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CSRは、日々の管理の仕組みに入っているか

目標・行動ルールと、人材・文化を一緒に読む

1時点の質問票調査と構造方程式モデル(cross-sectional survey & SEM)

戦略を実行する管理の仕組み(management control systems)制度と人材・文化(formal and informal controls)先回りして取り組む姿勢(proactiveness)
この記事の目次
  1. この論文で考えたいこと
  2. 方針と行動をつなぐ、二つの管理の仕組み
  3. なぜ、その仕組みを整える企業と整えない企業があるのか
  4. 誰に、何を聞いた研究なのか
  5. 主分析で見つかった関係
  6. 「両方が必要」「長期存続に効く」と読む前に
  7. 社内浸透への応用:制度と日々の判断を照らし合わせる
  8. 原著を読む順番
  9. 読み終えたら、三つの問い
  10. 北田の視点
  11. 対象論文・出典

まず押さえたいこと

  • CSRへの対応を、成果目標・行動ルールと、人材・文化を通じた働きかけの両方から捉える。
  • 2017年にドイツ企業のトップ層175人を調査。管理の仕組みは複数項目をまとめた指標で測定している。
  • 管理の仕組みと成果の関連を示す研究。長期的な企業の生存や、制度と文化の相乗効果を直接検証したものではない。
目標・手順として明示する成果目標や行動ルールにCSRを反映する制度としての管理(formal controls)
人材・文化を通じて働きかける採用・育成や共有する価値観にCSRを反映する人材・文化を通じた管理(informal controls)
原著は二つの側面を合計指標で測定する。付録には、ルール・評価・手順の12項目と、価値観・人材育成等の8項目が掲載されている。
原著の測定内容と付録に基づく編集上の整理。二つの側面それぞれの効果や、組み合わせの相乗効果を推定した図ではありません。

この論文で考えたいこと

サステナビリティ方針を掲げ、社外にも取り組みを説明している。それでも、社員が普段使う手順や評価基準には、方針が十分に反映されていない。この距離を埋めるには、何を見直せばよいでしょうか。

FederとWeißenbergerは、CSRが、ルール・評価・業務手順だけでなく、価値観の共有や人材育成にも取り入れられているかに注目します。ドイツ企業のトップ層175人への調査から、こうした管理の仕組みが整っていることと、経営者のCSRへの考え方、周囲からの期待、企業の先回りする姿勢、そして経営成果の自己評価との関係を調べました。

Aguinis & Glavas(2013)が示した「事業戦略と日常業務に統合されたCSR」を、具体的な管理の仕組みから考える入口になります。ただし、この論文が直接測ったのは、経営者による仕組みと成果の評価です。社員の行動変化や企業の長期生存を追跡した研究ではありません。

方針と行動をつなぐ、二つの管理の仕組み

本論文の中心にあるのは、組織の方針と社員の判断・行動をつなぐ管理の仕組み(management control systems:MCSs)です。財務数値の監視に限らず、社員が何を重視し、どう仕事を進めるかに働きかける制度や実践を含みます(pp. 1–3)。

著者らは、次の二つをあわせて捉えます。

管理の仕組みどう行動に働きかけるか原著の質問項目に含まれる例
ルールや評価・手順を通じた管理(formal controls)求める行動や判断基準を、手順・制度・評価に反映する資源の無駄を減らすプログラム、顧客苦情への対応手順、不正を通報できる手続き、評価における同僚・取引先への公正さ
価値観の共有や人材育成を通じた管理(informal controls)大切にする価値観や、仕事を進めるうえでの考え方を共有する経営者による価値観の説明、価値観を考慮した採用、CSRに関する対話、社員の学習への支援

表は原著の定義と付録を、本記事で要約したものです(pp. 3, 12)。後者は「制度がない」「非公式の雑談だけ」という意味ではありません。原著では、文書化された行動規範(code of conduct)も、価値観に働きかける側の項目に入っています。文書の有無だけで二分すると、この論文の分類を読み違えます。

著者らの問題意識は、個々の道具を一つずつ見るだけでは、社員が置かれている管理の全体像を捉えられないことです。理念を説明していても評価が別の方向を向いていれば、仕事の優先順位は定まりません。一方、手順や数値目標を設けても、なぜそれを重視するのかが共有されなければ、意味が伝わらない可能性があります。このため著者らは、複数の管理を組み合わせて考えることを提案します(pp. 2–3)。

なぜ、その仕組みを整える企業と整えない企業があるのか

理論上の出発点は、企業活動が社会的に妥当なものとして受け入れられること(organizational legitimacy)です。著者らは、企業が周囲からの期待に応え、活動を続けるうえでの支持を得るために、社内の管理を変えると考えます。その際に、三つの条件を取り上げます(pp. 2–4)。

第一は、顧客、社員、株主、行政、地域社会などの関係者が、責任ある行動を企業にどの程度求めているかです。ただし、この研究では関係者本人に聞いたのではなく、経営者が受け止めている期待(perceived stakeholder expectations)を測っています。

第二は、経営者自身がCSRをどれほど重要だと考えているかです。周囲から求められているという認識と、自分が重要だと考えることを区別します。測定には、利益を得ることを超えた社会的責任や、企業の存続・収益性にとっての倫理・責任の重要性に関する項目を用いています。

第三は、変化や機会を先取りして動く企業の姿勢(proactiveness)です。競合他社の動きを待つか、自ら新しい製品・サービスや仕事の方法を打ち出すか、といった会社全般の姿勢を捉えます。CSR担当者個人の積極性や、CSR活動だけの先進性を測った変数ではありません。

この三つがCSRに関わる管理の仕組みと関係し、さらに、その仕組みと先回りする姿勢が経営成果に関係する、というモデルです。社会的な期待が自動的に現場の行動になると考えず、その間に経営者の認識と管理の仕組みを置く点が、この論文の読みどころです。ただし、社会的な支持の獲得そのものを測り、この説明経路をすべて検証したわけではありません。

Gond & Moser(2021)が議論する、個人を扱うCSR研究と組織内の実践の接続を考える際にも参考になります。ここでは経営者の認識を取り上げていますが、一人ひとりの解釈が組織の仕組みに変わる過程を直接追ったわけではない、という区別が必要です。

誰に、何を聞いた研究なのか

調査は2017年6月から10月に、ドイツの複数業種の企業を対象として実施されました。参加に同意したトップ層1,324人へオンライン質問票を送り、175人から回答を得ています。回答率は約13.2%です。大企業が約65%を占め、中小企業も含まれます(pp. 4–5)。

分析は、複数の変数間の関係を一つのモデルとして推定する共分散構造分析(covariance-based structural equation modelling)です。推定の不確実性を評価するため、元の標本から繰り返し標本を作るブートストラップ(bootstrapping)を5,000回行っています(p. 6)。

結果を読むうえで、次の測定上の特徴が重要です。

測定したもの回答・集計の内容直接には分からないこと
関係者からの期待経営者が11種類の関係者から感じている期待を合計各関係者が実際にどの程度要求しているか
CSRに関わる管理の仕組み付録ではルール・評価・手順の12項目と、価値観・人材育成等の8項目。合計指数として分析個々の仕組みの効果、二種類の管理の相乗効果
経営成果過去3年間について、主要競合と比較した経営者の評価財務データによる実績、CSRの社会・環境成果、将来の存続

経営成果の4項目は、売上高利益率、事業を続けるための資金の確保、望ましい成長、受注・売上状況の改善です(p. 12)。著者らはこれを成長や長期的な存続に関わる成果として位置づけていますが、実際に何年間生き残ったかを観察した指標ではありません。「過去3年間」を振り返る回答も、3年にわたる追跡調査とは異なります。

管理の仕組みについては、異なる項目を足し合わせ、全体としてどれほど整っているかを表す指標を作っています。こうした、複数の構成要素から概念を表す測り方を、形成的な測定(formative measurement)と呼びます。二種類の管理をまとめて測ることと、「両方がそろうと効果が増幅する」と検証することは別です。

主分析で見つかった関係

Figure 2と本文では、五つの仮説について、いずれも予想した方向の有意な関係が報告されています(pp. 7–8)。

仮説検討した関係標準化係数β有意確率
H1関係者からの期待と、CSRに関わる管理の仕組み.342p < .001
H2経営者が感じるCSRの重要性と、管理の仕組み.307p = .003
H3企業の先回りする姿勢と、管理の仕組み.245p = .017
H4企業の先回りする姿勢と、経営成果の自己評価.480p < .001
H5CSRに関わる管理の仕組みと、経営成果の自己評価.244p = .003

βは尺度の違いを調整した関係の強さを表す標準化係数(standardized coefficient)です。「管理を整備すると利益が24.4%増える」という増加率ではありません。また、係数の大小だけで、施策の優先順位や投資対効果は決められません。

関係者からの期待、CSRの重要性、先回りする姿勢には、管理の仕組みを経由した経営成果との間接的な関係も報告されています。推定値はそれぞれ.083、.075、.060です(Table 7、p. 9)。こうした途中の変数を通じた関係を、媒介(mediation)と呼びます。ここで得られたのは、想定したモデルと整合する統計的な関係であり、管理の仕組みを整える過程を時系列で確認した結果ではありません。

「両方が必要」「長期存続に効く」と読む前に

この論文から実務に持ち帰れるのは、CSRへの賛同や社外への説明とあわせて、日常の管理の仕組みを見るという視点です。そのうえで、結論の範囲を三つに分けて考えたいところです。

第一に、二種類の管理を幅広く見る意義と、両者の補完関係の実証は区別します。 本研究は合計指数を使っており、それぞれの独立した効果や、片方だけを整えた場合との差を直接推定していません。同じ合計点でも、ルール・評価が充実した企業と、価値観の共有が進んだ企業では内訳が違う可能性があります。

第二に、管理の存在、社員の実際の行動、社会・環境への成果は別です。 項目には不正通報や公正な評価などが含まれますが、実際に通報しやすいか、社員が評価を公正だと感じるかは調べていません。変動報酬に関する項目も、業績目標との連動を尋ねており、CSR目標との連動を明示してはいません(p. 12)。項目名から、測った以上の内容を読み込まないことが重要です。

第三に、一時点の自己報告では、原因と結果を確定できません。 経営状態のよい会社ほど管理の整備に資源を使えるという向きも考えられます。同じ経営者が仕組みと成果の両方を答えているため、回答者に共通する見方の影響も残りえます。著者らは回答傾向などを確認していますが、それで因果関係が確定するわけではありません。回答者の自己選択とドイツの制度環境も、一般化の限界として挙げています(pp. 5, 11)。

原表の整合性にも注意が必要です。著者らは補足的な回帰分析が主分析と整合すると述べていますが、Table 6の「先回りする姿勢→管理の仕組み」は−.015と掲載され、主分析の正の係数と食い違います(pp. 7–9)。本記事はFigure 2と本文が一致する主分析を紹介し、補足分析まで一貫して確認されたとは扱いません。誤植か分析上の違いかは、掲載内容だけでは確定できません。

社内浸透への応用:制度と日々の判断を照らし合わせる

以下は、本記事独自の応用例です。原著で検証された導入手順や診断尺度ではありません。

例えば「調達で環境と人権を考慮する」という方針を実務に移すなら、社員の理解度だけでなく、取引先を選ぶ基準、例外時の相談先、評価との関係、判断を学ぶ機会をあわせて確かめます。

確かめる場面ルール・評価・手順を見る問い価値観の共有・人材育成を見る問い
取引先を選ぶ価格以外の条件は、選定基準にどのように反映されているか担当者が、なぜその条件を重視するか説明できるか
要求が両立しない納期・価格・環境・人権が衝突したとき、誰に相談できるか迷った事例を話し合い、判断の理由を共有できるか
担当者を評価する短期的な価格低下だけが評価されていないか方針に沿った判断を、上司が日常的に認めているか
取り組みを見直す手順の利用状況と結果を、どの記録から確かめるか担当者の経験や取引先からの意見が、見直しに届くか

大切なのは、項目の数を増やして合計点を上げることではなく、同じ場面で社員に届く要求がどう組み合わさっているかを見ることです。これは本論文の問題意識を、合計指数では捉えきれない実際の運用へ広げる読み方です。

Hahnらの論文とあわせると、方針を日常業務に反映した結果、社員が葛藤や身動きの取りにくさを感じる場合も検討できます。また、Kimらの論文は、制度の外側で、上司の実践や同僚間の働きかけを見る手がかりになります。管理の仕組みを整えることと、現場でそれがどう経験されるかを往復して読むと、社内浸透の課題が具体的になります。

原著を読む順番

  1. pp. 2–3で、個々の管理手法を単独で見ることへの問題提起と、二種類の管理の定義を読む。
  2. p. 12の付録で、何を「管理の仕組み」「経営成果」として測ったかを先に確認する。制度が存在することと、運用や成果を区別する。
  3. pp. 4–6で、回答者、調査時期、合計指数の作り方を確認する。本文の項目数の説明には不整合があるため、付録の20項目と成果4項目、本文の指数範囲20–120、Table 2も照合する。
  4. p. 8のFigure 2とp. 9のTable 7で、直接の関係と間接的な関係を分けて読む。補足分析のTable 6は本文との食い違いにも注意する。
  5. p. 11の限界を読んでから、結論にある「長期的な存続」や「二種類の管理を同時に取り入れる」という主張が、測定結果をどこまで超えているかを考える。

読み終えたら、三つの問い

  1. 自社のCSR方針は、どの業務手順・評価基準・学習の機会に反映されているでしょうか。
  2. ルールや評価が求めることと、経営者や上司が日常的に伝える価値観は、同じ判断を支えているでしょうか。
  3. 管理の仕組みが「ある」ことから、社員の判断や社会・環境への成果が「変わった」ことへ進むには、何を追加で観察すべきでしょうか。

北田の視点

制度があることと、判断に使われることを分ける

書籍の第7章では、行動を促す仕掛けと継続を支える仕組みを、第8章では階層ごとの判断を扱っています。この論文を重ねて考えたいのは、目標やルールの存在と、それが実際の仕事で使われることの違いです。たとえば、投資提案に環境面の記入欄を設けたとき、会議で何が問われ、選択肢がどう変わったかまで追ってみたい。

Federらは複数の管理の仕組みを合計した指標を用いており、制度と価値観への働きかけを組み合わせる相乗効果を確かめたわけではありません。書籍の設計論を実証済みと受け取るのではなく、自社ではどの仕組みが、どの判断を支えているかを確かめる入口として読みます。

書籍とのつながり

『サステナビリティ戦略の実装』北田皓嗣・安藤光展

  • 第7章「行動できる環境づくり」— 仕掛けと仕組みのハイブリッド
  • 第8章「社内浸透の取り組みと組織階層」

対象論文

Towards a holistic view of CSR-related management control systems in German companies: Determinants and corporate performance effects

Feder, M., & Weißenberger, B. E. (2021). Journal of Cleaner Production, 294, 126084.

2021年1月26日オンライン公開、2021年巻号掲載。

原著の掲載ページを開く ↗

本文に基づく解説のデモ稿 · 2026年9月7日
ページ番号は原論文の印刷頁。応用例・読後の問いは本記事の考察です。

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