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重要課題を選んだ後、何を変えるのか

マテリアリティの対話を、部門の仕事・予算・KPIの運用までつなぐために。

複数の論文をつなぐ解説読了 約9分

社内浸透と組織変革マテリアリティとKPI情報開示と成果の検証
この記事の目次
  1. 「資源循環が重要です」の先を考える
  2. 6本は、それぞれ別の場面を見ている
  3. 重要課題には「誰にとって重要か」が含まれる
  4. 同じ言葉を使っても、目指すものは同じとは限らない
  5. 課題の評価と、予算が付くことの間を確かめる
  6. 全社の成果を、部門が動かせる指標へ翻訳する
  7. KPIを作った後、その使い方が問われる
  8. 一つの重要課題で、決め直すところまで試す
  9. 書籍・研究とのつながり
  10. 対象論文と個別解説

まず押さえたいこと

  • 重要課題の特定には、誰の声を聞き、何を比較し、どこまでを会社の責任とするかという判断が含まれます。結果の一覧とあわせて、その判断を確かめます。
  • 課題を仕事に結びつけるには、担当・権限・予算に加え、社外の協力先との判断も具体化します。会計や環境評価の前提を、誰が問い直せるかが重要です。
  • 指標には捉えきれない事柄が残ります。数字の達成を求める場で、現場が背景を説明し、指標や計画を見直せるかが重要です。

「資源循環が重要です」の先を考える

資源循環を重要課題に選び、経営会議で承認し、報告書にも掲載する。それでも、購買は従来の価格基準で材料を選び、生産は当月の歩留まりを優先し、開発は既存の仕様を使い続けるかもしれません。課題への賛同と、日々の判断の変化の間には、まだ仕事が残っています。

ここでは、再生材の利用を増やしたい製造業を説明用の仮想例として考えます。仕入価格、品質、供給の安定性、環境負荷をどう扱い、誰が試験費用を持つのか。このような具体的な判断に下りてみると、重要課題の特定だけでは決まらないことが見えてきます。

6本の論文をつなぐ問いは、「何が重要か」という対話を、誰が何を変えるかという判断へ、どう結びつけるかです。重要課題を評価する研究に、包装の共同開発を追った研究を重ね、課題の選定後も誰の声を聞き続けるかを考えます。ここで示すつながりは、本記事による読み合わせです。

6本は、それぞれ別の場面を見ている

論文の結論を並べる前に、何を調べた研究なのかを整理しておきます。同じ会社を最初から最後まで追った一続きの物語として読むと、研究が確かめた範囲を超えてしまいます。

論文・調査対象この読み合わせで答える問い
Puroila & Mäkelä(2019)
44件のサステナビリティ報告書
重要課題の選び方は、どのように説明されているか
Wangら(2025)
基準設定者など幅広い関係者への91回の面接と資料
マテリアリティという言葉が、異なる立場をどう結びつけ、分けるか
Aureliら(2025)
包装を共同開発する6社で構成された一つのネットワーク
誰の情報で開発を進め、誰が評価の前提に参加できるか
Kapplmüllerら(2025)
資源を事業基盤とする多国籍企業1社の事例
課題を評価する過程が、組織の変化とどう関わるか
Marrucciら(2024)
食品企業1社での指標の共同設計
環境目標を部門の指標・評価へどう具体化するか
Jordan & Messner(2012)
製造企業の事業部・主力工場を28か月追跡
指標の使い方が変わると、現場の受け止め方はどう変わるか

読む順番は、PuroilaとMäkelä、Wangらで課題の選び方と言葉の働きを押さえ、Aureliらで開発判断への参加を考えます。続いてKapplmüllerら、Marrucciら、JordanとMessnerへ進み、予算・部門の仕事・評価への接続を確かめます。Aureliらはマテリアリティ評価自体の研究ではなく、その先の実践を考えるための参照です。

重要課題には「誰にとって重要か」が含まれる

PuroilaとMäkeläは、マテリアリティ(materiality)の評価が、中立的な測定のように説明されることを問い直します。報告書に整ったマトリックスがあっても、聞き手の選定や点数の付け方には価値判断が入っています。異なる利害を一つの尺度で比較可能にすることを、共通尺度化(commensuration)と呼びます。

仮想例では、再生材の調達価格を気にする購買部門と、採掘による地域への影響を気にする人々では、重要性の意味が違います。結果の順位だけでなく、誰の懸念を残し、どの意見を採用しなかったかを確認します。ただし、報告書からは見えない対話もあり、開示の不足だけで検討がなかったとは決められません。

Aureliらを重ねると、この問いは課題の選定後にも続きます。堆肥化可能な包装を共同開発した6社では、企業間のOpen Labで技術・市場・環境の情報を持ち寄りました。一方、そこに消費者団体や廃棄物処理の関係者は参加していません。開発に必要な企業が集まることと、影響を受ける人が判断へ参加できることは、同じではないのです。

同じ言葉を使っても、目指すものは同じとは限らない

Wangらは、マテリアリティが異なる関係者の接点になる一方、立場を隔てる言葉にもなる過程を描きます。異なる専門や組織をつなぐ共通の対象が境界対象(boundary object)、役割や領域を交渉する活動が境界作業(boundary work)です。主にサステナビリティ報告を形づくる分野全体の関係を調べています。

Aureliらでは、製品の一生を通じた環境影響を調べるライフサイクル評価(life cycle assessment:LCA)が、社外との相談を生みました。原料メーカーAlfaは処理施設と話し、実際に受け入れられる包装の条件を確かめていました。自治体や非営利組織の懸念も間接的に検討へ入り、材料の性質だけでなく、使い終えた後の処理まで論点が広がったのです。

しかし、社外との接点は主にAlfaへ集中し、相手の種類ごとに分かれた会合では、異なる立場が互いの前提を検討する機会が限られました。対話を重視する会計(dialogic accounting)が問うのは、情報を集めたかに加え、誰が評価範囲や計算の前提を問い直せるかです。LCAを導入しても、費用や社会面まで評価したわけではありません。

仮想例なら、「再生材を何%使うか」に加え、回収や品質への負担を誰に尋ね、その答えで仕様や調達条件をどう変えるかを決めます。共通の言葉や評価表を作った後にも、判断の目的と参加の仕方を確かめる必要があります。

課題の評価と、予算が付くことの間を確かめる

Kapplmüllerらは、ダブル・マテリアリティ評価(double materiality assessment:DMA)を通じ、理解、参加、責任、継続的な見直しがどう生まれるかを調べます。事例では、社会・環境への影響を収益・費用・リスクと結びつける説明が、予算や資源の獲得で役立ったと語られています。一方、サステナビリティ目標と財務目標を共通の予算・予測へ統合する点には課題が残りました。

対してAureliらの包装開発では、売上や採算を予測しにくく、正式な投資評価や会計部門の関与は限定的でした。担当者は顧客の声、技術評価、必要な技能などを自ら整理し、非公式な会計情報(informal accounting)として判断に使っていました。正式な採算計算に載らないことは、判断材料がないことを意味しません。

両者を読むと、環境上の目的を財務へ翻訳する必要と、財務予測が難しい段階でも検討を進める必要が見えてきます。ただし後者も、中長期の採算を考えなくてよいという意味ではありません。仮想例では、試験費用を承認する際に、現時点で分かる費用、未確定の条件、次の試験で確かめる情報を区別します。

どちらも個別の過程を描く事例研究です。DMAが資源配分を変える効果や、非公式な情報が収益・環境成果を高める効果を比較検証したものではありません。参考になるのは、理解や意欲が生まれた後に、どの情報と手続きで次の判断へ進むかです。

全社の成果を、部門が動かせる指標へ翻訳する

Marrucciらは、イタリアの食品企業Muttiで、部門の担当者とともに環境指標を設計しました。問うたのは、何が重要かに加え、どのデータがあり、その数字に各部門がどの程度働きかけられるかです。完成した仕組みは、全社的な結果を表す指標と、その変化を説明する下位の指標、複数部門に関わる指標を組み合わせています。

これを仮想例で考えると、全社の再生材利用率だけを購買部門へ割り当てても、購買だけでは製品仕様や品質基準を変えられません。開発が再生材を使える仕様を検討し、品質部門が検証し、購買が供給条件を整える。それぞれの仕事と、共同で判断する箇所を指標に対応させます。

論文では目標管理(management by objectives:MBO)と金銭的報酬を部門長に結びつけています。全社員に適用した制度ではなく、報酬による環境成果の改善も、この研究段階では検証されていません。参考になるのは、全社目標をそのまま配る前に、各部門の影響力と協力の必要性を確かめる設計過程です。

KPIを作った後、その使い方が問われる

ここでJordanとMessnerを重ねると、評価制度へ結びつける際の難しさが見えます。研究では、現場の管理者は指標が仕事のすべてを表さないと知りながらも、当初は柔軟に使えていました。ところが経営側が数値の達成を強く求めるようになると、その不完全さが切実な問題になりました。

仕事を進める助けになる使い方が、現場を支える管理(enabling control)です。一方、事情を考慮する余地が狭まり、指標への適合が優先されると、現場を縛る管理(coercive control)として受け止められます。指標の算式だけを改善すれば解決するわけではありません。

仮想例で再生材利用率が下がったとき、担当者は「未達でした」と報告するだけでしょうか。それとも、不良の発生、必要な追加試験、供給の問題を説明し、次の打ち手を提案できるでしょうか。Marrucciらが指標と評価の接続を具体化するのに対し、JordanとMessnerは、その接続が現場の判断を助けているかを問い返します。

一つの重要課題で、決め直すところまで試す

実務への応用として、重要課題を一つ選び、次の意思決定までたどってみます。再生材の試験導入なら、社会・環境上の目的、変える仕様や調達条件、担当と協力先、必要な費用、確認する指標を一枚に整理します。その際、影響を受ける相手と、判断の場に参加できる相手が一致しているかも確かめます。

次の会議で数字が動かなかった場合、追加試験に進むのか、別の材料を探すのか、目標や測定範囲を見直すのか。LCAや採算計算に置いた仮定のうち、誰の情報で何を更新するかを話しておきます。会議の結果として、決定内容だけでなく、残った異論と次に確かめる条件も記録できます。

重要課題を選ぶこと、仕事を変えること、変化を確かめることを往復できるか。6本を読むと、マテリアリティとKPIを完成させるだけでなく、その間をつなぐ情報、対話への参加、予算と評価の運用を検討できます。

書籍・研究とのつながり

『サステナビリティ戦略の実装』との接点は、掲げた方針を日々の仕事にどう結びつけるかという問いにあります。この読み合わせでは、その問いを、課題の選定に参加できる人、予算を決める人、指標で評価される人の関係へ具体化しています。

研究を広げるなら、重要課題の一覧やKPIの有無に加えて、どの会議で、誰の提案によって、仕様・予算・評価が変わったかを追うことが考えられます。社外の懸念が担当者を介して伝わる場合には、その声がどのように要約され、判断に残ったかも調査対象になります。廃棄物や資源利用のデータと、現場が説明した変更理由を組み合わせれば、数値の変化と組織の判断をつなぐ過程を検討できます。

あわせて考える

『サステナビリティ戦略の実装』北田皓嗣・安藤光展

方針を日々の仕事と意思決定につなぐという観点から、原著の知見を読み合わせた本欄の考察です。

対象論文と個別解説

Matter of opinion: Exploring the socio-political nature of materiality disclosures in sustainability reporting

Jenni Puroila and Hannele Mäkelä(2019) · Accounting, Auditing & Accountability Journal

個別解説を読む → 原著の掲載ページ ↗

Sustainability (Environmental, Social, and Governance) Reporting: Tracing Materiality’s Visionary and Relational Role over 25 Years through Boundary Objects and Boundary Work

Di Wang, Stuart M. Cooper, Christopher S. Chapman, and Donato Calace(2025) · The Accounting Review

個別解説を読む → 原著の掲載ページ ↗

Management accounting for a circular economy: current limits and avenue for a dialogic approach

Selena Aureli, Eleonora Foschi, and Angelo Paletta(2025) · Accounting, Auditing & Accountability Journal

個別解説を読む → 原著の掲載ページ ↗

Double materiality at work: pathways to organizational change

Sarah Beatrice Kapplmüller, Othmar Manfred Lehner, and Dorothea Greiling(2025) · Accounting, Auditing & Accountability Journal

個別解説を読む → 原著の掲載ページ ↗

Creating environmental performance indicators to assess corporate sustainability and reward employees

Luca Marrucci, Tiberio Daddi, and Fabio Iraldo(2024) · Ecological Indicators

個別解説を読む → 原著の掲載ページ ↗

Enabling control and the problem of incomplete performance indicators

Silvia Jordan and Martin Messner(2012) · Accounting, Organizations and Society

個別解説を読む → 原著の掲載ページ ↗

原著本文に基づく読み合わせ · 2026年9月13日
複数論文のつながり、仮想例、実務・研究への問いは本欄の考察です。

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