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原単位が改善したとき、本当に循環は進んだのか

欧州13空港のデータから、CE指標の分母と比較の条件を考える

欧州13空港・2019~2023年の公開資料による指標構築、パネル回帰、感度分析

原単位の分母CE指標公開データ
この記事の目次
  1. 利用者が増えただけでも、数字はよくなる
  2. 13空港の公開資料で、何を比べたか
  3. CEという名前の指数は、何を測っているか
  4. 旅客数との正の関係を、どう読むか
  5. 総量に戻すと、見え方が変わる
  6. 高得点の理由が、欠測にある場合もある
  7. 財務効果やデータ活用の効果は、まだ結論を出せない
  8. KPIを使う会議と、原論文の読み方に生かす
  9. 書籍・研究とのつながり

まず押さえたいこと

  • 一人当たりの負荷は、環境対策が変わらなくても利用者数の回復によって下がり得る。
  • このCE指数が直接捉えるのは環境負荷の原単位であり、再使用や材料循環そのものではない。
  • KPIを判断に使うには、総量・分母・対象範囲・欠測の扱いを確認し、指標の改善と実践の変化を結び付けて読む。

利用者が増えただけでも、数字はよくなる

例えば、空港の年間電力使用量が100万kWhで、利用者が10万人なら、一人当たり10kWhです。電力使用量が変わらないまま利用者が20万人に増えると、一人当たりは5kWhになります。これは説明のための仮の例ですが、照明も設備も変えなくても、原単位(intensity)は半分になります。

この変化は、施設が多くの人に利用されたという意味では重要です。しかし、節電設備を導入したのか、再生材の利用を進めたのか、製品や設備の寿命が延びたのかは、その数字だけでは分かりません。

Dimitriouらの論文の読みどころは、原単位を使ってCEを評価すると、事業量の変化と環境実践の変化が重なって見えることにあります。空港の研究ですが、売上高当たりの廃棄物、製品一個当たりの資源消費などを使う企業にも共通する問題です。

13空港の公開資料で、何を比べたか

研究は欧州13空港を対象に、2019~2023年のサステナビリティ報告書や年次報告書から、環境情報と経営情報を集めています。期間には、新型コロナウイルス感染症による利用者の急減と、その後の回復が含まれます。

環境側では、旅客一人当たりのCO₂排出、エネルギー使用、水使用、廃棄物発生という四つの指標をまとめます。経営側では、旅客数、従業員数、売上高、設備投資、労働災害との関係を分析します。データがそろう範囲が異なるため、旅客数・従業員数を使う基本分析は13空港・63空港年、財務と安全の変数を一緒に含める分析は10空港・46空港年です。「空港年」とは、一つの空港の一年分を一件と数える単位です。

公開データならそのまま比較できる、という設計ではありません。空港単体と運営会社グループの数値が混在する場合、指標が開示されない年、単位が不自然な数値などがあり、著者らは除外や対象の絞り込みによる確認も行っています。このデータの整え方自体が、企業のCE情報を分析するときの参考になります。

CEという名前の指数は、何を測っているか

四つの環境原単位は単位が違うため、その年の空港間の分布に合わせて標準化(standardization)し、小さい負荷ほど高得点になるよう向きをそろえます。基本の指数は、その得点を同じ重みで平均したものです。これを著者らはCE指数(Circular Economy Index:CE_index)と呼びます。

ただし、指標名と測っている内容を分けて読む必要があります。ここに含まれるのは資源使用や環境負荷の原単位です。再使用率、回収率、再生材の比率、閉鎖循環での水利用、設備寿命の延長を直接測ってはいません。環境負荷の原単位を通じたCEの代理指標(proxy)であり、循環性を網羅する尺度ではないと、論文自身も説明しています。

また、毎年の平均とばらつきを基準にするので、指数の上昇はその年の比較対象の中で位置が上がったことを意味します。全空港の負荷が同じように下がれば、実際には改善していても相対的な得点があまり変わらない場合があります。時系列で進捗を見るなら、元の物量にも戻る必要があります。

旅客数との正の関係を、どう読むか

主な分析では、空港固定効果(airport fixed effects)を使い、各空港に固有で期間中変わらない特徴を差し引いています。簡単に言えば、主に同じ空港の中で、旅客数が変わった年に指数もどう変わったかを見る方法です。空港同士の大きさの違いだけを比べる分析とは、答える問いが違います。

旅客数と従業員数を含むモデルでは、旅客数の対数の係数は0.439でした。旅客数が倍になった場合、指数が約0.30ポイント高いという関連に相当します。これは排出量が30%減るという意味ではなく、標準化した指数上の関係です。

しかし、指数の材料にはすでに「旅客数で割った値」が入っています。その指数を、さらに旅客数で説明すると、分母が増えることで得点が上がる仕組みを拾っている可能性があります。空港固定効果を入れても、こうした数式上の結び付きは消えません。そこで著者らは、原単位から総量を再構成して確かめています。

総量に戻すと、見え方が変わる

追加分析では、各原単位に旅客数を掛けて年間の総量を求め、その総量が旅客数とどう動くかを調べます。結果を読む鍵は弾力性(elasticity)です。ここでは「旅客数が1%増えるとき、総量が何%変化する関係か」を表し、1なら総量も同じ割合で増え、一人当たりの値は変わりません。

総量の指標推定された弾力性このデータでの読み方
CO₂排出量−0.220旅客数の増加と排出総量の減少が関連
エネルギー使用量0.234旅客数ほどには総量が増えない
水使用量0.161旅客数ほどには総量が増えない
廃棄物発生量1.133旅客数と比例して増える関係と区別できない

エネルギーと水には、利用者が少なくても必要な基礎的な使用があり、旅客数が回復するとそれが多くの人に配分される、という説明と整合します。CO₂については同じ期間の電源などの変化も考えられますが、原因はこの分析から確定できません。

著者らは、旅客数とCE指数の正の関連の相当部分が、こうした原単位のつくり方に由来すると解釈しています。したがって、「大きくすれば循環の実践がよくなる」という証拠にはなりません。総量と原単位の両方を見ることで、初めて改善の中身を問えるようになります。

高得点の理由が、欠測にある場合もある

もう一つの論点は、四つの指標がすべてそろうとは限らないことです。基本の計算では、欠けた指標を除き、観測できた指標だけを平均します。そのため、四項目で評価した空港と、一項目で評価した空港の得点は、そのまま同じ意味では比べられません。

例えば2023年のアムステルダムはCO₂原単位だけで得点が計算され、リスボンはCO₂と廃棄物の二項目です。観測できた項目で高得点でも、残りの項目が良好だとは言えません。論文は、主要な順位比較を少なくとも三項目そろう空港に限っています。

重みの付け方を変えたときに一部の順位が動く理由も、重みだけでなく、欠測をどう処理したかにあります。これはESG評価や社内の拠点ランキングにも通じます。何点だったかと併せて、何項目を、どの範囲のデータで評価したかを示すことが、公平な比較の前提になります。

財務効果やデータ活用の効果は、まだ結論を出せない

売上高や設備投資との関係は、推定の不確実性が大きく、安定した関連を十分に確認できませんでした。これは「CEには経済効果がない」という結果ではありません。そもそも売上高は利益ではなく、設備投資もCE専用の支出ではありません。対象も少なく、長期の投資回収を捉えるには期間が限られています。労働災害も報告の定義が空港間で異なるため、探索的な結果として扱われています。

旅客数との関連も、少ない空港数に対応した追加の推定では、有意と判断されるかどうかが対象の絞り方によって変わります。係数の符号がそろっていても、確かな効果と呼べるわけではありません。

また、原題にあるサプライチェーンのデータ分析(supply chain analytics:SCA)は、この論文では考え方の枠組みです。空港のデータ統合能力や予測分析の導入状況を測って、その効果を検証したものではありません。図の中に矢印が描かれていることと、その因果関係がデータで確かめられたことを区別する必要があります。

KPIを使う会議と、原論文の読み方に生かす

実務でこの論文を生かすなら、原単位が改善した報告に対して、総量はどう動いたか、分母の事業量はどう動いたか、実際に何の工程や設備を変えたか、という三つを確認するとよいでしょう。施設を使う人が戻った効果と、新たな環境対策の効果を、できるだけ分けて説明します。

CEを測る目的なら、それに加えて、再使用・再生材利用・長寿命化など、目指した実践に対応する情報を確かめます。この指数をそのまま自社に導入するより、指標がよくなる仕組みを理解してから、何を意思決定に使うかを選ぶための教材として読むと有用です。

原論文では、4.2節の指数の定義、表6の総量に戻した分析、表8の少数の空港数に配慮した検証、付録表A1のデータのそろい方を先に読むと、結論の意味がつかみやすくなります。その後で図1の概念枠組みと結論を読むと、実際に分析した範囲と、今後検証すべき構想を区別できます。

書籍・研究とのつながり

廃棄物とコストの研究でも、売上高で割った指標同士を比べると、共通の分母によって関係が生じ得ます。また、企業間の差(between-firm differences)と、同じ企業の年ごとの変化(within-firm changes)は別の問いです。この論文は空港固定効果で後者を扱いながら、原単位の分母の問題がなお残ることを示す点で参考になります。

発展させるなら、総量・原単位・事業量を分けて分析し、実際の工程改善や資源循環策の実施情報を重ねる方向が考えられます。KPIと社内浸透の研究では、担当者がこうした違いを理解し、需要の回復による改善と自社の対策による改善を会議でどう説明しているかも重要です。ここで述べた企業研究への展開は、本論文の直接の検証結果ではなく、研究室としての読みどころです。

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『サステナビリティ戦略の実装』北田皓嗣・安藤光展

方針を日々の仕事と意思決定につなぐという観点から、書籍とあわせて読むための本欄の考察です。

対象論文

A conceptual data-driven supply chain analytics framework for evaluating corporate circular economy performance in transport infrastructure

Dimitriou, D., Sartzetaki, M., & Karagkouni, A. (2026). A conceptual data-driven supply chain analytics framework for evaluating corporate circular economy performance in transport infrastructure. Supply Chain Analytics, 15, 100236. https://doi.org/10.1016/j.sca.2026.100236

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原著本文に基づく解説 · 2026年9月11日
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