まず押さえたいこと
- 循環の役割分担は、修理・再利用・材料再生に必要な技能や情報の違いから考える。
- 修理で得た知識を設計に戻す経路と、循環サービスを支える社内の評価が重要になる。
- 自社で管理しやすい仕組みと、第三者も参加して広がる仕組みの両面を検討する。
この論文が問うこと:循環の仕事は誰の事業になるのか
製品を回収し、修理し、再び使う。方針としては分かりやすくても、実際にはメーカー、販売店、修理会社、再資源化事業者の仕事をつなぐ必要があります。設備を持つだけでなく、部品を確保し、品質を説明し、利用者の問い合わせに応える担当も必要です。
HansenとRevellioは、この役割分担と企業間の関係を循環を成り立たせる仕組み(circular value creation architectures)として捉えます。問いは、どの作業を外注すれば安いかにとどまりません。分担の仕方によって、どこまで循環を進められ、何を学べるのかを考える論文です。
どう調べたか:メーカーと協力先を一緒に追う
対象は、スマートフォンの法的義務を超える回収・修理などのサービスです。自社中心、戦略的提携、外注、中心企業の関与なしという4形態に、それぞれ代表事例を置きました。メーカーや通信事業者だけでなく、その周囲で回収・修理を担う企業も調べています。
データは半構造化インタビュー18件、現場に即したインタビュー27件、現場訪問9件、文書60件などです。著者は、取引先の探索や契約、調整などにかかる費用を考える取引費用経済学(transaction cost economics)と、企業固有の強みを見る資源ベース理論(resource-based view)を使い、事例の違いを説明します。4形態は統計的な分類ではなく、理論を具体化するための比較です。
知見1:修理と材料再生では、必要な関係が違う
スマートフォンの修理には、機種ごとの故障の特徴、適合する部品、作業の技能、顧客への説明が必要です。こうした資源は、別の製品や取引先にそのまま転用できるとは限りません。特定の活動や相手との関係に結びついた程度を資産特殊性(asset specificity)と呼びます。
事例では、固有の技能が必要で、事業の強みにもなる修理・再利用ほど、自社で担うか、専門企業と緊密に連携する形が見られました。一方、大量の機器を破砕・選別する標準化された材料再生は、外部の専門業者へ委託しやすくなります。ただし、製品固有の分解技術などを使う材料再生では事情が変わります。修理は内製、再生は外注、と機械的に決める分類ではありません。
知見2:修理の経験を、次の製品設計へ戻せるか
持続可能性を創業目的とするメーカーSmartMan(原著の仮名)は、修理や顧客対応を自社で担い、そこで得た経験を製品開発に戻していました。利用者が交換しやすい部分と、専門的な修理が必要な部分を整理し、部品の交換がしやすいモジュール設計へつなげています。自社中心でも、少量では成立しにくい材料再生には外部事業者を利用します。
販売企業は、自分で製品を設計する立場とは限りません。提携先の修理会社から得た情報を、取扱製品や仕入方針へ反映する間接的な経路を持ちます。ここから読めるのは、作業を任せることと、学ぶことまで相手任せにすることは別だという点です。修理件数や処理単価の報告だけで、次の設計判断に必要な情報まで届いているかを考えられます。
知見3:新品販売の評価が、循環サービスとぶつかる
通信事業者TelcoPro(原著の仮名)は、回収・再販売、修理、整備を、専門企業との戦略的提携や少数持分出資を通じて育てました。しかし、推進担当者は社内の抵抗にも直面します。新品販売の歩合や売上中心の目標の下では、製品を長く使ってもらうサービスが既存事業を脅かすように見えるためです。
この事例は、CEの社内浸透を「理解してもらう活動」として読むだけでは足りないことを示します。顧客との関係を維持する修理に価値があっても、担当部門が新品販売の減少で評価されるなら、取り組みは進めにくくなります。ただし、本研究は報酬制度の変更効果を検証したものではありません。評価と収益の仕組みが、循環サービスの推進とどう衝突するかを捉えた事例です。
知見4:正式な協力先ではない企業も、循環を支える
メーカーの修理が高価、利用しにくい、あるいは対応範囲が狭いと、その空白を独自の修理事業者が埋めます。著者は、契約関係を持つ独立事業者(independent loop operators)と、中心企業との正式な関係なしに活動する事業者(autonomous loop operators)を区別します。
後者は純正部品や設計情報へのアクセスが難しく、中古製品から部品を取り出して確保するなどの技能を育てていました。ところが、故障や修理に関する有用な知識があっても、メーカーへ戻る経路は弱いままです。反対に、自社専用の循環システムを閉じすぎると、こうした第三者の工夫や参加を妨げる可能性もあります。自社が管理できる範囲と、社会全体に広がる循環の範囲を重ねて考える必要があります。
どこまで言えるか:内製化の優位を一律に示したわけではない
各形態は1事例で、対象もスマートフォンに限られます。製品の寿命、修理技能、顧客との距離が違う産業へ、そのまま一般化はできません。同じ企業が、修理の一部を自社で行い、別の作業を外注することもあります。
著者は、自社で関与する度合いが高いほど、元の企業へ製品を戻す仕組みや、設計への学習を整えやすいと論じています。しかし、4類型それぞれの環境負荷を測定したわけではありません。回収経路を管理できること、利益を得ること、一次資源の使用が減ることは、それぞれ確かめるべき成果です。類型は優劣の順位ではなく、異なる条件を比較する道具として読むのが適切です。
原著の読みどころ:分類から、情報の流れへ目を移す
最初にFigure 2の4類型を見てから、Table 5と個別事例を読むと、分類の意味がつかみやすくなります。特に、循環活動の種類、設計へのフィードバック、事業上の重要性を横に比較すると、単なる内製・外注の違い以上のものが見えてきます。
次にSmartManとTelcoProを比べてみてください。前者は自社の修理経験から製品を変え、後者は協力先の専門性を利用しながら既存の販売事業との調整を進めます。「誰が修理したか」から「誰がその情報を使って何を変えられたか」へ問いを移すと、組織の学習と戦略の論文としても読めます。
実務へ持ち帰る3つの問い
- 固有の技能を持つのは誰か。 回収・修理・再利用・材料再生ごとに、必要な設備、部品、知識、顧客接点を挙げ、保有する企業を確認する。
- 現場の情報は、判断できる人へ届くか。 修理会社の故障情報が、設計担当や仕入担当へ届く経路と、それを検討する場を確認する。
- 循環の価値と社内の評価は一致するか。 長期の顧客維持や修理収益を、短期の新品売上とどう比較しているかを確かめる。
これらは原著の知見を基に本欄で整理した検討事項です。特定の分担形態を選ぶための診断得点ではなく、関係者と議論するための問いとして使えます。
対象論文
Circular value creation architectures: Make, ally, buy, or laissez-faire
Hansen, E. G., & Revellio, F. (2020). Circular value creation architectures: Make, ally, buy, or laissez-faire. Journal of Industrial Ecology, 24(6), 1250–1273.
原著の掲載ページを開く ↗原著本文に基づく解説 · 2026年9月10日
応用例・実務への問い・書籍との接点は本欄の考察です。