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企業をまたぐ協働は、信頼と仕組みでどう支えるか

鉄道設備の共同開発から、利益の分け方と仕事のつなぎ方を分けて考える。

オランダの鉄道インフラ管理組織RIBと設備供給企業NMAの戦略的提携を対象とする説明的事例研究。契約締結直前から、両社の担当者への半構造化面接・非公式の対話と契約書・社内資料を照合。

企業間協働利益配分と原価情報信頼と契約
この記事の目次
  1. 協力したいのに進まない、その理由を分ける
  2. 鉄道設備の取引を、共同開発の関係へ変えた
  3. 納入の調整と、共同開発の調整は同じではない
  4. 節約額を分ける制度が、需要予測にも責任を持たせる
  5. 信頼があっても、詳しい契約が役立つ理由
  6. 原価を共有しても、便益のすべては計算できなかった
  7. 循環型の事業へ応用するなら、二種類の取り決めを点検する
  8. この事例から言える範囲を見極める
  9. 原著は、具体的な取り決めから理論へ戻ると読みやすい
  10. 書籍・研究とのつながり

まず押さえたいこと

  • 協働の難しさを、成果や知識を一方に取られないための問題と、相互に依存する仕事をつなぐ問題に分ける。同じ契約や原価情報が、両方に役立つ場合もあります。
  • 信頼があるから仕組みが不要になるとは限りません。共同開発の進め方を定め、情報を共有し、担当者が交代しても関係を続けられることが、詳細な取り決めの役割でした。
  • 原価情報を共有しても、協働の便益がすべて測れるわけではありません。測定できる節約額と、見積り・協議が必要な便益を分けて扱う必要があります。

協力したいのに進まない、その理由を分ける

取引先と新しい事業を始めるとき、互いに協力する意思があっても、仕事はすぐには動きません。共同開発した技術を誰が利用できるのか、費用削減の利益を誰が得るのかが曖昧な場合もあれば、必要な情報が届かず、設計や納期を合わせられない場合もあります。

Dekkerは、企業間の関係を支える管理の仕組み(inter-organizational control)を、この二つの問題から説明します。一つは、投資・知識・成果を相手に一方的に取られることへの懸念(appropriation concerns)。もう一つは、互いに依存する仕事をつなぐための調整の必要性(coordination requirements)です。

両者を区別すると、協働を妨げているのが利益や権利の問題なのか、業務上の接続の問題なのかを考えやすくなります。契約を細かくする、会議を増やすという対応も、何を解決するためなのかを確かめられます。

鉄道設備の取引を、共同開発の関係へ変えた

事例は、オランダの鉄道インフラ管理組織Railinfrabeheer(RIB)と、鉄道安全設備の供給企業NMAです。両者は1999年11月、踏切用の自動遮断設備の供給と改良を進める提携を結びました。NMAとRIBの前身を含む取引関係は、120年以上に及んでいました。

当時の供給網では、部品製造、組立、在庫保有、現場への配送を複数の企業が担っていました。提携によってNMAが組立・在庫・配送も引き受け、設備全体の供給者になります。さらに、製品設計を共同で見直し、購入後の運転・保守まで含む総保有コスト(total cost of ownership: TCO)を減らすことを目指しました。

研究者は契約締結の2週間前から調査を始め、提携の設計・運営を担う両社の担当者への面接や対話を行い、契約書と関連資料を照合しました。主な分析対象は、関係をどう設計したかです。長年の取引歴と、研究者が観察した期間は別のものとして読む必要があります。

納入の調整と、共同開発の調整は同じではない

設備の納入では、NMAの生産が発注側の需要に依存します。そこで、工事業者は少なくとも12週間前に注文し、RIBは四半期単位の需要予測を共有する取り決めを設けました。相手の仕事の結果を受け取って進める、順次的な相互依存(sequential interdependence)への対応です。

共同開発では事情が異なります。RIBの要求を踏まえてNMAが設計し、その設計案を見てRIBが要求や運用方法を再検討します。互いの仕事が繰り返し相手の入力になる、相互往復的な依存(reciprocal interdependence)が生じます。開始時点では、どの改良を実現できるかも十分には分かりません。

そのため、両社から2人ずつ参加する共同運営委員会と、開発・生産・原価管理など六つの合同作業グループが設けられました。改善計画には工程、予算、進捗、見込む節約額を記載します。ここでの管理は、約束違反を見張ることに加え、相談しながら仕事を進めるための基盤になっています。

節約額を分ける制度が、需要予測にも責任を持たせる

提携には利益配分上の問題もありました。RIBは、NMAが長期の取引を確保するだけで改良に力を入れないことを懸念します。NMAは、改良の成果を買い手だけが得るのではなく、自社にも適切な利益が戻ることを求めていました。

そこで両社が資金を出し、改良費用を賄う共同基金を設けました。改良で実現した単位当たりの原価削減額に実際の販売数量を掛けた額を、NMAが基金へ拠出します。販売数量が予測を下回った場合は、その数量差に対応する節約額をRIBが補います。基金の余剰は、定めた仕組みで両社や追加の改良資金へ配分されます。

たとえば、買い手が需要を大きく見せれば、供給者には改良投資を進める理由ができます。しかし数量が実現しなければ買い手にも負担が生じます。この制度は、改良への参加と利益配分を支えるとともに、需要を誠実に予測する動機も組み込んでいました。

これは制度の設計原理を説明したものです。この仕組みが実際に予測精度をどれだけ改善したか、提携収益をどれだけ増やしたかを統計的に検証した研究ではありません。

信頼があっても、詳しい契約が役立つ理由

NMAは正式な合意が成立する前に、製品の原価構造や利益率をRIBへ見せていました。原価情報を互いに開くオープンブック会計(open-book accounting)は、相手がその情報を価格交渉に利用する可能性を伴います。それでも開示した点に、著者は両社の信頼を見ています。

一方、両社は約1年をかけて詳細な5年契約を作りました。RIB側には簡単な合意でもよいという考えがありましたが、NMAは経営者が交代した場合にも取り決めが続くことを重視していました。契約は、新しい担当者が目的や経緯を理解するためにも役立ちます。

さらに、目標・進捗・成果を共有する仕組みは、相手が何をしているかを分かりやすくします。当事者は、こうした透明性が信頼関係を支えると捉えていました。「信頼か管理か」という二者択一では捉えにくい関係です。ただし、本研究だけで、詳細な契約が常に信頼を高めると一般化することはできません。

原価を共有しても、便益のすべては計算できなかった

提携が目指したのは総保有コストの削減ですが、基金の計算で把握できたのは主に製品原価の削減でした。RIBの運転・保守にかかる費用については、適切な原価データが不足し、改良による節約額を十分に計算できませんでした。

そのため、両社はこの部分を将来の課題として残し、合理的な見積額を誠実に協議することにしました。契約は、すべての将来事象を事前に決めきる形ではなく、改善計画などの付属書を毎年見直す仕組みになっていました。

ここは、企業間のKPIや利益配分を考える際の重要な読みどころです。計算できる部分だけで配分を確定すれば、測定しにくい場所で生じる便益が取り残される可能性があります。何を測れたかに加え、何を測れていないか、残った論点を誰がどの場で判断するかを確かめる必要があります。

循環型の事業へ応用するなら、二種類の取り決めを点検する

以下は、本研究の枠組みをサーキュラーエコノミー(circular economy: CE)へ応用した見方です。メーカーと回収・修理企業の協働を考えるなら、回収設備への投資負担、再販利益の配分、顧客情報や診断技術の扱いは、利益や権利を守る側の論点になります。

一方、返却品の状態をいつ知らせるか、誰が修理可否を判定するか、交換部品をいつ確保するかは、仕事をつなぐ側の論点です。利益配分が公平でも、回収量や故障情報が遅れれば修理は滞ります。反対に、業務が円滑でも、一方だけが費用を負担し続ければ関係は持続しにくくなります。

共同のKPIを作る場合も、回収数だけでなく、その数字を受けて誰が何を判断するかまで考えると、この論文の視点を使えます。ただし、原研究は鉄道設備の提携を扱ったものです。回収・再使用や環境負荷削減への効果が実証されたわけではありません。

この事例から言える範囲を見極める

この提携には、長い取引歴、双方の強い依存関係、安全性への厳しい要求という特徴があります。初めて組む企業同士や、簡単に取引先を変更できる市場で、同じ仕組みが必要になるとは限りません。

また、論文の中心は、観察した管理の仕組みを理論的に説明することです。著者は、仕組みと状況の適合が高いほど業績がよくなるかという点を、今後の検証課題として残しています。導入すべき制度の標準セットとして読むより、自社の協働で何が問題になっているかを整理する枠組みとして読むと有益です。

原著は、具体的な取り決めから理論へ戻ると読みやすい

最初に事例の背景と「The alliance contract」を読み、供給網と役割がどう変わったかを押さえます。次に表2で管理の仕組みを一覧し、「The coordination of tasks」と信頼を扱う節で、それぞれの仕組みが必要だった理由を読みます。

関心に応じて、利益配分は図2と共同基金の説明、測定の限界は運転・保守費用についての説明を確認してください。最後に図1へ戻れば、利益を守ること、仕事を合わせること、信頼の三者関係を、抽象的な用語だけにせず理解できます。

書籍・研究とのつながり

サステナビリティ戦略の社内浸透を企業間の関係まで広げると、社員が方針を理解しているだけでは足りず、取引先との契約や情報共有の方法も変える必要が出てきます。この論文は、方針を仕事の仕組みに結びつけるという論点を、企業の境界を越えて考える手がかりになります。

研究では、契約やKPIの有無に加え、どの不安や調整上の問題に対応して作られたのかを追えます。取り決めを設けた場面と、情報不足や担当者交代が生じた場面を比べれば、仕組みが協働を支える過程を具体的に捉えられます。

あわせて考える

『サステナビリティ戦略の実装』北田皓嗣・安藤光展

方針を日々の仕事と意思決定につなぐという観点から、書籍とあわせて読むための本欄の考察です。

対象論文

Control of inter-organizational relationships: evidence on appropriation concerns and coordination requirements

Dekker, H. C. (2004). Control of inter-organizational relationships: evidence on appropriation concerns and coordination requirements. Accounting, Organizations and Society, 29(1), 27–49. https://doi.org/10.1016/S0361-3682(02)00056-9

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原著本文に基づく解説 · 2026年9月13日
応用例・実務への問い・書籍との接点は本欄の考察です。

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