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循環型ビジネスを実行できる組織は、何が違うのか

顧客との対話、部門の連携、KPIから、事業を変える組織能力を読む

既存企業10社・13事例の探索的複数事例研究

組織能力(dynamic capabilities)社内浸透(internal implementation)循環型事業(circular business models)
この記事の目次
  1. 技術はあるのに、なぜ事業にならないのか
  2. 10社の経験から、どのように実践を整理したか
  3. ライフサイクル全体を見ると、変える仕事が見えてくる
  4. 顧客と早く話し、小さく試す
  5. 社内と企業間で、異なる見方と役割を合わせる
  6. 循環の売上と、仕事を進めるKPIを分ける
  7. この論文から分かることの範囲
  8. 原著では、事例と実践の対応を読む
  9. 自社の仕事に引きつけて考える三つの問い
  10. 書籍・研究とのつながり

まず押さえたいこと

  • 製品の使用中や使用後まで見ることで、設計だけでなくサービスや契約を変える機会が見えてくる。
  • 顧客・技術・財務・環境の視点を早く合わせ、小さく試して事業の前提を確かめる実践が見られた。
  • 循環関連の売上を集計することと、事業を変える具体的な仕事をKPIで動かすことは区別できる。
機会と課題を見つける顧客の困りごとと、ライフサイクル全体の環境影響を見る。Sensing
事業として具体化する顧客・取引先・社内の部門と、提供価値や契約を考える。Seizing
仕事と資源を組み替える試行、役割分担、組織の運営、KPIを整え、実装を進める。Reconfiguring
循環型ビジネスを支えるのは、こうした仕事を進められる組織の力。
原著の三つの能力分類をもとに本欄で整理。順番どおりに一度だけ進む工程や、成功を保証する因果モデルを表したものではありません。

技術はあるのに、なぜ事業にならないのか

修理しやすい製品をつくる。使い終えた材料を回収する。製品を販売する代わりに、利用できるサービスを提供する。循環型の事業案を実行しようとすると、技術開発に加え、顧客との契約、営業の説明、回収の担当、取引先との分担まで考える必要が出てきます。

この論文の問いは、すでに事業を営む企業が、循環型のビジネスモデルへ変わるとき、どのような具体的な実践が必要になるのか、というものです。事業を変える組織能力(dynamic capabilities)を、現場で観察できる仕事の進め方から捉えます。

題名のミクロ的基礎(microfoundations)は、ここでは個人の心理に限りません。技能、活動、手順、組織の構成、判断のルールなど、企業全体の能力を支える具体的な実践を含みます。

10社の経験から、どのように実践を整理したか

対象はオーストリアとオランダの既存企業10社です。大企業8社と中小企業2社から、循環型ビジネスモデルの革新(circular business model innovation)の13事例を取り上げています。2019年5月から2020年1月に、計16件のインタビューを行い、施設の観察や公開資料も組み合わせました。

選ばれたのは、提供する価値、その生み出し方・届け方、収益の得方のうち、少なくとも二つを変え、市場に実装した事例です。既存事業全体の転換を進めた企業が2社、新しい事業モデルを追加した企業が8社でした。同じ物流企業の失敗事例と、その後の事例を比較する部分もあります。

分析から整理したのは26の実践と、それらをまとめた12の基礎的な能力群です。さらに先行研究の実践を補って、33の実践・14の能力群からなる統合的な枠組みを提案しました。33項目すべてを今回の調査で確認したわけではありません。

ライフサイクル全体を見ると、変える仕事が見えてくる

10社中9社では、製品のライフサイクル全体を考える実践が確認されました。製造時の材料やエネルギーだけでなく、顧客が使う間や、使用を終えた後まで見て、課題と機会を探す見方です。環境管理ツールの利用も9社で確認されています。

例えば物流設備企業は、使用後の課題を解決するために、製品の設計と、使用中に提供するサービスの両方を変える必要に気づいていました。包装企業では、ライフサイクル評価(life cycle assessment:LCA)を通じて、原材料と製品を複数の環境影響から捉えていました。

ここから読み取れるのは、環境情報を報告するだけでなく、その情報によって検討する事業の範囲が変わるという点です。使用後に問題があると分かれば、回収部門だけの課題にせず、設計や販売時の契約まで検討できます。ただし、本研究はLCAの導入効果を数値で検証したものではありません。

顧客と早く話し、小さく試す

環境面の価値をもつ事業でも、顧客にとって選ぶ理由が必要です。原著では、顧客や主要な関係者のニーズを把握する実践が8社、顧客の早期参加が6社、試行や実験を通じた検証が6社で確認されました。

同じ物流企業の二つの事例が、この違いを具体的に示します。市場投入がうまくいかなかった事例では、社内で技術開発を進め、顧客の意見を十分に取り込むのは完成間際でした。その後の事例では、早い段階から顧客や取引先と話し、四つの製品サービス契約を用意していました。

この比較は、循環の技術を完成させることと、顧客が使える事業を設計することは別の仕事だと教えてくれます。料金、使いやすさ、保守や更新の負担を含めて考える必要があります。一方、二つの事例には多くの違いがあるため、顧客参加だけが成否を決めたと断定はできません。

社内と企業間で、異なる見方と役割を合わせる

部門横断チームは5社で確認されました。技術、財務、営業・顧客の視点に、サステナビリティの視点を加える構成です。繊維企業では、研究開発の早い段階からサステナビリティ担当が加わっていました。社員教育と提案の後押しも、社内から変化を生み出す実践として描かれています。

企業間でも、取引先を参加させるだけでは仕事が完結しません。8社で、関係する企業の活動を調整する能力(ecosystem orchestration)が確認されました。紙製品企業の事例では、使用済みカップを出す顧客、回収や前処理をする企業、衛生紙を製造する企業、配送する企業の活動をつなぐ必要がありました。

そこで問題になるのは、情報共有、責任、協力する誘因、企業間の力関係です。技術的につながる循環を、各社が担い続けられる仕事にすることが求められます。ただし、自社内に必要な能力を設け、顧客が返却する事業のように、同じ規模の企業間調整を要しない例もありました。

循環の売上と、仕事を進めるKPIを分ける

循環・サステナビリティに特化したKPIは5社で確認されました。特に医療電子機器企業の説明は、指標と社内浸透の関係を考える手掛かりになります。同社は、循環関連売上を集計できても、それだけで事業別の循環戦略が明確になるわけではないと述べています。

指標の見方読み取れること・確かめたいこと
循環関連売上既存の循環活動が財務面でどの程度の規模をもつか。事業をどう変えるかは別途確認する。
循環プロジェクトのKPI具体的な取り組みを進めるための指標。担当者の仕事や次の判断との対応を確認する。

同社では、具体的な仕事から始めるために、循環プロジェクトのKPIを置いていました。表はこの記述をもとにした本欄の整理です。原著が特定のKPI体系の効果を証明したわけではありませんが、集計できることと、戦略を実装できることを同一視しないという読み方ができます。

この論文から分かることの範囲

本研究は、循環型の事業を実装した欧州企業を中心に、その経験を振り返った探索的研究です。実践の出現頻度は、成功への効果の大きさや、企業一般への普及率を示しません。紹介された実践を採用すれば必ず成功する、という結論でもありません。

企業ごとの回答者は少数で、現場や部署間の認識の違いを十分に捉えきれない可能性があります。また、ある実践が確認されなかった場合にも、実際には行われていたが面接で言及されなかった可能性が残ります。

実践の一覧は、一律に導入すべき採点表として使うより、自社の事業づくりで何が足りず、どこを詳しく調べるかを考える材料として読むと有用です。

原著では、事例と実践の対応を読む

まずTable 1で、各社がどのような事業モデルを導入したのかを確認します。その後、Resultsの三つの能力分類とTable 2を読むと、抽象的な「組織能力」が具体的な実践として見えてきます。Table 2の空白は、未導入が確認された印ではない点に注意してください。

Cross-case analysisでは、物流企業の二つの事例や、事業全体の転換と新事業の追加の違いに注目します。Appendix Aには実践の説明とインタビューの発言があり、KPIの議論はTable A3にあります。最後にTable 3で、今回の事例で確認した内容と、先行研究から補った内容を区別すると、主張の根拠を追いやすくなります。

自社の仕事に引きつけて考える三つの問い

  1. 顧客の使用中・使用後の情報は、誰の判断に届くか。 設計、営業、財務、回収の担当が、その情報を使って何を変えられるでしょうか。
  2. 社内外の協力者は、計画が固まる前から参加しているか。 回収や前処理の負担を担う企業を含め、役割と利益の関係を話し合えているでしょうか。
  3. 循環のKPIが停滞したとき、次の仕事が決まるか。 集計した結果を報告するだけでなく、担当や予算、設計、契約の見直しにつなげられるでしょうか。

書籍・研究とのつながり

社内浸透を、事業を変える具体的な仕事から見る

この論文を社内浸透の研究につなげると、方針への理解や賛同に加え、情報が誰に届き、何を変える権限があるかが重要な問いになります。循環関連売上とプロジェクトのKPIの違いは、活動の集計と、戦略を動かす仕組みを分けて考える手掛かりになります。

企業間の調整についても、循環全体の環境効果と、各社の費用・負担の配分をあわせて見る余地があります。回収や前処理を担う企業に負担が偏る場合、協力の呼びかけだけで継続できるとは限りません。この点は、原著の発見を企業間の管理や意思決定へ広げるための検討課題です。

あわせて考える

『サステナビリティ戦略の実装』北田皓嗣・安藤光展

方針を日々の仕事と意思決定につなぐという観点から、書籍とあわせて読むための本欄の考察です。

対象論文

How do incumbent firms innovate their business models for the circular economy? Identifying micro-foundations of dynamic capabilities

Santa-Maria, T., Vermeulen, W. J. V., & Baumgartner, R. J. (2022). Business Strategy and the Environment, 31(4), 1308–1333.

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オンライン公開は2021年、掲載巻号は2022年。本欄では掲載巻号の年を用いています。

原著本文に基づく解説 · 2026年9月10日
応用例・実務への問い・書籍との接点は本欄の考察です。

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