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CSRは、社員にとってどんな意味を持つか

会社の説明と、社員自身による解釈を分けて考える

理論・概念の整理(conceptual paper)

経験の意味を解釈する(sensemaking)仕事を通じて感じる意義(meaningfulness through work)社員発の取り組み(bottom-up CSR)
この記事の目次
  1. この論文で考えたいこと
  2. 「意味を解釈する」と「意義を感じる」を分ける
  3. 個人・組織・組織の外を、一緒に見る
  4. 「社員から始まる」とは、何が変わることか
  5. 何を示した論文で、何はまだ確かめていないか
  6. 社内浸透への応用:説明会の後に、何を聞くか
  7. 原著を読む順番
  8. 読み終えたら、三つの問い
  9. 北田の視点
  10. 対象論文・出典

まず押さえたいこと

  • 取り組みの意味を解釈すること(sensemaking)と、仕事を通じて意義を感じること(meaningfulness through work)を区別する。
  • 個人の価値観、組織での進め方、家族や社外との関係が組み合わさって、CSRの経験を形づくると考える。
  • 9つの命題と10の研究上の問いを示す理論論文。社員発の取り組みの効果を実証した論文ではない。
個人の内側仕事に求めること・自分の価値観(intraindividual)
組織の内側仕事への反映・社員の関与(intraorganizational)
組織の外側家族・社外の関係者・文化(extraorganizational)
これらを手がかりにCSRの経験を解釈する過程(sensemaking)から、仕事に意義を見いだすこと(meaningfulness)を考える。
原著Figure 1(p.1065)に基づく編集上の整理。要因は例示であり、その組み合わせや効果が本論文で検証されたわけではありません。

この論文で考えたいこと

会社が製品の長寿命化を掲げ、設計や修理の仕事にも反映し始めたとします。ある社員は「自分の技術が資源の節約に役立つ」と感じ、別の社員は「短期の売上目標と両立しない仕事が増えた」と感じるかもしれません。これは本記事の仮想例ですが、同じ方針への反応が違う理由を考える入口になります。

AguinisとGlavasが問うのは、社員が企業の社会的責任(corporate social responsibility:CSR)をどう解釈し、仕事を通じて意義や価値を感じるようになるのかです。社員を方針の受け手としてだけでなく、自分の仕事と社会との関係を考え、働きかける主体として捉えます。

2013年の論文が、CSRを事業戦略と日常業務にどう統合するかを論じたのに対し、本論文は、その取り組みを経験する人に焦点を移します。2017年にオンライン先行公開され、2019年の巻号に掲載された論文です。

「意味を解釈する」と「意義を感じる」を分ける

中心概念は、取り組みの意味を経験や状況と結びつけて解釈すること(sensemaking)です。例えば「なぜ今この目標なのか」「自分の仕事とどう関係するのか」「売上との衝突をどう理解すればよいか」と考える過程を指します。著者らは、曖昧さや複雑さ、経済的な目標と社会・環境への責任の緊張があるCSRを、この過程が生じやすい場と捉えています(pp. 1058, 1064)。

一方、仕事を通じて自分の活動に意義や価値を感じること(meaningfulness through work)は、その経験の質です。「この仕事をすることには価値がある」と感じることを指し、単に方針の意味を理解できたこととは異なります。

したがって、解釈が進めば必ず肯定的になるわけではありません。会社の説明と現場の評価基準が食い違っていると理解した結果、疑問が深まる場合も考えられます。著者らも、CSRが負担や不信につながる可能性を議論しています(pp. 1069, 1076–1078)。

もう一つ区別したいのは、取り組みをどう捉えてほしいかを他者に働きかけること(sensegiving)です。経営者による方針説明はその一例ですが、社員が自分の経験と照らして解釈する過程全体を、会社からの発信だけで代替することはできません(p. 1069)。

個人・組織・組織の外を、一緒に見る

著者らは、解釈に影響する要因を三つの領域に整理します。以下の要因は原著の例示であり、網羅的な一覧や診断チェックリストではありません(Figure 1, p. 1065)。

見る領域原著が挙げる要因読むときの着眼点
個人の内側(intraindividual)仕事に何を求めるか、道徳的な自己像、環境や人々の暮らしを大切にする価値観同じ取り組みでも、本人が大切にすることによって意義が違うのではないか
組織の内側(intraorganizational)戦略・日常業務へのCSRの統合、経営主導か社員発の提案か方針の内容に加え、仕事への反映の仕方や関与の余地が解釈を変えないか
組織の外側(extraorganizational)家族、社外の関係者、国の文化仕事の意義を、職場の中だけで説明しきれるか

例えば、仕事に何を求めるかという志向(work orientation)には、生活を支える報酬を重視する志向(job orientation)、昇進やキャリア上の達成を重視する志向(career orientation)、仕事を通じた社会への貢献を重視する志向(calling orientation)があります。著者らは最後の志向が強いほど、CSRと仕事に感じる意義の関係が強くなると提案しています(pp. 1065–1066)。この区別を、社員の優劣をつける分類として使う必要はありません。

組織の外に目を向けると、CSRによって便益を受ける人との接点(beneficiary contact)が論点になります。自分の仕事が誰にどう役立つのかを知る機会が、意義を見いだす過程に関わるという提案です。著者らは、社外から企業への要求だけでなく、社員が社外の人に働きかけ、その関係を変える方向も扱っています(p. 1071)。

さらに重要なのは、これらの要因が組み合わさるという点です。環境を大切にする社員でも、取り組みが通常業務に反映されず、追加の仕事として求められれば、経験は変わるかもしれません。原著は、個人・組織・組織の外の要因が互いに関係を変える可能性を、今後確かめる問いとして示しています(pp. 1072–1074)。

「社員から始まる」とは、何が変わることか

著者らは、経営側が主導する取り組み(top-down CSR)と、社員の提案や働きかけから生まれる取り組み(bottom-up CSR)を区別します。後者を理解する手がかりとして、二つの行動が挙げられています。

一つは、課題の重要性を上司や組織に働きかけること(issue selling)。もう一つは、仕事の進め方や関係、仕事の捉え方を自分から調整すること(job crafting)です。前者は他者や組織の関心を動かすこと、後者は自分の仕事のあり方を変えることに重点があります(pp. 1069–1070)。

ここでの読みどころは、社員が参加したかどうかだけでなく、取り組みの意味や進め方に働きかけられるか、という問いです。著者らは社員発の取り組みの方が仕事に意義を感じやすいという命題を提示しますが、それは本論文で実証された優劣ではありません。経営側の責任や資源配分を不要とする議論でもありません。

また、事業戦略と日常業務に統合されたCSR(embedded CSR)について、本論文は統合の程度が企業内でも異なると論じます。全社の方針が同じでも、部門や職務が違えば、社員が経験するCSRは同じとは限りません(pp. 1068–1069)。

何を示した論文で、何はまだ確かめていないか

これは、先行研究を組み合わせて説明の枠組みを提案する理論論文(conceptual paper)です。独自の質問票調査や実験によってモデル全体を検証した研究ではありません。著者らは、9つの理論上の命題(propositions)と10の研究上の問い(research questions)を示しています。

読むときは、命題の番号を「確認された結果の数」と取り違えないことが大切です。Figure 1も、効果の大きさを示した図ではありません。個々の要因に関連する先行研究があっても、それらを組み合わせた仕組みまで検証済みになるわけではありません。

また、著者らは仕事に意義を感じることと満足・意欲などとの関連について先行研究を踏まえていますが、本論文の中心は、CSRの経験から意義が生じる過程です。社員が意義を感じたことから、企業業績や環境・社会面の成果の改善までを一続きに断定することはできません(pp. 1063–1064)。

理論上の課題としては、個人の解釈を時間の流れに沿ってどう捉えるか、複数の領域の要因をどう測るかが残ります。著者らは、社員の語りや経験の履歴を扱う質的な研究の可能性も指摘しています(pp. 1076–1077)。

社内浸透への応用:説明会の後に、何を聞くか

以下は、原著の枠組みを使った本記事独自の応用例です。検証済みの施策効果や診断尺度ではありません。

製品の長寿命化を進める会社なら、「方針を知っているか」の次に、設計・営業・修理の担当者が、その方針をどのような仕事の経験と結びつけているかを聞きます。単に認知度を測る場合には見えない、価値の実感や業務上の衝突を確かめるためです。

確かめること会話や観察の例
意義を感じた具体的な経験どの仕事で、誰に役立ったと感じたか。抽象的な賛同だけで終わっていないか
方針と仕事の間の食い違い長く使える製品を提案するとき、売上目標や評価基準とどこで衝突するか
社員が働きかける余地現場の提案によって、仕様・手順・部門間の役割は実際に変えられるか
社外との接点利用者や修理現場から、便益と困りごとの両方を知る機会があるか

研究につなぐなら、説明会の前後の意識だけでなく、具体的な出来事、その解釈、提案や仕事の変更を時間順に追う設計が考えられます。発言と業務記録を照らし合わせることで、「意義を感じた」と「組織の仕事が変わった」の間を検討できます。これは本記事が提案する研究への展開です。

原著を読む順番

  1. p. 1065のFigure 1で、個人・組織・組織の外という三領域を確認する。図中の要因が例示であるという注記も読む。
  2. pp. 1058–1060、1064で、経験を解釈する過程と、仕事に意義を感じることを区別する。
  3. pp. 1068–1071で、戦略・業務への統合、社員発の働きかけ、社外の受益者との接点を読む。
  4. pp. 1072–1074で、要因の組み合わせが「結果」ではなく「研究上の問い」として示されていることを確認する。
  5. pp. 1076–1078で、研究方法への示唆と、CSRが負担や不信につながる可能性を読む。

読み終えたら、三つの問い

  1. 社員に伝えたい会社の説明と、社員が自分の経験から得た解釈は、どこで一致し、どこで違うでしょうか。
  2. 同じ方針でも部門ごとに経験が違うなら、その違いを何から説明できるでしょうか。
  3. 「仕事に意義を感じた」という変化を、誰への便益やどの業務変更と結びつけて確かめるでしょうか。

北田の視点

説明会の後に、社員がどう語り直すかを聞く

書籍の第5章では、日常業務と会社・社会とのつながりを考える研修を扱っています。この論文の、経験を解釈する過程(sensemaking)という視点を重ねると、研修後に聞きたい内容が変わります。方針を覚えたかに加えて、「自分の仕事の見え方がどう変わったか」を、本人の言葉で確かめたくなります。

その語りが会社の期待と違っていても、すぐに理解不足とは判断できません。担当業務や社外での経験から、別の意味を読み取っている可能性があるからです。納得できた点と引っかかった点の両方を聞くことで、次の説明だけでなく、仕事の進め方を見直す問いにもつなげられそうです。

書籍とのつながり

『サステナビリティ戦略の実装』北田皓嗣・安藤光展

  • 第3章「考える力の醸成と解像度の向上」
  • 第5章「サステナビリティ・リテラシー」

対象論文

On Corporate Social Responsibility, Sensemaking, and the Search for Meaningfulness Through Work

Aguinis, H., & Glavas, A. (2019). Journal of Management, 45(3), 1057–1086.

2017年オンライン先行公開、2019年巻号掲載。

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本文に基づく解説のデモ稿 · 2026年9月7日
ページ番号は原論文の印刷頁。応用例・読後の問いは本記事の考察です。

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