Accounting Review

個別解説を読む → 原著の掲載ページ ↗

原著本文に基づく読み合わせ · 2026年9月13日
複数論文のつながり、仮想例、実務・研究への問いは本欄の考察です。

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