まず押さえたいこと
- 初回の利用者の満足度だけでは、再利用後まで含めた採算の前提は確かめられない。
- 製品を保有し続ける仕組みは、回収を管理しやすくする一方で、提供側の資金負担を増やし得る。
- 拡大の判断では、確認できた前提と未確認の前提、検証までに投入する資金を分けて考える。
この論文が問うこと:よい実験の後に、なぜ立ち止まるのか
使い終わった製品や部品をもう一度活用できれば、新しく作る費用を抑えられる。利用者からも好評なら、事業を広げればよさそうに思えます。しかし、初回の提供がうまくいくことと、回収・整備・再提供を重ねて採算が取れることは同じではありません。
LinderとWillianderは、再利用や再製造を基にする循環型ビジネスモデル(circular business model)の導入を、経営者がためらう理由を考えます。中心は、既に安定稼働している事業の効率ではなく、まだ採算の前提が確かでない段階で、どのように実験し、拡大を判断するかです。
どう調べたか:電動自転車の月額サービスを約1年追う
研究対象は、スウェーデンの小規模自転車メーカーUnicykelです。研究者が経営者と一緒に事業モデルを作り、別の著者がその過程を観察する、縦断的なアクションリサーチ(action research)を行いました。経営者へのインタビュー6時点、重要な会議6件、参加研究者へのインタビュー10件などを記録しています。
顧客側では通勤者調査104回答、潜在顧客8名へのインタビュー、販売店2店への聞き取り、有料パイロットの利用者6名への計24件の追跡インタビューを用いました。この事例を契機に、循環型と従来型で採算を検証する条件がどう違うかを理論的に検討しています。6名の結果から一般的な投資リスクを推定した研究ではありません。
知見1:顧客が喜ぶ仕組みでも、将来の費用は残る
同社は、高品質な電動自転車の購入価格が高くなることを踏まえ、自転車、整備、サービス、冬用タイヤを含む月額制を考えました。主な対象は、自動車や公共交通で通勤する人です。購入時の負担を軽くし、保守の手間も減らす提案で、6名が料金を払った試行では利用者の反応は好意的でした。
一方、長期の採算は、利用期間、部品の寿命、整備の頻度、再製造費などに左右されます。担当者の見積もりでは採算が合う可能性があっても、それを確かめるには実際の使用と返却を待たなければなりません。顧客がいま魅力を感じることと、数年後に同じ製品を再び魅力的に提供できることの間には、検証できていない部分が残りました。
知見2:循環型では、確かめる前提の時間軸が長くなる
新しい事業を小さく試し、顧客の反応を見ながら改善する方法は有効です。原著は、こうした事業の前提を検証する進め方を顧客開発(customer development)として捉えます。ただし、循環型では初回の販売だけでなく、回収後の費用と、次の使用時点での需要までが採算を支えます。
たとえば、電池の技術が変われば、現在の電動自転車は数年後に魅力を失うかもしれません。利用者の扱い方によっても、残る価値と修理費は変わります。短い実験を丁寧に行っても、時間が経過しなければ確認しにくい前提があるというのが著者の指摘です。循環型を従来型と比べる際には、同じか非常によく似た製品を前提に議論しています。
知見3:回収を管理しやすくすると、資金負担も変わる
メーカーが製品を保有したまま利用者に使ってもらうと、返却を促し、次の利用へつなぐ経路を管理しやすくなります。しかし、利用台数を増やすためには提供側が製品へ資金を投入し続けます。再循環後の採算を検証するのに時間がかかるほど、その前に積み上がる投入資金も大きくなり得ます。
原著はこの問題を、事業の前提を十分に確かめられないことと、失敗時に失われ得る資源の量の組み合わせとして整理します。対象となる製品・サービス型の提供(product–service offering)は、提供側が所有権を保持する型です。通常販売に保守を追加するサービスや、月額払いの事業をすべて同じに扱ってはいません。回収の問題を解く選択が、別の負担を増やす関係に注目する論文です。
知見4:契約と報酬の設計で、負担は誰に移るのか
同社は長期契約も検討しました。収入の見通しは立ちやすくなりますが、利用者は長い契約期間を好みません。そこで、利用者が継続したいと感じているかを早く把握できる、月ごとの契約を選びました。事業者の資金面の安心と、顧客にとっての参加しやすさを調整したことになります。
販売店の報酬は、契約を獲得した時点と納車した時点に分けました。販売店は自転車在庫への資金負担を持たずに参加でき、協力も得られました。それでも、長期の費用と需要が未確認であるという提供側の問題は残ります。ケースでは、技術や販売店との協力の課題に対応できた後も、製品を保有し続けるための資金負担が大きな懸念となり、本格的な拡大は延期されました。
どこまで言えるか:循環型事業の収益性を否定してはいない
著者の中心的な結論は、事業モデルの検証に関する理論上の予測です。類似製品を比較し、循環型の初回の固定費や単位当たり費用が従来型より低くならない、といった前提を置きます。製品設計や生産条件が大きく変われば、この前提が成り立たない可能性も著者は認めています。
ケースの観察は約1年で、長期の再製造費や需要を実測できたわけではありません。また、リスクを考慮した投資収益が循環型で悪いと示した研究でもありません。「循環型は採算が合わない」と読むのでなく、利益の可能性があっても、検証までの時間と負担を引き受ける条件が必要だと読むのが適切です。
原著の読みどころ:事業を検証する段階と、運営する段階を分ける
最初に事例部分を読み、利用者、販売店、経営者がそれぞれ何を確かめられたかを整理すると、理論部分に入りやすくなります。続くFigures 1–2は、初回の費用・収益の前提に、回収後の前提が加わることを図示しています。数式より先に、この時間軸の違いをつかむと論旨が明確になります。
原著の式は、事業リスクと投入資源の関係を説明する概念的な整理です。各社のキャッシュフローをそのまま計算する算式ではありません。整備の工夫で日々の運営を改善できることと、将来の需要や費用を事前に検証できることを分けると、ケースで拡大が止まった理由を読み取りやすくなります。
実務へ持ち帰る3つの問い
- 試行で何を確認できたか。 顧客の満足度、短期の利用継続、初期整備の費用と、再提供時の需要・費用を分けて整理する。
- 次の循環まで、どれだけ資金を投入するか。 台数を増やす判断と、未確認の前提を確かめる時期を合わせて検討する。
- 負担は誰が引き受けるか。 製品の保有、長期契約、販売店への報酬が、メーカー、協力先、利用者それぞれの負担をどう変えるかを見る。
これらは本欄による実務上の問いです。原著が効果を検証した手法ではありませんが、実験の成功をそのまま拡大の根拠にしないための確認に使えます。
対象論文
Circular business model innovation: Inherent uncertainties
Linder, M., & Williander, M. (2017). Circular business model innovation: Inherent uncertainties. Business Strategy and the Environment, 26(2), 182–196.
原著の掲載ページを開く ↗2015年9月17日先行公開。巻号への掲載は2017年。
原著本文に基づく解説 · 2026年9月10日
応用例・実務への問い・書籍との接点は本欄の考察です。