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対象論文

Circular economy at the company level: An empirical study based on sustainability reports

Heras-Saizarbitoria, Boiral & Testa(2023)読了 約9分

「循環型」を掲げた報告書から、仕事の変化はどこまで読み取れるか

97か国の報告書を読み、CEという言葉と、活動・目標・指標の結び付きを確かめる。

97か国・1,367組織のサステナビリティ報告書1,370件を対象とした質的内容分析

CE開示活動と指標社内浸透
この記事の目次
  1. CEの宣言が増えると、何が変わったように見えるのか
  2. 何を集め、どのように読んだ研究か
  3. 「言及した」と「自社に結び付けた」を分ける
  4. 多かったのは、参加表明と従来の環境活動だった
  5. 指標があっても、CEの方針との関係を確かめたい
  6. 自社の報告書を、部門との対話の入口にする
  7. この研究で分かる範囲を押さえる
  8. 原著は、分類結果と実際の記述を往復して読む
  9. 書籍・研究とのつながり

まず押さえたいこと

  • CEへの言及の有無と、自社の何を変えるのかが説明されているかは、分けて読む必要があります。
  • この研究で多く見つかったのは団体への参加、一般的な説明、リサイクルや廃棄物管理の記述でした。
  • 開示の不足は社内での未実施を意味しません。報告書を入口に、活動の範囲、目標、実績、担当部門へ確認を進める。

CEの宣言が増えると、何が変わったように見えるのか

サステナビリティ報告書に「サーキュラーエコノミー(circular economy:CE)への移行を進める」と書かれています。その下には、廃棄物の分別、リサイクル率の向上、外部団体への参加が並んでいます。どれも活動として意味はあります。ただ、読み手としては、これまでの環境活動と何が違うのか、製品や事業の仕組みがどこまで変わったのかを知りたくなります。

この論文は、世界各地の企業がCEという言葉を何と結び付けて説明しているのかを、報告書から調べた研究です。重要なのは、CEの定義をきれいに整理することよりも、企業自身の説明をたどると、どのような活動や目標が見えてくるかという問いです。

自社のCE方針を点検する担当者にも、他社の先進事例を読む人にも役立ちます。説明が整っていることと、仕事の変化が具体的に分かることの間に、どのような距離があるのかを考えられるからです。

例えば、回収した製品をそのまま再販売する事業と、製品を破砕して材料を回収する活動では、必要な品質管理や顧客対応が異なります。両方を「循環への貢献」と書くだけでは、どの仕事を変える必要があるのかが伝わりにくくなります。CEという共通語の下にある活動の違いへ戻ることが、論文を読む出発点になります。

何を集め、どのように読んだ研究か

著者らは2020年12月にGRIのデータベースを調べ、SDGsへの言及があり、所定の報告枠組みに基づく報告書を選びました。最終的な対象は97か国の1,367組織が公表した1,370件です。発行年は2018〜2020年で、64%が2020年の報告書でした。英語、スペイン語、フランス語など、計6言語の文書を分析しています。

調べ方には特徴があります。著者らは「リサイクル」「省エネルギー」などを網羅的に拾って、研究者の判断でCE活動として数えたわけではありません。まずCEという言葉や、それに直接対応する表現を探し、企業が自社の活動・目標・目的と結び付けて使っている箇所を読みました。

例えば、世界全体にとってCEが大きな経済機会になるという一般論だけなら、詳しい分類の対象から外します。一方、自社が団体に参加した、CEを方針に掲げた、廃棄物管理を進めたという説明は対象に入ります。二人の研究者が記述を独立に分類し、内容をすり合わせる質的内容分析(qualitative content analysis)を行っています。

「言及した」と「自社に結び付けた」を分ける

最初の結果は、どの段階の記述を数えるかで数字が変わるという点です。CEという言葉などが見つかったのは419件、全体の30.6%でした。その中から、自社の活動・目標・目的と関係する705の記述を抽出したところ、それらが含まれる報告書は218件、全体の15.9%となりました。

読み取ったこと該当する報告書この数字が表すもの
CEへの言及がある419件/1,370件、30.6%CEという概念が報告書に登場する
自社の活動・目標等との結び付きがある218件/1,370件、15.9%詳しい内容分析の対象になる説明がある

ここでいう「自社との結び付き」は、効果の確認までを意味しません。方針や団体への参加も含まれます。したがって、15.9%をそのまま「CEを実行している企業の割合」と読むことはできません。論文が直接観察したのは、企業が報告書の中でどこまで説明したかです。

多かったのは、参加表明と従来の環境活動だった

分類した記述では、外部団体や共同事業などとの関係が22%、CEの一般的な説明が20%でした。リサイクルが15%、廃棄物管理が12%、包装が6%と続きます。これらは分類した記述の内訳であり、それぞれの活動を行っている企業の割合ではありません。

この結果から見えるのは、CEの説明が、比較的紹介しやすい活動に集まりやすいことです。団体への参加であれば加入した事実を書けます。リサイクルであれば既存の環境活動をCEの方針とつなげて説明できます。しかし、それだけでは、資源を使う量、製品を使い続ける期間、回収後の再利用の仕組みまで、どう変えたかは分かりません。

新しいビジネスモデルや事業機会に関する記述は約4%で、著者らは、その中でも具体的な実施内容が十分に説明されていない例を指摘しています。修理、再使用、再製造などへの明示的な言及もきわめて少数でした。報告書から見えるCEの範囲が、廃棄段階の対応に寄りやすいというのが、この研究の中心的な発見です。

もちろん、包装の改善やリサイクルは、それ自体が重要な場合もあります。ここで問われているのは、その活動の価値の低さではなく、活動がCEの取り組み全体の中でどう位置付くかです。包装だけの改善を企業全体の事業転換として説明していないか、対象範囲が読めるかという点を確認したいところです。

指標があっても、CEの方針との関係を確かめたい

もう一つ目を引くのは、著者らの読み取り基準では、CEに明示的に結び付けた固有の重要業績評価指標(key performance indicators:KPIs)を定めていた報告書が一つだけだったことです。これは、ほかの企業に廃棄物量やリサイクル率などの指標がなかったという結果ではありません。この研究は、CEと明示的に関連付けられていない既存のGRI指標を網羅的には調べていません。

実務で考えたいのは、「CEのKPIを追加するか」だけではありません。自社が何を変えたいのかと、いま見ている数字が対応しているかです。例えば、製品を長く使ってもらう方針を掲げても、工場の廃棄物リサイクル率だけでは、使用期間が延びたかは判断できません。製品回収を重視するなら、回収量のほか、再使用できた割合や、その後の行き先も確認したくなります。

これらは論文の分析を踏まえた実務への読み替えであり、論文が特定の指標セットの効果を実証したわけではありません。方針、活動、指標を一組として読むことで、何について進捗を判断でき、何がまだ分からないかが見えやすくなります。

指標を読む際は、割合の分母にも目を向けたいところです。ある製品群の改善なのか、全製品への適用なのかで、同じ高い達成率でも意味は違います。論文の問題提起を受けて、活動の名称と数値を並べるだけでなく、対象範囲が対応しているかまで点検すると、社内の進捗確認にも使いやすくなります。

自社の報告書を、部門との対話の入口にする

著者らは結果を、企業の印象を整える働きかけ(impression management)や、流行する経営概念を採り入れる動き(management fashion)と関連付けて論じています。従来の活動の一部をCE全体の転換のように見せれば、読み手は変化を大きく受け取る可能性があります。

この論点を社内で使うなら、宣伝かどうかを先に判定するより、一つの記述から仕事の中身をたどる方が進めやすくなります。例えば「再生材の使用を拡大する」という説明を選び、対象の製品・材料、購買や設計の判断基準、実績を把握する担当者、採用を難しくしている条件を確かめます。外部団体への参加についても、参加後に得た知識や取引関係が、どの案件で使われたのかを聞けます。

この確認は、報告書の文章を増やすためだけの作業ではありません。部署ごとに別々に進んでいた活動をCE方針の中で位置付けたり、方針はあるが担当者や判断基準が定まっていない箇所を見つけたりするために使えます。ここは論文の結論を、そのまま処方箋にするのではなく、社内浸透の問いへ展開できる部分です。

うまく進まなかった案件も対話の対象になります。再生材の調達を試したが品質条件が合わなかった、回収を始めたが再使用先が決まらなかった、といった経験が分かれば、単に担当者の理解を高めるだけでは解けない課題を見つけられます。報告書で紹介される成功事例の後ろに、どのような判断や調整があったのかを聞くことが大切になります。

この研究で分かる範囲を押さえる

分析対象は、もともと報告書を公表し、SDGsにも言及している組織です。企業全体から無作為に選んだ調査ではありません。また、観察しているのは主に2020年までの開示であり、この結果を現在のCE実践の普及率として使うことはできません。

さらに、企業が修理や省資源を長年実施していても、それをCEと呼んでいなければ、この方法では拾われにくくなります。反対に、CEと書かれた活動が、どの程度実施され、環境負荷をどれだけ減らしたかも、報告書の記述だけでは十分に確認できません。説明の乏しさと、活動そのものの乏しさは、区別しておく必要があります。

著者らは象徴的な利用を強く問題視しているが、この研究だけで個別企業の意図的なグリーンウォッシング(greenwashing)を確定したとはいえません。むしろ、開示から見える範囲を丁寧に押さえたうえで、活動記録や担当者への聞き取りに進むための研究として読むと、その価値がはっきりします。

原著は、分類結果と実際の記述を往復して読む

原著を読むときは、まず研究方法で、CEという言葉を探す方法と、その後の分類対象を確認したいところです。続いてTable 1で記述の構成をつかみ、Resultsに示された企業の説明例を読むと、著者らが「具体性が足りない」と判断した理由が分かりやすくなります。

その際には、同じ記述に対して「この会社は何をしたと分かるか」「効果については何が分からないか」と二つに分けてメモするとよいでしょう。最後にDiscussion and Conclusionsへ進み、観察した記述から、著者らがどこまで広い解釈を行っているのかを確かめます。

この論文は、CEの実践を否定するためのものとして読むよりも、活動の紹介と組織の変化の間を埋める材料として読むと実務につながります。報告書を読み終えた後に、「次に社内で何を確かめたいか」が一つ具体的になるなら、有用な読み方ができています。

書籍・研究とのつながり

社内浸透やKPIの研究へつなげるなら、CEへの言及、活動の記述、数量目標、実績、意思決定への利用を別々に捉える設計が考えられます。例えば、統合報告書にCEを掲げた年と、購買基準や製品設計の会議で関連指標を使い始めた時期を照合します。開示が実践の後を追う場合と、開示を契機に部門間の調整が始まる場合の両方を検討できます。

これは本論文が検証した関係ではなく、研究を延ばすための問いです。廃棄物や資源投入の実績を組み合わせれば、「CEを語ること」と「組織の仕事や資源の流れが変わること」の関係を、より直接的に調べられます。

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『サステナビリティ戦略の実装』北田皓嗣・安藤光展

方針を日々の仕事と意思決定につなぐという観点から、書籍とあわせて読むための本欄の考察です。

対象論文

Circular economy at the company level: An empirical study based on sustainability reports

Heras-Saizarbitoria, I., Boiral, O., & Testa, F. (2023). Circular economy at the company level: An empirical study based on sustainability reports. Sustainable Development, 31(4), 2307–2317. https://doi.org/10.1002/sd.2507

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原著本文に基づく解説 · 2026年9月11日
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