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循環型の包装づくりに、会計はどう関われるか

6社による包装開発から、採算の計算、LCA、企業を越えた対話の役割を読む。

イタリアの包装開発を担う6社のネットワークを対象とした単一事例研究。開発関係者と各社CFOへの聞き取り、企業資料を照合し、会計情報の使われ方と対話への参加を分析。

企業間協働対話を支える会計LCAと意思決定
この記事の目次
  1. 包装を変えるには、材料以外の仕事も変わる
  2. 6社を別々に比較する研究ではなく、一つの共同開発を追う
  3. 酸素を遮る機能と、使い終えた後の処理を両立させる
  4. 採算が読めない段階で、誰が何を判断したのか
  5. LCAが、計算に必要な相手との相談を生んだ
  6. 対話の場があっても、届きにくい声は残る
  7. 環境評価を深めても、採算と社会面は残る
  8. 原著は、参加者の図と三種類の情報から読む
  9. 書籍・研究とのつながり

まず押さえたいこと

  • 循環型の製品開発では、顧客の使い方や廃棄後の処理までが設計条件になる。自社の費用と収益に加え、企業を越えた情報を集める必要がある。
  • この事例では、現場が集めた情報とLCAが共同検討を支え、会計部門の関与は限られていた。ただし、採算や社会面を十分に評価できたわけではない。
  • LCAやワークショップを設けても、関係者が対等に参加できるとは限らない。誰が前提を決め、誰の意見が間接的にしか届かないかを確かめる。

包装を変えるには、材料以外の仕事も変わる

食品の包装を、植物などを原料とする素材へ切り替えるとします。中身を守れるか、既存の機械で加工できるかに加え、消費者が使い終えた後にどう分別し、地域の施設がどう処理するかも重要になります。素材の性能だけでは、循環の仕組みは完結しません。

この論文は、バイオ由来で堆肥化可能な包装を共同開発した企業のネットワークを調べています。問いは、その開発判断をどの情報が支え、管理会計がどのように関わったかです。正式な採算計算の外側で、担当者は顧客、技術、環境に関する情報を集め、協力先と判断を組み立てていました。

読む際には、「会計を使ったか」という有無に加え、どの情報が誰の間を行き来し、製品の設計を変えたかに注目すると、実務とのつながりが見えてきます。

6社を別々に比較する研究ではなく、一つの共同開発を追う

対象はイタリアの食品会社Epsilonを中心とする6社です。社名はいずれも仮名で、原料となるポリマー、フィルムの成形、表面加工、多層包装、包装機械、食品の包装・販売を担う企業が参加しました。研究の単位は、6社が構成する一つの価値創造ネットワーク(value network)です。

研究者は報告書や企業の資料で背景を把握し、開発をよく知る経営者、営業・技術などの担当者へ聞き取りを行いました。聞き取りは平均70分で、その後、各社の最高財務責任者(chief financial officer: CFO)にも会計部門の関与を確かめています。

分析では、情報が金額か非金額か、自社かネットワーク全体を対象とするか、意思決定か対外説明に使うか、その都度の検討か定例的な管理かを区別しました。この分け方自体が、自社のKPIや評価資料の使われ方を調べる手がかりになります。

酸素を遮る機能と、使い終えた後の処理を両立させる

開発の具体的な課題は、焼き菓子などを包む材料に必要な酸素遮断機能でした。従来の金属蒸着を用いた多層フィルムでは、食品を守る機能を確保できても、リサイクルや堆肥化を難しくする面があります。Epsilonが協力先を探すなかで、Tetaの技術が解決に重要な役割を果たしました。

ただし、Tetaの技術だけで完成したわけではありません。各社の加工・材料・機械に関する知識を組み合わせる必要があり、協働を通して新たな能力も生まれました。包装機械メーカーDeltaは、研究開発や試験のために、対面とオンラインの両方を使うOpen Labを設けました。

Epsilonが目指した価値には、消費者が包装の各部分を分けたり洗ったりする負担を軽くすることも含まれます。その実現は地域の有機性廃棄物の回収・処理の仕組みに依存します。「堆肥化可能」という材料の性質と、実際に堆肥化される経路を結びつける必要があるのです。

採算が読めない段階で、誰が何を判断したのか

多くの担当者は、新製品の顧客数や売上を事業計画で予測することが難しく、投資利益率などの計算を開発判断の中心に置けなかったと説明しています。TetaではCFOが戦略判断に参加せず、他社でも会計部門の関与は限定的でした。担当者は会計部門を、主として金額に換算する役割として見ていました。

その代わりに使われたのが、担当者自身で作る非公式な会計情報(informal accounting)です。ここには市場分析、顧客との会話、消費者の受け止め方、技術性能の評価、必要な技能や人材の概算が含まれます。論文は、これらを意思決定のために組み立てた情報として捉えています。

したがって、正式な投資評価が使われていなかったことを、情報を集めずに決めたと読むのは適切ではありません。一方、著者らは、中長期の採算を十分に評価しないまま進む危うさも指摘します。開発初期の不確実性に対応する情報と、事業継続を確かめる情報の両方が課題になります。

会計部門へ求められる役割も、確定的な収益率を出すことだけに限られません。どの条件がまだ不明で、何を試せば採算の見通しが変わるかを技術者や顧客と検討する役割が考えられます。これは論文の問題提起から導く応用であり、この事例でその仕組みが実装されたという報告ではありません。

LCAが、計算に必要な相手との相談を生んだ

もう一つの重要な道具が、製品の一生を通じた環境影響を調べるライフサイクル評価(life cycle assessment: LCA)でした。原材料から加工、利用後の処理までを考えるため、各社は自社の工程の外にも目を向けます。分析には酸性化、人への毒性、気候変動などの環境影響が含まれていました。

LCAを作る過程では、技術の選択が環境影響をどう変えるかに加え、消費者の行動や自治体の廃棄物管理が議論の対象になりました。原料メーカーAlfaは、有機性廃棄物の処理施設との対話を通じて、その施設で受け入れられる製品の条件を把握していました。土地利用や生物多様性の問題も議論に入っています。

この事例でのLCAの役割は、環境負荷の数値を出すことに加え、共同で判断するための論点を増やすことでした。自社へ応用するなら、計算結果だけでなく、計算のために誰へ質問し、その答えで設計条件がどう変わったかを記録するとよいでしょう。

対話の場があっても、届きにくい声は残る

著者らは、異なる価値観や立場を持つ人が計算の前提も検討できる会計を、対話を重視する会計(dialogic accounting)として論じます。売上や費用だけで判断せず、金額に置き換えにくい影響を扱い、専門家以外も検討に参加できることが重要です。

この観点から見ると、事例には限界がありました。Open Labの参加者は供給網の企業が中心で、消費者団体や廃棄物処理の関係者に広く開かれてはいませんでした。LCAによって外部との接点は増えましたが、主にAlfaが調整役となり、ほかの企業が非企業主体と直接話す機会は限られていました。

さらに、会合が相手の種類ごとに分かれれば、異なる立場が互いの意見を検討する機会は弱くなります。原料を生産する農業者など、距離のある主体の声も十分には入っていません。参加者を増やすことに加え、誰が前提を決め、誰がそれを問い直せるかという力関係が問われます。

環境評価を深めても、採算と社会面は残る

本事例では、LCAからライフサイクル全体の費用計算(life cycle costing: LCC)や社会面のLCAへ分析が広がることはありませんでした。必要なデータを入手・管理する負担が大きかったためです。また、専用の循環性指標を採用していたわけでもありません。

著者らは、環境面を重く扱う一方で、事業の経済的な継続性、雇用、地域の暮らしなどが十分に検討されない可能性を指摘します。会計の専門家だけが理解できる議論を、環境技術の専門家だけが理解できる議論に置き換えても、対話が開かれたことにはなりません。

この研究は一つの共同開発の分析で、非企業主体への直接の聞き取りは行っていません。参加が限定された理由も確定できず、包装の環境改善量や事業収益を比較検証した研究でもありません。LCAと対話の可能性を、循環型事業の成功が立証されたという意味に広げずに読む必要があります。

原著は、参加者の図と三種類の情報から読む

まず表1で6社の役割を確認し、結果の4.1で包装開発の経緯を読みます。次に4.2の「正式な会計」「非公式な情報」「LCA」を比べると、誰がどの判断を支えたかが整理できます。図1では、企業以外との接点がどこに集中しているかを見てください。

その後に5.2へ進むと、対話型の会計という理論が、単なる協力関係の説明を越えていることがわかります。会議に参加できる人、検討される価値、計算の前提に異論を述べられる人までを問うためです。

実務で試すなら、進行中の循環型プロジェクトを一つ選び、「技術的にできるか」「事業として続くか」「環境影響はどう変わるか」「影響を受ける相手は誰か」を並べます。そのうえで、各問いに答える情報と、その情報を持つ相手が検討に参加しているかを確かめられます。

書籍・研究とのつながり

サステナビリティ戦略の実装や社内浸透を考える際、この論文は、社内での理解と企業間の協働をつなぐ視点を与えます。新たな価値を目指していても、それを判断できる情報が従来の会計に入っていなければ、担当者は別の情報と相談先を探します。

ここから発展させられる研究上の問いは、現場で作られた情報が、いつ予算や投資判断へ接続されるのか、その過程でどの価値が残り、どの声が届きにくくなるのかです。情報の精度だけでなく、情報を作る人と使う場の変化を追うことで、戦略が実際の仕事になる過程を捉えられます。

あわせて考える

『サステナビリティ戦略の実装』北田皓嗣・安藤光展

方針を日々の仕事と意思決定につなぐという観点から、書籍とあわせて読むための本欄の考察です。

対象論文

Management accounting for a circular economy: current limits and avenue for a dialogic approach

Aureli, S., Foschi, E., & Paletta, A. (2025). Management accounting for a circular economy: current limits and avenue for a dialogic approach. Accounting, Auditing & Accountability Journal, 38(9), 291–319. https://doi.org/10.1108/AAAJ-04-2022-5766

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原著本文に基づく解説 · 2026年9月13日
応用例・実務への問い・書籍との接点は本欄の考察です。

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