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報告書の文章から、企業のCEへの取り組みを測れるか

文章の比較で分かるのは、資源の循環率そのものではなく、CEをどう説明しているかです。

FTSE MIB構成40社の2017〜2022年の英文非財務報告書のテキスト分析と、企業・年固定効果を用いた回帰分析

テキスト分析CE開示地域の条件
この記事の目次
  1. 報告書を大量に読むとき、何を手掛かりにするか
  2. 企業40社の報告書と、CEの文書を比較する
  3. 語彙の「使い方の近さ」を、0から1で表す
  4. どの企業で高く、地域とどう関係していたか
  5. 「地域の循環性」も、何の数字かを確認する
  6. 実務では、順位付けより「詳しく読む場所」を探す
  7. 再利用する前に、指標の中身と結果の読み方を点検する
  8. 原著は、計算方法と付録の語彙から読む
  9. 書籍・研究とのつながり

まず押さえたいこと

  • 報告書とCEに関する基準文書の語彙を比較すれば、CEを語る傾向を継続して観察できます。
  • 文章の類似度は、回収率や再生材利用率などの実績とは異なります。実践の進展を確かめるには別のデータが必要になります。
  • この指標は企業の順位を確定するより、詳しく読む企業や年度を選び、言葉と実績の関係を調べる入口として使いやすい。

報告書を大量に読むとき、何を手掛かりにするか

企業のCEへの取り組みを調べようとすると、まず報告書が集まります。廃棄物量や再生材利用率が揃っていれば比較しやすいが、実際には対象範囲や指標の定義が異なり、文章だけで説明される活動も少なくありません。何十社、何年分もの文書を、人が同じ注意深さで読み続けるのは簡単ではありません。

この論文は、文章を数値に変える方法を提案します。企業の報告書が、サーキュラーエコノミー(circular economy:CE)を説明する文書と、どの程度似た語彙を使っているかを測るのです。材料、廃棄物、ビジネスモデルなどへの言及を、一つずつ目で数える作業を広い範囲で行えるようにする試みと考えると分かりやすくなります。

ただし、ここで測る「CEの文章にどれだけ近いか」と「資源がどれだけ循環しているか」は別のものです。この区別を置いてから読むと、方法の便利さと、実務で補うべき情報の両方が見えてきます。

企業40社の報告書と、CEの文書を比較する

対象はイタリアの代表的な株価指数FTSE MIBの構成企業40社で、製造業など26社と、サービス・金融業14社を含みます。各社のウェブサイトから、2017〜2022年の英語版の連結非財務報告書を収集しました。一部の企業・年度では文書を取得できていないため、40社が6年間すべて揃う分析ではありません。

比較の基準になる語彙は、欧州委員会、OECDなどの機関や学術論文を含む文書群から作られました。本文では135文書と説明されています。特定の企業を理想例にするのではなく、CEの考え方や実践を説明した文書に共通する言葉を、比較の手掛かりにする発想です。

さらに著者らは、文章から得たスコアと、企業の年齢や規模、財務情報、イタリア国内の地域の条件との関係を調べています。つまり研究は、文章を測る方法の提案と、どのような企業や環境でその値が高いかの分析という二つの部分から成ります。

この対象の選び方は、一定の報告条件を持つ大企業同士を比べる利点があります。一方で、中小企業や報告書を発行していない企業の活動は見えません。日本企業へ応用する場合も、統合報告書と環境データ集を混ぜると文書の性格そのものが差を生むため、まず何を一冊の比較対象にするかを揃える必要があります。

語彙の「使い方の近さ」を、0から1で表す

方法の中心は、二つの単語の組(bigram)です。「circular economy」「waste management」「business models」などを一組として数えます。単語を一つずつ見るより、何について述べているかを捉えやすくするためです。

まず、報告書の中でそれぞれの組がどのくらい登場するかを求めます。次に、CEの基準文書側でも同じ集計を行います。この二つの語彙の構成がどの程度似ているかを、コサイン類似度(cosine similarity)で表します。0に近ければ共通する語彙が少なく、1に近ければ、比較する語彙の使われ方がよく似ています。

例えば、報告書の中で材料や廃棄物、循環型の事業に関する説明が増えれば、基準文書に近い語彙構成になる場合があります。ただし、説明の内容が実施済みの活動か、将来の計画か、一般的な解説かは、語の頻度だけでは十分に区別できません。

論文では「循環性指標(circularity index)」と呼ぶが、ここではCEに関する語彙との近さを示す文章の指標として捉えます。値が0.2だから資源の20%が循環している、という読み方はできません。

また、スコアの上昇は、企業がCEという言葉を使うようになったことだけで決まるわけではありません。比較対象の語彙全体がどのような比率で現れるかを見ているからです。したがって、スコアが変わったときには、実際に増減した語と、その語が使われている段落を確認することが解釈の助けになります。

どの企業で高く、地域とどう関係していたか

記述的な比較では、金融企業より非金融企業の方が、また2000年以降に設立された企業群の方が、概してスコアが高い傾向がありました。海外子会社の比率が高い企業や、イタリア以外の欧州の投資家の比率が高い企業にも、高い傾向が示されています。ただし、これらの比較から、若さや海外展開がCEを進めたとまではいえません。

回帰分析では、企業ごとに持続する特徴と各年に共通する影響を調整する固定効果(fixed effects)を用いました。分析条件によって観測数は136〜151となります。説明変数を一年前の値にして調べたところ、地域でエネルギー源として利用される有害廃棄物の量と、文章のスコアの間に、一貫した正の関係が見つかりました。一方、廃棄物全体の同じ指標については、統計的に明確な関係は示されていません。

著者らは、地域の処理設備や制度がCEへの取り組みを支え、企業の説明にも影響する可能性を論じています。ここでの読みどころは、企業の説明を社内の方針だけで説明せず、事業を取り巻く地域の条件にも目を向けたことにあります。

「地域の循環性」も、何の数字かを確認する

地域の指標については、名前から受ける印象と、実際に測っている内容を確かめたいところです。論文は地域のリサイクルの状況として説明しているが、回帰変数は、廃棄物全体と有害廃棄物について、エネルギー源に使われる量です。製品の修理や部品の再使用、材料としての再生利用をまとめて測った指標ではありません。

例えば、エネルギー回収の設備が整った地域では、企業が廃棄物利用に言及しやすい可能性があります。それでも、製品を長寿命化する事業や、再生材への置換が進んでいるかは別途確かめる必要があります。論文の関連を「リサイクル全般が進んだ地域ほど企業も循環型である」と広げて読むのは慎重である必要があります。

地理情報にも特徴があります。著者らは2024年時点の子会社の分布を使い、その構成が分析期間を通じて安定していたと仮定します。地図の作成では、親会社の文章のスコアを子会社に割り当て、地域内の中央値を示しています。したがって、その地域の工場ごとに実際の資源循環を測った結果ではありません。

実務では、順位付けより「詳しく読む場所」を探す

この手法を実務に使うなら、文章の指標を評価の結論にせず、確認先を絞る手掛かりにするとよいでしょう。例えば、自社のスコアがある年に大きく変わったら、新しいCE方針や具体的な活動が加わったのか、それとも報告書の構成や一般的な解説が変わったのかを読みます。同業他社との差が大きければ、対象事業や使う材料の違いから確かめられます。

確かめたいこと文章の指標と合わせて読む情報
CEが経営課題になっているか重要課題、責任部署、方針・目標の説明
活動が広がっているか対象製品・拠点・取引先、実施時期、適用範囲
資源の流れが変わったか投入量、再使用量、廃棄物量、回収後の行き先

これらを照合すれば、言葉が先行している可能性も、以前からあった実践が新しい方針の下で説明され始めた可能性も考えられます。この使い方は本論文の分析を踏まえた応用案であり、文章のスコアだけで社内浸透を判定するものではありません。

担当者の業績評価に、そのまま高いスコアを目標として置くことには向いていません。望ましい語彙を増やせば評価が上がる運用では、仕事の改善より書き方の調整を促しかねません。文章の指標には「何を詳しく確認するかを知らせる役割」を持たせ、活動の進捗はそれぞれの目的に合った実績で確認する使い分けが考えられます。

再利用する前に、指標の中身と結果の読み方を点検する

基準文書に何を入れるかで、指標が捉えるものは変わります。実際、付録の頻出語には、CEや廃棄物だけでなく、気候変動や持続可能な開発、機関名も含まれています。論文は項目別の重みを人が設定しない利点を挙げるが、語の頻度と文書の選び方による影響までなくなるわけではありません。

また、文章が似ていることは、取り組みの真正性や環境効果の確認にはなりません。CEの説明を増やすだけでも値が変わる可能性があります。著者らも、象徴的な説明と実質的な説明を分ける改良を今後の課題としています。40社という範囲や、過去の子会社構成を復元できていない点も、結果を広く使う際の制約になります。

原著の年齢に関する説明にも注意したいところです。若い企業群のスコアが高いという記述比較に対し、回帰表の企業年齢の係数は正です。企業間の比較と、同じ企業の時間的な変化を使う分析は別なので、「若いことの効果まで回帰で確認した」と一括りにしない方がよいでしょう。地域との関係も、因果関係の確定ではなく、他の条件を調整した関連として読む必要があります。

業種間の差も同様です。金融機関は、資源を直接加工する企業とは違う言葉で、投融資先の変化を説明するかもしれません。材料や廃棄物の語彙が多い文書に近いことを、そのままサステナビリティへの貢献の大きさと見なすと、事業の役割の違いを取り落とします。この点でも、実際の文章に戻って読むことが欠かせません。

原著は、計算方法と付録の語彙から読む

最初に読むなら、Data and MethodologyのText Miningで、何を数え、何と比較したのかを確認したいところです。その後に付録のTable A2を見ると、実際にスコアへ影響する語彙が分かります。数式の細部より先に、「自分が測りたいCEと、この語彙が表すCEは近いか」を考えると読み進めやすくなります。

次に、企業や業種ごとの図を見て、差の理由を考えます。Table 1の回帰結果を読むときは、地域の廃棄物指標の定義と、年齢についての記述比較との違いを押さえたいところです。最後にLimitationsへ進むと、文章の指標から次にどの情報を集めるべきかが見えてきます。

この論文から持ち帰りたいのは、完成した循環性の採点表というより、大量の報告書の中からCEに関する記述を継続的に観察する方法です。材料や廃棄物の実績と照合することで、方法の価値をより確かめられます。

書籍・研究とのつながり

開示情報と廃棄物・コストの研究をつなぐには、この文章の指標を物量データの代わりにせず、両方を並べる設計が考えられます。例えば、CEの語彙が増えた企業で、その後に廃棄物原単位、再生材利用、製品回収の範囲がどう変わるかを調べます。数字が開示されていない企業についても、その欠測自体を残しながら、記述を比較できます。

さらにKPIや社内浸透へ進むなら、一般的な説明、具体的な活動、数量目標、実績、判断への利用を文章から分けて拾い、抽出結果を人が確認する必要があります。これは本論文の実証結果ではなく、文章の類似度を、組織の意思決定を調べるデータへ発展させる研究課題です。

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『サステナビリティ戦略の実装』北田皓嗣・安藤光展

方針を日々の仕事と意思決定につなぐという観点から、書籍とあわせて読むための本欄の考察です。

対象論文

Measuring Corporate Alignment With the Circular Economy: a Text-Based Circularity Index From Mandatory Non-Financial Disclosures

Pernagallo, G., Quatraro, F., & Rubichi, E. (2026). Measuring Corporate Alignment With the Circular Economy: a Text-Based Circularity Index From Mandatory Non-Financial Disclosures. Business Strategy and the Environment. Advance online publication. https://doi.org/10.1002/bse.70791

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原著本文に基づく解説 · 2026年9月11日
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