まず押さえたいこと
- CSRに関わる理由(drivers)、受け止め方(evaluations)、示す態度や行動(reactions)を区別する。
- 268本の先行研究を整理した論文であり、効果の大きさを統計的にまとめるメタ分析(meta-analysis)ではない。
- 社員が会社に好意を持つことと、組織の行動や成果が変わることを、分けて確かめる。
この論文で考えたいこと
企業の社会的責任(corporate social responsibility:CSR)について方針を伝え、研修を実施した。それでも、社員によって受け止め方も行動も違う。この違いを「関心が高い人と低い人」で説明すると、施策が届く過程を見落としてしまいます。Gondらの論文は、CSRをめぐる人の経験を、関わる理由、取り組みの受け止め方、その後の反応に分けて読むための見取り図を示します。
背景には、個人の判断や行動から組織の現象を説明しようとする視点(microfoundations)があります。この論文は、その中でも、個人の心理からCSRを捉える研究(psychological microfoundations of CSR)を整理しています。
何を調べた論文か
著者らは、個人を分析単位とする268本の論文を体系的に整理しました。対象は一般社員だけでなく、就職希望者、管理職、経営者も含みます。経営・組織行動・人的資源管理などの研究を横断し、環境配慮行動のようなCSRの一側面を扱う研究も取り込みます(pp. 226–228)。
先行研究を一定の手順で集め、分類する体系的レビュー(systematic review)です。理論上の考え方を提案する研究と、データで確かめる研究を整理し、研究の偏りと課題を示しています。複数の研究から効果の大きさを統計的にまとめるメタ分析(meta-analysis)を行った論文ではありません。268本は収集・整理した論文数であり、社員268人を調査したという意味ではありません。詳細な検索手順はオンライン補足資料に委ねられています。
核心は、三つの問いを混ぜないこと
第一は、CSRに関わろうとする理由やきっかけ(drivers)です。 著者らは、動機を主に三つに分けています。自分の利益や、自分で状況を動かせることへの関心(instrumental drivers)、人とのつながりや周囲から認められたいという思い(relational drivers)、社会や環境への配慮や、意味ある生き方をしたいという思い(moral drivers)です。性格や経験などは、これらとは別の要因群として整理しています(pp. 228–231)。社会貢献への思いとキャリア上の関心が、一人の中で共存することもありえます。どの動機が正しいかを判定する分類ではありません。
第二は、CSRの取り組みをどう受け止め、判断するか(evaluations)です。 ここでいう評価は外部評価機関のスコアではなく、人が情報を集め、解釈し、感情を経験しながら取り組みを判断する過程です。
例えば、どの関係者への責任に注目してCSRを捉えるかという見方(framing of CSR perceptions)、会社がCSRに取り組む理由の推測(CSR causal attribution)、矛盾を含む取り組みの意味を仕事や状況と結びつけて解釈すること(CSR sensemaking)は、それぞれ異なります。著者らは、こうした考え方・解釈の過程(cognitive processes)と、誇りや不安などを感じる過程(affective processes)も区別しています(pp. 231–233)。
第三は、CSRに対して示す態度や行動(reactions)です。 会社への愛着、仕事への満足、協力する行動などについて、何が生じるのかだけでなく、なぜ、どのような条件で生じるのかを問います。
例えば、会社を誇りに感じ、「この会社の一員であること」を自分らしさの一部と捉える一体感(organizational identification)と、会社から受けた配慮や支援に応えようとすること(reciprocity)は、別の説明です(pp. 233–237)。「CSRが社員によい影響を与える」で止めず、働いている仕組みを読む必要があります。
Figure 1(p. 227)は、この三領域と反応の仕組み・条件・結果を配置した統合図です。学習によるフィードバックも描かれています。ただし、図全体の因果関係が一つの実証研究で確認されたわけではありません。研究を整理する枠組みと、検証済みの結果を区別して読みましょう。
社内浸透への応用:何を確かめるか
以下は、論文の整理を社内浸透の検討に使うための、本記事独自の応用例です。著者らが検証した診断尺度ではありません。
| 論文の視点 | 社内で確かめたいこと | 観察・質問の例 |
|---|---|---|
| 関わる理由・きっかけ(drivers) | 何が参加や提案の理由になっているか | 社会への貢献、仲間との協働、業務上の評価のどれが支えているか |
| 受け止め方・判断(evaluations) | 取り組みをどう解釈しているか | 本業に関わる約束と受け止めるか、広報上の活動と受け止めるか |
| どのような態度・行動を示すか(reactions) | 何が変わり、どこで変化が止まるか | 好意や共感に加え、提案・購買判断・部門間協働が変わったか。上司の支援はあるか |
同じ「参加しない」でも、目的への不信、仕事との接点の不明確さ、時間や権限の不足では、確認すべきことが異なります。参加率だけから意識の低さを推論しないことが、この整理の実務上の使いどころです。
このレビューが示す、研究の偏り
著者らは、研究がCSRへの反応、特に会社への愛着や満足などの肯定的な態度に偏っていると指摘します。実際の行動や客観的な成果指標、否定的な結果は相対的に手薄でした。理論を引用して説明することと、「CSRへの評価が、会社への誇りを通じて行動につながる」といった途中の仕組み(mediating mechanisms)までデータで確かめることも一致していません(pp. 234–237)。これはレビュー当時の診断であり、現在まで研究が進んでいないという意味ではありません。
終盤の六つの課題は、動機どうしの相互作用、概念と測定の明確化、反応を説明する仕組みの統合、個人差、扱う結果の拡張、時間を通じた学習です(pp. 237–240)。特に、外部から見たCSRと本人が知覚するCSRを区別すること、善意の動機と望ましい結果を同一視しないことは、研究にも実務にも残る問いです。
個人の変化から、組織の変化をどこまで説明できるか
本論文の中心は、CSRに関わる個人の心理や経験です。ここから、個人の変化が部門の慣行や企業の成果へ積み上がる過程まで説明できた、と読むのは早計です。著者ら自身も、階層をまたぐ比較、集団の影響、学習の過程に研究余地を認めています。
社員が会社を誇りに思うこと、日常の意思決定が変わること、環境・社会面の成果が改善することは、分けて確かめる必要があります。 社内浸透研究につなぐなら、個人の態度と組織の成果の間に、対話、権限、評価制度、業務の変更がどう介在するかを問うことになります。ここは本記事が提案する次の研究課題です。
原著を読む順番
まずp. 227のFigure 1で三領域の位置関係を見ます。次にpp. 231–233の「評価過程」を読み、認知と感情が何を指すかを確認します。その後、pp. 234–237で態度と行動、仕組みと条件の違いを押さえ、pp. 237–240の六つの課題に進むと、文献紹介の列挙に埋もれずに読めます。特定の研究を詳しく追う場合は、原著が案内するオンライン補足表も参照してください。
読み終えたら、三つの問い
- 自分が「浸透」と呼ぶものは、理解、賛同、行動、組織の成果のどれでしょうか。
- 社員の反応を説明するとき、本人の参加理由と、会社の意図についての推測を混同していないでしょうか。
- 個人の変化が組織の変化につながったと言うには、どのような追加の観察が必要でしょうか。
対象論文
The psychological microfoundations of corporate social responsibility: A person-centric systematic review
Gond, J.-P., El Akremi, A., Swaen, V., & Babu, N. (2017). Journal of Organizational Behavior, 38(2), 225–246.
原著の掲載ページを開く ↗本文に基づく解説のデモ稿 · 2026年9月7日
ページ番号は原論文の印刷頁。応用例・読後の問いは本記事の考察です。