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対象論文

Management control for sustainability: Towards integrated systems

Beusch, Frisk, Rosén & Dilla(2022)読了 約9分

サステナビリティを経営管理に統合するとは、何をつなぐことか

工業部品メーカーの長期事例から、指標、仕事の分担、経営と現場の対話を読み解く。

スウェーデンに本社を置く多国籍工業企業1社の縦断的事例研究。2004~2018年の展開を、2013~2015年の14人・26回の面接と、その前後の調査・資料・追跡面接から検討。

経営管理への統合経営と現場の対話ビジネスモデル
この記事の目次
  1. 同じ会議で数字を見ていても、仕事はつながっているか
  2. 15年の展開を、異なる立場の管理職から捉える
  3. 統合を、三つに分けて考える
  4. 指標の統一と、責任の移動は別々に進んだ
  5. 対話は、報告の中身と優先順位を変える
  6. 社内で理解されても、顧客が買うとは限らない
  7. 部品を売る仕組みから、長く使える仕組みへ
  8. 統合の成果と、まだ分からないこと
  9. 原著は、三つの統合を具体例に戻しながら読む
  10. 書籍・研究とのつながり

まず押さえたいこと

  • 統合には、情報をつなぐこと、仕事の責任をつなぐこと、異なる立場の理解をつなぐことがある。同じKPI一覧を使っているだけでは十分ではない。
  • 社内で目標や課題を話し合う仕組みは、既存業務の改善を支えた。一方、新製品や新事業には、顧客が何に対価を払うか、規制や技術がどう変わるかを確かめる仕組みも必要だった。
  • 本事例では、経営陣と中間管理職の考え方が完全に一致しなくても、対話によって取り組みを継続できた。ただし、統合すれば必ず環境成果や事業成果が高まると実証した研究ではない。

同じ会議で数字を見ていても、仕事はつながっているか

経営会議の資料に、売上、利益、CO₂排出量、労働災害の数字が並ぶようになりました。これは前進です。しかし、環境目標が未達でも担当者の報告だけで終わり、設備投資や製品開発の判断は以前のままということもありえます。情報を一緒に見られることと、仕事の決め方がつながることには距離があります。

この論文は、通常の経営管理の仕組み(management control systems: MCSs)と、サステナビリティの実行を支える管理の仕組み(sustainability control systems: SCSs)の統合を調べています。ここでいう管理には、数値による監視だけでなく、会社が大切にする価値、行動上の基準、目標の確認、経営陣と現場の対話が含まれます。

問いは、両方の仕組みをどう結びつければ、サステナビリティを日常業務と戦略の中で扱えるのか、というものです。

15年の展開を、異なる立場の管理職から捉える

対象は、スウェーデンに本社を置き、100か国以上で事業を行う工業部品・組立品メーカーです。論文では匿名のMECHと呼ばれています。研究は2004~2018年の15年間にわたる戦略と管理の変化を扱いますが、15年間ずっと現場に滞在した調査ではありません。

初期の経緯は先行する調査も用いて把握し、中心となる現地調査では、2013年6月~2015年3月の22か月に、14人へ計26回の面接を実施しました。CEO、財務、サステナビリティ、人事などの経営層と中間管理職が含まれます。その後も2018年まで追跡し、新CEOや財務部門への聞き取り、年次報告書などから変化を確認しています。

同じ会社でも、経営者は将来の製品や社会的役割を語り、中間管理職は足元の採算や実行条件を気にします。その違いを残したまま、会社の仕組みがどう変わったかを読めるのが、この事例の強みです。

統合を、三つに分けて考える

著者らは、統合を三つの側面から捉えます。実務では、どこがつながり、どこで途切れているかを点検する区分として使えます。

統合の側面実務で確かめること
情報・測定方法の統合(technical integration)財務と環境・社会の情報を、業績の確認や戦略の検討で併せて使えるか
責任と仕事の統合(organizational integration)専門部署に任せきりにせず、購買や製造などが自分の責任として扱うか
理解の統合(cognitive integration)立場による見方の違いを話し合い、互いの判断を理解できるか

三つは同時に完成するとは限りません。測定の仕組みが不十分でも、管理職同士が情報を持ち寄って判断できる場合があります。反対に、共通のシステムが整っても、担当と権限が分かれ、互いに話さなければ仕事はつながりません。

また、理解の統合は、全員が同じ価値観になることとは違います。本事例では、異なる考え方を持つ人が対話し、相手の前提を理解する過程が重視されています。

指標の統一と、責任の移動は別々に進んだ

MECHは、以前は別々だった財務、環境、労働安全衛生の報告を、2015年に稼働した共通の業績管理システムへまとめました。財務とサステナビリティで二重に報告する負担が減り、関連する情報を併せて確認できるようになります。

一方、すべての項目が同じように扱えたわけではありません。従業員の状態を詳しく調べる調査は18か月に一度で、月次の業績報告にはなじみにくい。地域社会への貢献などでは、よい指標や目標そのものを定める難しさが残りました。新しい取り組みのたびにKPIが増え、何を優先するかが決まっていないとの指摘もありました。

責任の面では、供給者の行動規範への適合確認と監査を含むリスク管理が、サステナビリティ部署の関与する業務から、購買部門の業務へ移りました。ここでは、数字を一か所に集めるだけでなく、実際に取引先を選ぶ部門が責任を持つという変化が起きています。

対話は、報告の中身と優先順位を変える

CEOは現場を訪ねる際、財務だけでなく、事故、顧客対応、地域での活動についても尋ねていました。論文でいう対話を通じた管理(interactive use of controls)は、このように上司と部下が状況を確かめ、課題や判断を議論する使い方です。業務の検討会議でも、それまで扱われなかった環境・社会の話題が増えていました。

ただし、会話を増やすだけでは解決しない問題もあります。ある管理職は、直属の上司からの質問には応じる一方、人事評価に影響しないサステナビリティ専門家からの依頼は後回しになると説明しています。情報は階層を通るほど選別され、経営の意図も現場の実態も伝わりにくくなります。

そのため、直接の対話や部門を越えた議論には、認識のずれを確かめる役割がありました。著者らは、こうしたやり取りが、測定や責任分担の不完全さを補ったと解釈しています。単に会議の回数を増やせばよい、という結論ではありません。

社内で理解されても、顧客が買うとは限らない

新製品では別の難しさが現れます。MECHは2007年から、省エネルギー性能を高めたE-lineという製品群を展開しました。自動車、航空機、風力発電では、規制や燃料効率への要求が需要を支えました。しかし一般産業の顧客には、長期の省エネ効果より、購入時の追加費用を重く見る企業が多かったのです。

経営陣は長期的な製品革新を重視し、中間管理職の多くは改善による収益性を重視していました。対話とCEOの継続的な支援によって開発は長く続きましたが、期待した需要は十分に広がりません。2016年には、製品群の売上目標を達成できないとの判断から、E-lineとして売上と環境効果を別途集計・報告する活動が打ち切られました。

ここから著者らは、社内の対話と、戦略の前提を外部情報で問い直す管理(strategic validity controls)を区別します。既存工程の改善を進める能力と、顧客が対価を払う新事業を見つける能力は、同じではありません。

部品を売る仕組みから、長く使える仕組みへ

その後の展開では、センサーによる状態監視と保全が、新しい契約の可能性を開きました。部品が傷む前に状態を把握し、修理や交換の時期を判断できれば、顧客の停止時間や在庫を抑え、回収部品の再製造にもつなげられます。

従来の部品販売では、部品が長持ちするほどメーカーの交換品売上が減るという利害のずれがありました。これに対し、部品、保守、状態監視をまとめた包括料金型の契約では、長寿命化によって提供側の費用も抑えられます。機械の稼働や生産量などのKPIに追加報酬を結びつける契約も想定されていました。

この変化は、環境性能の高い製品を営業が説明するだけでなく、誰が何にお金を払うかを見直す方向です。ただし、研究が示すのは、その事業モデルが展開され始めたことと、企業が説明する効果の仕組みです。包括料金型の契約があらゆる顧客で成功した、あるいは環境負荷を一定量減らしたという比較検証ではありません。

統合の成果と、まだ分からないこと

この研究は、既存の管理を少しずつ変えながら、サステナビリティを戦略や業務へつなげられる可能性を示しています。同時に、測りにくい社会面、部署間の優先順位、顧客需要といった課題も残しており、統合が完成した成功モデルとして読むのは適切ではありません。

対象は1社で、対話の効果だけを取り出して推定した研究でもありません。研究チームには同社のサステナビリティ管理職が含まれます。この著者は他の社員への面接と初期分析には参加せず、他の著者が分析を進めていますが、企業内部からの理解が持つ利点と解釈の偏りの可能性の両方を考える必要があります。

また、利益と環境・社会の目的が常に両立するとは限りません。統合の程度に加えて、両者が衝突したときに何を優先し、どの課題が議論から外れたかを見ることも大切です。

原著は、三つの統合を具体例に戻しながら読む

まず結果の4.2節で指標、4.3節で対話、4.4~4.5節で製品と事業の変化を読むと、問題の違いが分かります。次に2.3節の三つの統合へ戻り、同じ会社でも何が進み、何が難しかったかを整理すると理解が深まります。図1は、社内の対話と外部需要への注目を区別する整理です。

自社で考えるなら、重要な環境KPIを一つ選び、どの情報と一緒に見ているか、誰が業務を変えられるか、意見が違う人と何を話し合うかを確かめます。新事業のKPIなら、顧客が評価する価値と契約上の収益がつながっているかも加えると、この論文の射程を具体的に生かせます。

書籍・研究とのつながり

サステナビリティ戦略の社内浸透を考えるうえで、この論文は「情報が伝わったか」から「責任と意思決定がどう変わったか」へ視点を広げます。書籍で扱う実装の問いと結びつけるなら、専門部署が説明する段階、事業部門が責任を持つ段階、部門間で判断を調整する段階の違いを読むことができます。

研究上は、同じKPIを導入した後でも、対話の相手や経営陣の問いかけによって使われ方がどう異なるかを追うことが考えられます。また、製品の環境性能と、回収・保全・再製造に利益が生まれる契約の違いは、社内浸透とサーキュラーエコノミーの事業設計をつなぐ論点です。

あわせて考える

『サステナビリティ戦略の実装』北田皓嗣・安藤光展

方針を日々の仕事と意思決定につなぐという観点から、書籍とあわせて読むための本欄の考察です。

対象論文

Management control for sustainability: Towards integrated systems

Beusch, P., Frisk, J. E., Rosén, M., & Dilla, W. (2022). Management control for sustainability: Towards integrated systems. Management Accounting Research, 54, 100777. https://doi.org/10.1016/j.mar.2021.100777

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原著本文に基づく解説 · 2026年9月13日
応用例・実務への問い・書籍との接点は本欄の考察です。

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