まず押さえたいこと
- 自分が環境配慮を実践することと、知識や提案を共有して周囲に働きかけることを区別する。
- 韓国3社の325人のメンバーと80人のリーダーを調査し、個人と職場集団の関係を分析した。
- メンバーの行動を本人が評価した場合、上司の実践との関係は有意でなかった。評価者と因果の向きに注意して読む。
この論文で考えたいこと
環境方針への賛同は得られている。それでも、紙の使用を減らす、資源を再利用する、分別を徹底するといった日々の行動には、職場ごとの差がある。この違いを、社員個人の関心だけで説明できるでしょうか。
Kimらは、本人の性格や考え方に加え、上司の実践と同僚どうしの働きかけが、職場での自発的な環境配慮行動とどう関係するかを調べました。韓国3社の80職場グループで、325人のメンバーと80人のリーダーから回答を得ています。
Ruppらの論文がCSRへの認識と仕事への活力・熱意・没頭を扱ったのに対し、この論文は具体的な行動に焦点を当てます。ただし、測ったのは行動についての質問票評価であり、電力使用量などの実測値ではありません。2014年に先行公開され、2017年の巻号に掲載された論文です。
自分が実践することと、周囲に働きかけること
第一の概念は、職務や正式な制度で求められる範囲を超えて行う、職場での自発的な環境配慮行動(voluntary workplace green behavior:VWGB)です。原著は、職務記述に明記されず、体系的な監視や報酬の対象でもない行動として定義しています。例えば、不要な印刷を控える、使い捨ての容器の代わりに繰り返し使えるものを使う、紙を再利用するといった行動を測っています(pp. 1337–1338, 1345)。
この定義では、行動の見た目だけで「自発的」とは判定できません。同じ分別でも、職務として義務づけられているか、本人の裁量で行っているかによって位置づけが変わります。著者らは、こうした行動を、決められた仕事を超えて組織や周囲を支える行動(organizational citizenship behavior)の一種として捉えています。
第二の概念は、環境に配慮した行動を促すために、職場の仲間へ情報を伝え、協力を呼びかけること(work group green advocacy)です。以下では「同僚どうしの働きかけ」と表現します。自分が節約や再利用を実践することと、知識や提案を共有して他者にも働きかけることを区別しています(p. 1342)。
ここでいう働きかけは、広報部門による全社発信ではありません。職場のメンバー間で行われる説明、情報共有、協働です。したがって、「上司が環境配慮を実践している」ことから、直ちに「職場で対話や協力が生まれている」とは言えません。
個人の考え方と、職場の関係を組み合わせる
個人について、著者らは二つの特徴を取り上げます。
一つは、責任感を持ち、物事をきちんと進めようとする傾向(conscientiousness)です。もう一つは、日々の判断や行動の倫理的な意味を振り返る傾向(moral reflectiveness)です。前者が性格上の傾向を捉えるのに対し、後者は「自分の行動は適切か」と考える習慣に焦点を当てます。環境知識の豊富さや、会社への忠誠心と同じではありません(pp. 1339–1340)。
著者らは、責任感の強い人ほど倫理的な振り返りを行い、それが環境配慮行動に結びつくと考えます。リーダーにもメンバーにも、この経路を想定しています。
一方、職場では、リーダーが何をしているかが「ここで大切にされていること」の手がかりになります。さらに、メンバー間で情報を共有したり協力を呼びかけたりすることが、個人の行動に関わるというモデルです(pp. 1341–1342)。
この説明には、正しいことをしたいという思いだけでなく、上司や同僚とよい関係を築きたいという動機も含まれます。ただし、研究はこれらの動機をすべて直接測って検証したものではありません。行動の関係を説明するための理論と、実際に測定した変数を分けて読む必要があります。
誰が、誰の行動を評価したのか
本研究は、個人と職場集団という複数の単位を組み合わせる分析(multilevel analysis)を用いています。325人を互いに無関係な回答者として扱わず、同じリーダーや職場環境を共有していることを考慮します。対象企業の業種は建設、情報技術、金融ですが、参加者はいずれもオフィスで働く人たちです(pp. 1343, 1348)。
データは約1週間をあけて2回集めています。どの変数を誰が答えたかを整理すると、結果の強みと限界が見えてきます。
| 分析に用いた情報 | 回答者と時点 |
|---|---|
| リーダーの性格・倫理的な振り返り・環境配慮行動 | 1回目にリーダー本人が回答 |
| メンバーの性格・倫理的な振り返り | 1回目にメンバー本人が回答 |
| 同僚への働きかけ | 1回目に各メンバーが自分の行動を回答し、職場グループ単位で平均化 |
| メンバーの環境配慮行動 | 2回目にリーダーが各メンバーを評価 |
職場単位への平均化については、回答の一致度などを検討しています。ただし、平均で約4人の回答に基づく職場集団の指標で、その信頼性に関する指標の一つはやや低いと著者らも述べています(p. 1346)。
また、2回測ったことは、行動の変化を長期に追跡したことを意味しません。リーダーの実践と同僚の働きかけは同じ1回目に測定されています。
どのような関係が見つかったか
結果の中心は、個人と職場の両方が関係していたことです。Figure 1とTable 2から、主な関係を取り出すと次のようになります(pp. 1349–1350)。
| 検討した関係 | 原著の結果 |
|---|---|
| 倫理的に振り返る傾向と、本人の環境配慮行動 | メンバーでβ = .13、リーダーでβ = .27。いずれも正の関係 |
| リーダーの実践と、メンバーの環境配慮行動 | 正の関係(β = .35) |
| リーダーの実践と、同僚どうしの働きかけ | 正の関係(β = .21) |
| 同僚どうしの働きかけと、メンバーの環境配慮行動 | 正の関係(β = .32) |
表のβは尺度の違いを調整した標準化係数(standardized coefficient)で、すべてp < .05です。「行動が35%増えた」といった増加率ではなく、モデル上の関係の強さを示します。
著者らは、リーダーの実践とメンバーの行動の間に、同僚の働きかけを経由する間接的な関係も報告しています。推定値は.07で、リーダーとの直接の関係と併存しています。このように途中の変数を通じた関係を考えることを、媒介(mediation)と呼びます。
性格から行動への経路については、当初、倫理的な振り返りを経由する関係と直接の関係の両方を想定しました。しかし、直接の関係は有意でなく、最終モデルではそれを除いています。著者らが「完全媒介(full mediation)」と呼ぶのはこのモデル上の整理であり、倫理的な振り返りだけが唯一の原因だと証明したという意味ではありません。
結果を読むとき、脚注まで確かめたい理由
この論文で特に見落としたくないのは、メンバーの行動を誰が評価するかで、リーダーとの関係が変わったことです。主分析ではリーダーがメンバーを評価していますが、メンバー自身の回答に置き換えると、リーダーの行動との関係は有意ではありませんでした(β = .01、p. 1354の注3)。本人評価とリーダー評価の相関もr = .12でした(同頁の注1)。
したがって、「上司が実践すれば部下も実践する」と強く一般化するのは早計です。リーダーは自分の行動とメンバーの行動の両方を評価しており、1週間の間隔があっても、評価者に共通する見方の影響は残りえます。一方、本人にしか分からない行動があることも考えられます。どちらの評価が真の行動を捉えているかは、この結果だけでは決まりません。
さらに、同僚の働きかけがリーダーの行動に関係するという逆向きのモデルも、同程度にデータに適合しました。著者ら自身が因果の向きを確定できないと述べています(pp. 1351, 1354)。職場の社会的な関係に注目する意義と、その関係の方向を証明できたかは、別の論点です。
行動の範囲も、資源節約や再利用などに限られます。製品設計、設備投資、サプライチェーンの変更まで扱ってはいません。韓国3社の、男性・大学卒業者が多い標本で得られた結果であり、企業全体の排出削減や、他の国・職種への一般化には追加の検証が必要です(pp. 1343, 1347, 1353–1354)。
社内浸透への応用:実践と働きかけを別々に見る
以下は本記事独自の応用例です。原著で効果が確かめられた施策や、検証済みの診断尺度ではありません。
例えば、資源節約が進んでいる職場を調べるなら、「環境意識が高い人が多い」で止めず、リーダーが実際に何をしているか、同僚間でどのような知識や提案が共有されているか、その後に誰の行動がどう変わったかを分けて記録します。
| 観察するもの | 確かめたいこと |
|---|---|
| リーダーの実践 | 方針を語ることに加えて、具体的な行動が見られるか |
| 同僚間の働きかけ | 情報の共有や協力の呼びかけがあるか。単なる同調圧力になっていないか |
| メンバーの行動 | 上司の評価と本人の説明は一致するか。業務記録で補えるか |
| 業務の仕組み | 継続に必要な設備・手順・時間はあるか。善意だけに依存していないか |
2013年のAguinis & Glavas論文とつなげると、自発的な小さな実践を、どこから日常業務の仕組みへ反映するかが次の問いになります。また、Ruppらの論文は、本人が納得して関わることと圧力を感じて関わることを区別する手がかりになります。
職務として義務づけられていない行動でも、周囲に合わせなければならないと感じている可能性はあります。本論文の「自発的な行動」と、Ruppらが扱う「動機の自律性」は同じ概念ではありません。行動が生じることと、その経験が本人にとって望ましいことを別々に確かめる必要があります。
原著を読む順番
- pp. 1337–1338と1342で、自分が実践する行動と、周囲への働きかけの定義を読む。
- pp. 1343–1346で、誰が何を、いつ回答したかを確認する。
- p. 1349のFigure 1を、個人の経路と職場から個人への経路に分けて読む。図中の回答者・時点の表記にも注目する。
- p. 1350のTable 2で間接的な関係を確認する。信頼区間の下限は丸めると.00ですが、小数第3位ではゼロを含まないという表注がある。
- p. 1351の逆向きのモデルと、p. 1354の注1・注3を読んでから、実務への示唆を考える。
読み終えたら、三つの問い
- 自社で見えているのは、本人の実践でしょうか。それとも周囲への働きかけでしょうか。
- 行動について上司と本人の評価が食い違うとき、何を追加で観察すると理解が進むでしょうか。
- 自発的な実践を支えつつ、日常業務の仕組みに反映すべき部分はどこでしょうか。
対象論文
Multilevel Influences on Voluntary Workplace Green Behavior: Individual Differences, Leader Behavior, and Coworker Advocacy
Kim, A., Kim, Y., Han, K., Jackson, S. E., & Ployhart, R. E. (2017). Journal of Management, 43(5), 1335–1358.
2014年オンライン先行公開、2017年巻号掲載。
原著の掲載ページを開く ↗本文に基づく解説のデモ稿 · 2026年9月7日
ページ番号は原論文の印刷頁。応用例・読後の問いは本記事の考察です。